8話-魔道甲冑(1/3)

「フハハハハ!フゥハハハハァハハ!!!げほっげほ。遂に完成したぞ!」


作業台の前で高笑いをする僕と呆れた顔のドミニク。


「何がだよ?ってか売り物の鎧に何してんだよ」


「まぁまぁ、いいじゃないっすか。軍仕様じゃない板金鎧なんか誰も買わないっすよ?」


「バッカ!お貴族様とか放浪騎士様の目に留まって買っていくかもしれんだろうが!」


「そんな人が来店するの見たことないっすけどね?おっと肉串おじさんは貴族でしたね。アブナイアブナイ。

冒険者もちょこちょこ来てくれるようになったっすけどこんなもん買っていくような人いないですしね」


「そりゃおめぇ、駆け出しには無理だろ。コイツは300万だぞ?一、二年は暮らせる金額だ」


「でしょ?それに冒険者なら艶消しの方が喜ばれるっすけどこれはピッカピカの艶々仕様ですしね。

それにこんなもん買うような人はオーダーメイド品買うんじゃないっすか?

わざわざ1サイズしかない自分の体格に合うかも分からないもん買わないでしょ?」


「・・・まぁ、なぁ?調整出来るにしても限度はあるしな。

関節の位置とか考えるとジャストフィットは難しいだろうな」


「本当に何で作ったのやら?というわけで手を加えてもいいという判断をしたっすよ!」


「今更お前に言っても聞かないだろうしいいけどな?」


「おろ?思った以上に聞き訳が良くて困惑するっすが?」


「呆れてんだよ。お前の給料の1年分の商品に勝手に何してんだよ。

・・・まぁ、元より悪くはならんという確信があるのもあるがな」


「任せてくださいっすよ!超強力な鎧になった!・・・ハズっすよ?」


「何で疑問形なんだよ?」


「そりゃあ実験する前に声かけられたっすからね?実際に使ってみるまでは言い切れないっすよ!」


「そりゃそうだな。で、何をやったんだ?パッと見じゃ分からんが?」


「ふっふーん!鎧の内側を見てくださいっす!」


鎧の内側をのぞき込んだドミニクの目に映ったのは細かい線の群れ。

まるで血管のような赤い線がびっしり書き込まれている。

端的に言ってグロい。


「内側?うわ!キモッ!何だこの細かい模様!いや、エンチャントってのは分かるが?」


「そうっす!コイツは強化魔法っすね!」


「強化?鎧の硬度でも上げるのか?」


通常、鎧にエンチャントする場合はそうである。

硬くしたり軽くしたり火や雷に耐性を持たせるといった具合だ。

だがこの鎧のコンセプトは違う。


「それもあるっすけど、身体能力強化の魔法っすよ!」


「ほ~。魔法が使えないヤツには良さそうだな。だがこのクラスの装備が買えるやつなら自前で使えるんじゃねーのか?中堅以降だろ?」


「使えるでしょうね?」


「じゃあダメじゃねーか」


「まぁまぁ、落ち着いてくださいっす。旦那が言ってるのは自分の肉体にかけるやつでしょ?コイツの身体能力強化は鎧そのものにかかるっすよ。

ホラ、線みたいな模様がいっぱい描いてあったでしょ?」


「あぁ、あのキモイやつな?」


「キモイ言わないでくださいっす!あれは神経の模写っすよ。外骨格の魔物を参考にして人型にアレンジしたっす」


「神経だ?やっぱグロじゃねーか。で?そんだけ手間かけてなにか利点はあんのか?」


「そりゃ当然っすよ!疑似神経を通して魔力を筋肉の代わりに動かすので鎧に筋肉が内蔵されたようなものっすね。肉体だけじゃなくて金属の鎧にも負荷が分散するので割と無茶が出来ると思うっすよ。自前の身体能力強化と鎧の身体能力強化で疑似的に二重強化がかかるっすから単純にパワーが二倍になるんじゃないかと?当然魔力の消費も二倍っすけどね」


