5話-冒険者とレイピア(2/3)

「旦那~!ドミニクの旦那~!お、いたいた」


「どうした?冒険者の嬢ちゃんは帰ったのか?」


「そうじゃなくて!すごく強いレイピアないっすか!店頭に出してないようなやつっす!」


「すごく強いってなんだよ?曖昧すぎるだろ!」


「すごく強いはすごく強いっす!鉄板を突いても折れず、ひねっても曲がらず滅茶苦茶早く動かせるやつっす!」


「それは・・・すごく強いな?」


「でしょ?すごく強いやつっす!」


「だがそんなもんないだろ?ドラゴンの牙でも使えば出来るんじゃねーか?

鉄ベースだと滅茶苦茶太くするくらいしないと無理だろうよ」


「やっぱないっすか?」


「ないな!ってかそんなもんあったらもっとウチにも余裕あるだろ!」


「全くっすね!はっはっは!」


「はっはっはじゃねぇよ!てかなんだよ?そんな無茶ぶりしやがって。嬢ちゃんの希望か?」


「そうっすね。ボアの成獣をレイピアで狩りたいみたいっす」


「は?死ぬぞ?てか、あんなもん近接でやるとかアホじゃないのか?」


驚愕の表情を浮かべる。

それには全く同感であるが。

そんなことが出来るなら猟師は皆、剣なり槍なりで狩りに出ることだろう。

それが難しいから罠なり弓なり使うのだから。


「そうっすよね~?あ、それとルイーゼさんまだいるのでアホとか言わないでくださいっす!」


「え?ば、馬鹿!そういうことは先に言え!・・・すまねぇな嬢ちゃん」


「い、、いえ!やっぱり無謀なんですね・・・」


更に落ち込んでしまうルイーゼ。


「おい!なんとかしろよ!」


こそこそと小声でやり取りを行う。


「ええ!無理っすよ!下手に大丈夫ですよ!とか言ったら本当に死ぬっすよ!そんなの目覚めが悪いっす!」


「ばっか!俺だってそうだ!てか、弓じゃだめなのか?やっぱ狩りの基本は弓だろ?」


やはりドミニクも同意見のようだ。まぁそうだろうなと思っていたが。

経験がないのは仕方ないにしても余りにも無謀が過ぎるからこそ殴ってでも止めるのだ。戦いを生業にしている以上、怪我や事故は付きものとはいえ売った相手が無駄死にするのを見て見ぬふりはしない。そんなことをするくらいなら売れない方がマシというのが二人の考え方だからだ。


「そりゃ弓が一番っすけどルイーゼさんはレイピアに憧れてたらしいんすよ。

だからメインウェポンをレイピアで何とかできないかな。と?」


「う~~んそうか・・・だがミスリルで作るとかじゃダメなんだろ?

あれなら鉄板相手でも貫けはしないにしても折れたりはしないだろうしな」


「そうっすよ!その手があったっす!」



「ルイーゼさん!ミスリルのレイピアとかどうっすか!

軽くて強いっすから大体ご期待に沿えるものが出来ると思うっすよ!」


「おう!錆びにくいしメンテナンスが殆どいらん!上位冒険者になっても使えるぞ!」


「あの?すごい高いやつ・・・ですよね?私駆け出しなんですが・・・?」


「ですよね!こんなたっかいモン使えないっすよね!ダメらしいっすよ!旦那!」


「だろうな!何で名案だ!みたいな顔してやがったんだよ!」


「ひょっとしたら大富豪の新人さんという可能性もあるじゃないっすか!」


「まぁ、そんなことも・・ある・・・か?」


「そうっすよ!とまぁ、そんなことは置いといて、良いものを思い出したのでちょっと探してくるっす!」


「おいおい!」


そう言い残し店の奥へと消えていくエル。


「しゃーねぇな。嬢ちゃんすまねぇな」


「いえいえ!気にしないでください!」


「だが嬢ちゃんはなんでレイピアに拘るんだ?憧れとは聞いたが」


「はい・・・お恥ずかしながら、勇者と姫の物語をご存じですか?」


「勇者と姫の物語?あ~、子供向けの絵本だっけか?」


この物語は世界中にベストセラーになっている作品だ。

世界を絶望に陥れた魔王を倒す為に勇者と姫が旅立つという物語である。

道中で魔王の尖兵である巨竜と戦い改心させ、共に魔王を討ってハッピーエンドという懲悪勧善物だ。


「そうですそれです!私、あのお姫様に憧れてたんですよ?

