6話-冒険者とレイピア(3/3)

「ふぅ売れたっすね・・・」


「ああ、売っちまったな・・・」


「「・・・・」」


「あとで返品に来る確率9割と踏んでますがどう思うっすか?」


「あん?10割だろ?なんで細剣買いに行ったら馬上突撃槍買って帰ってるんだよ?おかしいだろ。絶対後で正気に返るぞ?せめて槍買うなら普通のスピアなりグレイヴなりだろ・・・」


「そっすよね・・・あのランスなら無料でもいいくらい倉庫で埃被ってましたからね。相場よりかなり割安だったからお互いに得ではあったっすけども。まさか本当に買って帰るとは思わなかったっす」


「まぁな。だが嬢ちゃんの希望を叶えるような武器が駆け出しに手に入るようなものでもないのは確かだしな。」


「そうなんっすよね。ぶっといレイピアをオーダーメイドするのもありっすけど結局槍になるんすよね」


「だよなぁ。だが一応レイピアを腰に下げてる冒険者も見るのは見るんだよな」


「そっすね~。高位冒険者かお貴族様っすかね?」


「どうなんだろうな?俺には鉄でそんなもんは打てんからな。多分高位素材の装備なんじゃないか?街中での護身用かもしれんが。」


「やっぱりそんなものですよね。それに旦那に出来ないってことは他の工房にも無理ってことですしね。というか旦那が腕を上げてしまえばいいんじゃないっすか?ほら、鉄素材で鉄板を抜けるようなやつとか」


「ばっか!そんなこと簡単に出来るか!鉄を削るような金属は作れるが針みたいな形状で貫くなんて無理だろ!」


「やっぱ旦那でも無理っすか?」


「無理・・・じゃない!いいだろう!出来るようになってやるよ!・・・そのうちな!」


「そのうちって何時っすか?」


「50年・・・いや!30年あれば!俺ならできる!」


「いやいや、僕ら長命種は30年くらい誤差っすけどルイーゼ神はその頃にはもう引退してるっすよ?」


「何で神なんだ?・・・いやしかし仕方ないだろ!そんな簡単に出来るようなもんじゃねぇよ!というかお前なら出来るんじゃねぇか?」


「出来るっすよ?鍛冶じゃなくて魔術でですけどね。僕からしたらドワーフの冶金技術の方がトンデモ技術と思うっすよ。唯の炉と身一つでどうやって成分量の調整やらやってるのやら」


「俺らには長い間積み重ねてきた技術の積み重ねがあるからな!確かに今は魔術で気軽に強力な武具が作れる。だが見てろよ?いずれ魔術を超えた武具を打ってやるからな!」


ドワーフには工房事に伝わる秘術がある。

それは金属を混ぜたり分離することで合金化する技法だ。

何万年もの間研究し、改良され続けてきたレシピが存在する。

故にドワーフの言う鉄とは唯の鉄ではない。

作る物に合わせて錆びにくい特性であったり弾性を重視した特性であったりを使い分ける。当然出来上がる代物は唯の鉄で打った物とは比較にならないほど良いものが出来ることになるのだ。これが人族とドワーフの作る製品の品質の差だろう。当然腕の違いもあるが。


「知ってるっすよ~?頑張ってくださいっす?

・・・まぁ、旦那が進んだ分だけ僕も進むので追い越させないっすけどね!」


「偶には止まれや!」


「おや?止まってても良かったっすか?そういう舐めプは嫌いだと思ったっすけど?」


驚きの表情を浮かべて問う。

ドミニクが手を抜いた相手を超えて喜ぶとはとても思えなかった。


「ああ!嫌いに決まっとるわ!正面から正々堂々と超えてやるとも!」


「楽しみにしてるっすよ。ところで僕の作品を上回るってどうやってやるっすか?

最初にここに来た時に作った剣を超えたらいいってことっすか?」


「んなわけあるか!お前の最高傑作と俺の最高傑作だ!そうじゃないと意味がねぇだろ!」


「うん?でも僕の最高傑作は旦那の武器にエンチャントする武器っすよ?