「ふぅむ、確かに身体能力強化魔法を全力で使って肉体が先に悲鳴を上げるってのはよく聞く話だからな。鎧と負荷が分散されるならいつも通りの強化量だと肉体負荷も半分になるってことか・・・いいんじゃねぇか?」


「でしょでしょ!なんで今まで一般的じゃなかったか謎っすけども?」


「だなぁ?このくらいなら思いつきそうなものではあるが・・・エンチャントの魔法陣の書き込みとかが大変だったんじゃねーか?仕事でやるなら大分金取らないとダメだろ?」


「そうっすね。僕がやって一週間ってとこなので他のとこだと一か月くらいっすか?

となると300工数で安くても30万ってとこっすかね?それプラス触媒ってとこっすか?」


「阿呆、職人が1時間1000ガネー程度で仕事受けるかってんだ。店が維持できんわ!5~10倍くらいじゃねーか?」


「ふ~む・・・じゃあ150万~300万ってとこっすか!・・・ひょっとして独立した方が儲かるっすかね?」


「そりゃそうだろ?お前ならそれが一週間で出来るんだろ?じゃあその数倍稼げるってこった。独立するか?」


「え?嫌っすよ?自分で仕入れから受注販売、果ては責任まで負わないといけないとか面倒すぎるっす!」


当然のように断る。お金が増えるのはいいことだが気楽な雇われが良いのだ。

それにこの生活に満足している現状わざわざ面倒ごとに首を突っ込もうとは思わない。


「だろうな。お前はそういう奴だからな」


「よく分かってらっしゃる!これからもよろしくお願いするっすよ?」


「わかったわかった。で、その鎧テストするんだろ?裏庭でやるか?」


「いえ、武器を振り回すだけじゃなくて動き回りたいので訓練場借りたいっすね」


「じゃあツテが出来た第三騎士団のとこ聞いてみるか?」


「いえ・・・冒険者ギルドのとこにするっす!」


「なんでだ?お前冒険者でもねーだろ?一応、一般人にも公開はされとるが」


「そりゃ営業活動っすよ!強力な武具を売ってる店として周知してやるんっすよ!

・・・店の半分が調理器具に浸食されてるっすよ?それはそれでいいっすけどやっぱり単価が高い武具をガンガン売ってしまいたいっす!」


「まぁなぁ。剣とか鎧は高級品だが鍋とか日用品はどうしても安いからな。

じゃあ宣伝に行くとしてお前、剣なんか振れるのか?どう見ても魔法使い型だろ?」


「エルフを舐めてないっすか?長命種らしくちゃんと履修済みなのでご安心あれ!

あ、鎧着るの手伝ってもらっていいっすか?」


「はいはい・・・てか、サイズ合ってないのはどうするんだ?」


「・・・まぁ、動きづらいだけだから短時間ならなんとかなるでしょ?」


「まぁな。武器はどうする?派手に行くなら看板に使ってるクソデカ大剣にするか?」


「・・・一応持ってみますか」


店の前に出て大剣の固定用の金具を外す。


「まさか本当に持てるとは思わなかったわ」


ドミニクが驚いている中、

刃長が2mを超える大型の鉄板のような大剣を握る。


「割と余裕で振り回せそうっすね!でもこんなもんどうするつもりだったっすか?獣人族でもきつそうっすけど」


「・・・若気の至りだよ」


遠い目でどこかを見ているが気持ちは分かるから深くは突っ込まない。


「・・・まぁドワーフは夢追い人っすからね。いざとなればインゴットに戻せばそれなりの価値になりそうですし?」


「馬鹿野郎!コイツを剣として使ってくれる人のところに巡り合わせるのがお前の仕事だろうが!お前使えるし買うか?」


「いらないっすよ!部屋が占領されるっす!邪魔過ぎっす!」


「だよなぁ。だから看板にしてるわけだしな」


「でしょうね!まぁ、この子を持っていくっすかね。

高位冒険者なら使える人もいるでしょうし、買いたい人が出るかもしれないっす」


「そうなるといいな。じゃあ行くとするか」

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