10話-魔道甲冑(3/3)

「さて、この子が売れないのはぴったりサイズの肉体の使い手がいないからっすよ」


「そうだな?探して売り付けに行くか?」


「いえいえ、そんな人がいないなら逆転の発想っす!肉体を持たない使い手に使ってもらえばいいっす!」


「は?そんな都合のいいやつなんかいないだろ?レイスなんかねじ込んだら100%襲われるだろ?」


「ふっふっふ・・・人類側のそんな都合のいい生物?がいるじゃないですか!」


「なんだそりゃ?」


「そう!精霊っすよ!」


「精霊を鎧に入れるのか?」


「そうっす!剣に入れれば魔剣に!鎧に入れれば魔鎧に!

・・・純粋な魔鎧とは用途が違うっすから精霊魔道甲冑ってとこで」


訓練場で集まってきてお店までついてきてしまった精霊を入れることにする。

一番人に興味がありそうな個体を引っ掴み鎧に押し付け沈み込ませる。

精霊とは精神体である。それを肉体、この場合は鎧に定着させるためにはエンチャントが必要だ。

これが唯一の弱点となるため鎧の最も装甲の厚い心臓の部位に設置する。

主となる者に絶対の忠誠を捧げることを契約として刻んで。

対価はエルフの血である。


「おっし!完成っす!ちゃんと動くっすか?」


精霊魔道甲冑は慎重に動きを確認する。

指の関節

手首の関節

肘の関節

肩の関節


指先から順番に全身の動きを確認したあとに作業台から体を起こし床にゆっくりと立ち上がる。


「おぉ!完璧っすね!」


「ああ、まさかこんなことが出来るとは思わなかったぜ」


「どっかおかしなところはないっすか?」


精霊魔道甲冑は首を振る。


「そっすかそっすか!それなら安心っすね!ところでせーちゃんは戦えるっすか?

無理そうならお手伝いさんをやってもらうっすけど」


「せーちゃん?」


「そう!精霊魔道甲冑のせーちゃんっす!で、どうっすか?」


せーちゃんは少し悩んだ後に大丈夫だと頷く。


「それは良かったっす!では裏庭で動いてみてもらうっす!」


「それは大事だな。じゃあロングソードとカイトシールドでも持ってくか」


「はいっす!じゃあ行くっすよ!」


3人でゾロゾロと裏庭に向かう。


「とりあえず好きなようにやってみるっすよ!」


コクリと頷いたせーちゃんは跳ね回り剣舞を舞いながら魔法を乱発する。

確かに板金鎧は重い。だが本来は中に入る人間の方が重いのだ。しかしこの精霊魔道甲冑には肉体がない。つまりは普通に鎧を着ている人間よりも圧倒的に軽く、少ない魔力で素早く動けるのだ。当然声帯もないが中身は精霊である。何の問題もなく精霊魔法を使える。


「早え!てか全然余裕で戦えるじゃねーか!!」


「はっはっは!これは想像以上っすね!さすが精霊といったところっすか?

龍脈から無限に近い魔力を吸収出来るっすからね。鎧が耐えられるぎりぎりまで強化できるんじゃないっすか?

肉体がない分、肉体への身体能力強化は出来ないっすけど鎧への強化は全力でかけ続けられるっすから」


「それは・・・ヤバいな?」


「ヤバいっすね。純粋無垢な戦闘マシーンが完成してしまったっす」


「おい!どうすんだよ!」


「一応話した感じは大丈夫とは思うのですけどね?ぶっちゃけ強化版デュラハンってとこっすね!とりあえず隷属魔法でテイム状態にしときますね?」


「出来るのか?」


「大丈夫と思いますよ?というかダメだったら売った先で暴れられるかもしれないじゃないですか!」


「そりゃそうだが。てか、売る気だったのか?」


「そうっすよ?鍛冶屋が作った武具を売らずにどうする気だったんすか?

ふふふ、ボケるにはちょっと早いんじゃないっすか?」


「まだボケとらんわ!というか出来るならさっさとやってしまえ」


「りょうかいっす~」


「というわけで隷属魔法を掛けさせてもらってもいいっすか?ちゃんと売り先は選ぶっすから」


鎧はコクリと頷き胸元に赤い複雑な文様が浮かび上がる。


「おいおい、そんなんでいいのかよ?」


「いいみたいっすよ?ほら、隷属紋出てますしテイム完了っす!」


「マジかよ・・・で、こいつどうするんだ?意思があるんだろ?そのまま倉庫に入れるわけにもいかねーし。部屋でも用意しないとダメか?


ドミニクは真剣に悩み始める。


「ドミニクの旦那は優しいっすねー?精霊は元々その辺に漂ってるような存在っす。

このお店自体気に入ってるみたいですし嫌ならここに入ってこないですよ。他の鎧と一緒に立たせとけばいいっすね」


「それは流石に・・・そんなのでいいのか?」


せーちゃんは頷く。


「マジかよ・・・じゃあ売れるまで店に立っててもらって用心棒でもしてもらうってことでいいか?」


「それでいいと思うっすよ?ね?」


コクコク


「うんうん、そうっすよね!よし!これでめでたしめでたしっすね!

僕の財布も助かってドミニクの旦那も新商品が出来てよかったよかった!」


「そうだな。で、幾らで売る気だ?」


「そっすね・・・元値が300万+エンチャント300万ってとこっすね?精霊も付与してますし?試用で動かして血で汚した分を差し引いてもそんなもんっすかね?」


「自分で動いて戦えるって考えたらちいと安い気もするな」


「そのくらい安くしとかないと作った僕らは兎も角として、知らない人からしたら怖いっすからね」


「それもそうだな。そのくらいで売っといてくれ」


「了解っす!売れるかはしらないっすけど。じゃあお仕事再開するっすか!」


「だな。店に戻るぞ」


「へーい。せーちゃんも行くっすよ」


ぞろぞろと連れたち店内に戻る。

朝には居なかった新しい店員を連れて。

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