他所の工房の作品でそんな強力な武器が出来るとも思えないですし。

旦那の作品を更に強化するだけだから追い越すも何もないと思うっすけど?」


キョトンとした顔で見てくるドミニク。


「はは~ん?これは何も考えてなかったっすね?」


「ば・・・馬鹿野郎!考えてたに決まってるだろ!」


「ほ~ん?それなら説明してもらっても?」


ニヨニヨしながら問いかける。

ドミニクはエルの最高傑作は他所の工房の作品にエンチャントした作品になると思っていた。

世の中には絶対に俺より腕がいいやつはいる・・・ハズだ!悔しいところだが。

王が佩いている剣や宝物庫の宝剣。貴族が代々受け継いできた家宝の宝剣もある。

それを知らぬはずがないのにコイツは俺の作品が最高だと言い切りやがった。

職人冥利に尽きるというものだが普段が普段なだけに照れくさい。


「う・・・うるせぇよ!ってかあの嬢ちゃんのランスどうするよ?不良在庫が佩けたのは良いが多分戻って来るだろ?ぶっといレイピアでも打っとくか?」


「話題逸らしたっすね・・・まぁ、きっと大丈夫だと思うっすよ?」


「あぁん?さっきは9割で戻ってくるって言ったじゃねーか?」


「はいっす。でもあれは元々の武器だけの話っすからね」


「どういうこっちゃ?」


訳が分からないという表情をしているがそれはそうだろう。肝心なことを説明していなかったのだから。


「最後にヴァンプレートのチェックしたっすよね?」


「ああ、そうだな。それがどうした?」


「そのときにこっそり風の軽量化エンチャントしたっすよ。鑑定しないと分からない程度のものっすけども。それでも動きの補助をしてくれる分扱いやすいはずっす。いやぁ、まさか本当に買うとは思わなかったからタイミングがなくて焦ったっすよ」


「いつの間にそんなことしてたんだよ・・・てかそんなことするなら堂々とやってやりゃいいじゃねーか?」


「いやいや。エンチャントって結構高価なんすよ?さっき掛けたやつでもウン万~は貰わないといけないっす。そうポンポンやってるのがバレたら同業者に睨まれるっすよ!」


「まぁ、それもそうだな?」


「そうっす。それにそんなエンチャントをしますよ!って言ったら

じゃあレイピアに高速化と壊れにくくなるエンチャントしてくれって絶対なると思いますよ?」


「なるだろうな。で、それの何が悪いんだ?客の要望通りで万々歳じゃねーか?」


「まぁレイピアは売れるっすね。だけど余りエンチャントを前提にした装備って売りたくないんですよ」


「そうなのか?金はかかるが客も好きな武器を使えて良いモンだと思うが」


「新品のうちはそうなんですけどね?使ってくうちにエンチャントの刻印が削れたりして戦闘中に効果が切れると致命的っすから。

エンチャント無しでも戦えることが前提の物を強化するのが正道だと思うんすよ。

それにレイピア売っちゃたらランスはどうするっすか?こんなもんまず売れないっすよ?戦争では長柄槍が流行ってるから最早売れる見込みもないデッドストックっす。

・・・お金が溜まったらミスリルレイピアでも買いに来てくれるんじゃないっすかね?」


「・・・そうだな。嬢ちゃんには頑張って稼いでもらわないとな」


「そうっすよ。とりあえずランスチャージも出来るように馬上装備一式揃えとかないっすか?あの武器を使い続けるなら騎乗生物を手に入れたくなるでしょうし」


「それもそうだな。だがまた在庫が増えるな」


「まぁまぁ。軍の騎竜用装備でも作るときについでに一式作ってしまえばいいじゃないっすか」


「そんなもん受けたことないわ!エリート中のエリート様だろ。いいとこ軍馬を使った重装騎兵用ぐらいだわ」


「旦那の腕ならそのうち来るっすよ。急ぎでもないですしぼちぼち頑張りましょうよ」


「まぁなぁ。駆け出しが騎乗生物を手に入れて全身金属鎧を手に入れるとか何年かかるんだよって話だしな。軍馬なんて家が買えるレベルの金額だからな。」


「そっすよ~。今日は不良在庫が売れたんですから店閉めて肉でも食いに行かないっすか?」


「阿呆。一件売れただけで閉めるかっての。というかエンチャントしたなら素材と触媒はどうしたよ?」


「え?髪の毛を使ったっすよ?」


「髪だと?」


「そうっすよ?エルフ自体に風と土に親和性があるっすからね。それそのものが属性石の代わりに使えるっす。んで髪の毛も魔法使いの体の一部ですからね。魔法の触媒としても使えるのでを髪の毛を一房使ってエンチャントしたって具合ですよ。

・・・やり過ぎると禿げるっすけどね」


「ハァ・・・便利だが・・・他人の髪の毛が組み込まれてるって・・・なんかキモイな」


「・・・そいつを言っちゃおしめぇっすよ」




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