11話-貴族と精霊魔道甲冑(1/2)

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今回は分割位置が凄く中途半端になってしまうので長文気味になっています。

それではどうぞ。

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「売れちまったな・・・」


「売れちゃったっすね・・・」


「「・・・・・・・・・」」


「急に居なくなっても探さないで欲しいっす」


「いや、逃げるなら俺も連れてけよ?」


「え?流石に生贄がいないと逃げ切れないじゃないっすか!」


「俺を生贄にすんな!・・・はぁ、何も起きないといいけどな」


「そうっすねぇ・・・あの様子からすると大丈夫だと思うっすけどね」


「だなぁ・・・善良そうに見えたしな」


「・・・いざとなったら一緒に死んでくれるっすか?」


「待て待て!大丈夫だろ!ちゃんとテイムもしてあるし登録もちゃんと移してある!何かあっても向こうさんの責任だ!」


「「ハァ・・・」」


二人して憂鬱になる。そう、せーちゃん、精霊魔道甲冑が売れてしまったのだ。


貴族相手に。


話は少し遡る。


「いやぁ!冒険者のお客さん増えたっすね!」


「そうだな。やっぱインパクトはあっただろうからな」


「そっすね~!せーちゃんのおかげっすよ!ありがたやありがたや」


他の鎧と一緒に並んでいる精霊魔道甲冑のせーちゃんに祈る。


「おうよ。お前よりコイツの方が営業に向いてるぜ!」


「なんですとっ!あんなに体張ったのに!」


「体張っただけだろ?」


「それはそうっすけども。おや?」


ガラガラガラ・・・

店前の通りに一台の馬車が走る。

装飾はなく、シンプルでありながら上品な馬車である。

御者の人族の男はピシッとした黒のスーツと金髪に白髪の混じり始めた年齢という出で立ちであるが、スーツの上からでもよく鍛えられた肉体が見える。


「あれお貴族様っすかね?」


「あ~・・・どうだろうな?隠居した大商人とかもあるかもしれんが金持ちには変わりないだろうな」


「お金持ちいいっすね~。アクセサリーショップ辺りで爆買いでもしたんすかね?イイナー」


イイナーとは言いつつ面倒なので来ないで欲しい。棒読みである。

そしてそれはドミニクも同じだろう。


「ウチでも買っていくかもしれねぇぞ?看板の大剣とか」


「あんな邪魔にしかならんもん誰も買わないでしょ!」


「そりゃそうだ!」


「「あっはっはっは!」」


ピカッ!!

置きっぱなしだった鏡面仕上げにした盾に反射した光が当たり御者は眩しそうに眼を逸らす。その拍子に手綱を引いたのか馬の動きが乱れてしまう。


「「・・・・・・・・・・・・」」


ガラガラ・・ピタッ

乱れた馬を見事に諫め、馬車が店の前で止まる。


「おや?お隣の宿屋からちょっとオーバーランしたっすね。あんまり御者の腕はよろしくないみたいっすね?」


「いやいや、うちの正面の店に用事があったかもしれねぇだろ?あんまり人様を悪く言うものじゃねぇ」


「それはそうっすね。これは失礼したっす。・・・中の人も降りてきたっすね」


「そうだな」


「なんかこっち指さしてないっすか?」


「そうだな。あれはトイレか?とか話してるんだろ」


「こっちに歩いてきてるっすよ?」


「自意識過剰じゃないか?」


「「・・・・・・」」


「そうだ!今日は奥の在庫確認をする予定だったっすよ!いやぁ!忙しい忙しい!店番は任せたっす!・・・グェ!」


後ろの襟元をゴッツイ腕が掴んで離さない。


「お前だけ逃がすかよ!」


「放してくださいっす!せーちゃん助けて!・・・せーちゃん?なんで助けてくれないっすか?あ・・・そんな目で見ないで//」


「ふ、せーちゃんがお前の言うことだけ聞くと思ったら大間違いだぜ?お前が帰った後どれだけ一緒にいると思ってるんだ?」


ドヤ顔で自慢されるがそれはそうだろう。

店に住んでいて四六時中一緒にいる相手と日中しか会わない相手。

危険な場合でもなく冗談交じりの言葉だったのでテイムしたと言っても動かなかったのだろう。サブマスターとしてドミニクを登録したし。


「チィ!そいつは盲点だったっす!くぅ・・・」


「諦めろや。ほれ、椅子から立ってシャキッとしてろ」


「しゃーないっすね。しゃきっ」


「口で言わんでええ」


コツコツ・・・

足音が聞こえる距離まで近づいてきた。

もう入口のドアを開ける頃だろう。


「・・・分かってるな?」


「はいっす。流石に僕でもふざけるわけにはいかないっす」


僕らは伊達に二人で四六時中一緒に仕事をしてきたわけじゃない。

阿吽の呼吸という奴だ。

ガチャリ。ドアが開き二人組が足を踏み入れる。

それと同時に動き出す・・・!


「「いくぞ(っす)!」」


「「申し訳ございませんでしたぁあああああああ!!」」


スライディング土下座をかます。

完璧なシンクロ。完璧な角度だ。

競技なら満点だったことは間違いない。パーフェクトだ!

二人組の足先丁度一メートル先で静止して相手の出方を伺う。

唯一見えている相手の足元にはピカピカに磨かれた革の靴。

明らかに一般庶民ではない。

舐めろと言われてもこれは余裕だな?

むしろ芸術品を穢す名誉に与れることにゾクゾクしそうだ。


・・・どうやら動揺している雰囲気がする。

ふふふ・・・先手の土下座とは!屈辱的なポーズにより相手の溜飲を下げるのを狙う・・・ものではない!

やられた方に混乱を誘発し、相手の社会的地位が高ければ高いほどダメージが大きい。弱者にのみ許された最強の攻撃なのだよ!さぁさぁ!どういう手に出る!?


「いや、よく分からないが頭を上げてくれないか?」


スタンダードな防衛法に出たな?だが定石と呼ばれるものは有用であるからこそ定石と呼ばれるのだ!・・・まずい!?


「す・・・すまねぇな・・・うぐぅ!」


素人のドミニクが素直に顔を上げようとするのを横腹を殴りつけ静止する。


「ば・・・馬鹿っすか!面を上げろって言われてもすぐ上げちゃダメっす!

二回目で初めて上げるっすよ!」


「そ・・・そうだったのか!そりゃすまねぇ!」


危なかった!まさかこんな初歩的なカウンターに引っかかるとは!

冷汗が垂れる。


「いや、宮廷にはそういう作法はあるが庶民向けの店でそんなこと気にしなくていい。私も一市民として来ているのでな?普通にしてくれると有難い」


・・・?何を言っている?その手に乗った瞬間『ご無礼!』ザックリとかないよな?本当に?本当に大丈夫なの?

そんな疑問を視線に込めてお付きの御者さんへ視線を向けるが困ったような苦笑いで頷いてくれる。どうやら本当に大丈夫そうだ。

主人であろうもう一人に顔を向けるとそこには10代前半のプラチナブロンドに金眼のイケメン。困ったような表情でも絵になってやがる。服装は庶民風に見えるが明らかに材質が違う。

・・・これは不味いな。どこからどう見ても貴族である。そしてあの髪色と眼の色には覚えがある。あまりふざけて居ると間違いなくあの世行きだろう。仕方がない。


「申し訳ございませんでした。普段通りの接客をさせていただきますが無作法がございましてもご容赦ください」


「あー、申し訳ねェ。俺は敬語が使えないが見逃してもらえると助かる」


「いやいや、構わないとも。私のことは、あー、ニコラと呼んでくれ」


「私はニコラ様のお付きのセバスティアン、セバスとお呼びください。どうぞよろしくお願いします」


この空間の中で朗らかな笑顔を浮かべるセバス。

さすがザ・執事という名を冠している男だ。

最初こそ困惑をしていたようだが今では穏やかな笑顔の仮面を張り付けている、プロだ。


「それでこんな店に何の用事があったので?自分で言うのもなんだが、

ニコラさん?達のような客が来るのは初めてなんでな」


「そうだった。王都第三騎士団、団長のチャールズは知っているな?」


「ああ、この間ロングソードの注文を受けたな。何か問題でもあったので?

騎士団の規格通りに作ったはずだったが」


「いやいや。そうではない。問題があったのではないのだよ。

チャールズも散々自慢して回っていたしな?」


「はぁ、でしたら何で・・・?」


「うむ。この間私もその剣を見せてもらう機会があってな。家宝の品かと聞けばここで注文したというではないか。私も欲しくなったので購入しに来たというわけだよ。

というかここは武具店だろう?それ以外に用事などなかなか無いと思うのだが?」


「・・・それはそうだな。じゃあ取り合えず店頭に出してるやつでも見るか?」


「そうさせてもらおう」


「見るのはロングソードでいいか?奥にまだあるから取ってくるが」


「それは助かる。それでは見させてもらうぞ」


接客を丸投げしていたドミニクは奥に引っ込んでいってしまった。

チィ・・・ついに自分の番が回ってきてしまった、


「ニコラ様。ロングソードだとこの辺りになりますね」


ドミニクの作品の中でも高価な商品群へ案内する。

安物でも品質は胸を張って保証できるがお貴族様には見栄もあるだろう。最低限の装飾は必要だ。


「ふむ。確かに素晴らしい出来だな。刀身を見ても良いか?」


「もちろんですとも!ご自由に抜いてみてください」


「ありがとう。では失礼して」


抜き放たれた刀身には装飾こそないが艶めかしい色気がある。

無性に切れ味を確かめてみたい。振ってみたいと思わせるような、どこか魅了されそうな雰囲気を醸し出す。


「・・・やはり素晴らしいな。こんな剣を打てる人物が名を知られていないとはな」


「そうなんですよ!店主は凄腕なのに全然有名になろうとしないんです!

品評会とか出せばいいとこ狙えると思うんすけどねえ?」


「そうだな。この剣をそのまま出すだけでも平均以上は狙えるだろう。

チャールズに打ったというロングソードなら優勝候補で間違いないだろうな」


「おぉ!やっぱりそうですか!やっぱり僕の目に狂いはなかったですね!

ところでニコラ様はどんな剣がご入用なのですか?ロングソードということは伺ってますが?」


「ふむ。そうだな・・・実用的でかつあまり装飾過多ではない方が良いな。

将来を考えると騎士団と同じ仕様の剣がいい。

まだ体が出来てないからショートソードもいいかも知れん」


「なるほど!分かりました!当店に置いてある武具は全部実用品なのでご安心を!

・・・儀礼剣なんて置いても買い手がいないので。

装飾は後から追加出来ますから無装飾を選んでも大丈夫ですよ!

あと短い剣がいいって事ですけど、訓練だとどんな剣を使ってるんですか?」


「訓練だと木剣を使ってるぞ?あれだとロングソードの長さでも振れるからな。それがどうかしたか?」


「なるほど。それでしたらショートソードを使うのはやめておいた方が良いかもしれないですね」


「なぜだ?自分の体にあった重量の物がいいと思うが」


「よく勘違いされますけど、ショートソードとロングソードは全く別物ですので。

振り方や体の使い方が違いますね。短剣と長剣みたいなものと言えば分かりやすいですかね?

将来的にロングソードを使う気なら変な癖がつくので止めた方が無難だと思うところです。ハイ。」


「ふむ、そんなものか。しかし残念だな。来年から通う学園に持っていきたかったのだが」


「そうですねぇ・・・木剣で訓練しているならそのまま使い続けるか訓練の指導者の指示に従うのが良いと思います。ショートソードでロングソードの動きをしろっていう指導をされるかもしれないですしね。

・・・一応ロングソードでも軽量剣は打てなくてもないですけども」


「そうだな。確かに先に教官に問い合わせるべきだろうな。

それで軽量のロングソードとはどういうことだ?」


「鉄剣は重いですからね。なのでミスリルみたいな上位金属や魔物由来の品ならば木剣とそう変わらない重量で打てると思いますよ」


「そうか・・・だがミスリルの剣など学生が持つような代物ではあるまい?」


「大体一億からってとこですかね?お貴族は兎も角として一般人にはまず持てないです。例外は稼ぎの大きい上位冒険者くらいですか」


「冒険者か・・・この店は冒険者も来るんだろう?ミスリルのロングソードは置いてないのか?」


「うーん。見覚えはないですけどちょっと店主に聞いてみますね」

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