お姫様が守られるだけじゃなくてレイピアで勇者様と共に竜を倒すお話に。

あのお話みたいに誰かと一緒に戦えたらなって」


「は~、なるほどな~?あの話だと確かに姫さんは凄腕の細剣使いだったからな。

アレに憧れてるならレイピアを使いたがるのも分からんでもないな」


「はい!そうなんですよ!目にも止まらないスピードで竜を翻弄して・・・ってドミニクさんも読んだんですか?」


「おうよ!絵本は人生の教訓みたいな事が書いてあるからな!結構コレクションしてるぜ!」


「そうなんですか!私も絵本大好きなんですよ!可愛い絵が多くて」


「子供が好きになりやすい絵柄だからな。あ、でも絵本を集めてるのはアイツには内緒だぜ?」


バレたら間違いなく当分の間ネタにされるだろう。それだけは避けたいところだった。


「はい!分かってますよ」


「ハイ、ワカッテマスヨ」くすくす


目をキラキラさせながら絵本談義を始めた二人だが、

一人分多かった返事に後ろを振り向くと半笑いのエルがいる。

これは良いネタが手に入ったという表情だ。


「ナイショダヨ?いやぁ!絵本!良い趣味だと思いますよ?」


「うるせぇ!てか使えそうな物はあったのかよ?」


「はい!これです!どっこいしょ!」


カウンターの上に乗せる。

馬上突撃槍である。

ランスの中でも最短クラスの2m程度のものだ。。


「ランスじゃ「レイピアです!」


必殺ドミニクキャンセルである。


「レイピア・・・ですか?」


「そう!レイピアです!馬上でも使える大型のレイピアですよ!」


「えぇ・・・」


ドン引きするルイーゼ。

だがここで引くわけには行かない。


「ではルイーゼさんのいうレイピアとはどんなものっすか?」


「細長くて」


「細長いっすね」


「刺突武器で」


「刺突武器っすね。あ、通常品より太いのでなかなか折れたり曲がったりしないっすよ?」


「片手で使えて」


「(ランスの中では)短いから片手でも使えるっすよ?

強度がある分重いですけど最初は両手で使って格があがれば片手でも問題ないと思います!当然両手で使い続けてもいいですけどね?鎧も買うならランスレストもオマケでつけますよ」


魔力を持っている生き物を狩るとその魔力を吸収して生物としての格が上がる。

そうすると身体機能や本人の魔力も上がるのだ。

ちなみにランスレストとはランスチャージをする際に片手で保持する際に補助するための鎧に取り付けてある金具の事だ。


「ランスって言ってんじゃねーか」


「シー!とまぁこれは大型のレイピアなんっすよ!」


「う~ん、そう言われればそんな気がしなくもない?」


「んなわけねーだろ」


「さっきから五月蠅いっすね!旦那は引っ込んで!シッシ!」


「お・・おいおい・・・」


ドミニクを奥に押し込む。


「ふぅ、邪魔者は去った!で、どうです?このレイピア?持ってみます?」


「は、はい。うわ!普通のスピアより重いですね!片手だと振り回すのはちょっと難しそうです」


どうやら両手だと軽いが片手だと扱いづらい重量のようだ。

まぁ、元が馬上突撃を前提にしているとはいえ片手槍である。

この分だとすぐに片手でも扱えるようになるだろう。

特にまだ魔物を討伐したことないような者では特に格が上がりやすい。

それになんだかちょっと惹かれている模様。


「でしょうね!元はランスチャージ用ですから!でも重い分強度は申し分ないですよ。重さは総金属の槍とスピアの中間くらいですかね?対人や動物相手ならオーバースペックな頑丈さだけど魔物相手なら丁度いいのではないかと?」


「う~ん・・・そうですね。悩んでしまう所です」


ひょっとしてこれは押せばワンチャン・・・?

え?マジで?馬上槍だよ?


「もしも購入していただけるのなら値引きは頑張らせてもらいますよ?

元々軍用のキャンセル品ですからね。長さの規格が変わったとかで売れなくなっただけで品質は折り紙付きですよ」


「そうなんですか・・うーん・・・やっぱりレイピアは諦めます!」


「あら・・・それは残念ですね」


ちっ。折角のキャンセル分の不良在庫を掃かせるチャンスが!

また数年寝かせることになるのか・・・

残当ではあるが。


「ですのでそのランスを下さいませんか?」


「は?正気ですか?」


眼を白黒させながら思わず本音が出る。


「え?」


「いえいえ!なんでもないです!お買い上げありがとうございます!」


女神かな?

どうやら神というものを信じていいのかもしれない。ルイーゼ神のみだが。


「それで、ボアを狩るのに何かアドバイスとかありますか?」


「そうでした!ボアを狙うならやはり定番の弓手か魔法使いをパーティーに入れることですね」


「遠距離攻撃職ですか?」


「そうです!ボアは野生動物ですからね。腹が減ってたり出会いがしらでもない限りは逃げられます。

だから前衛が追い込んで後衛に処理を任せるんですよ。罠でもいいですけど地元の慣れてる人じゃないと難しいですしね」


「ふむふむ。だったらランスも要らないのでは?」


「いえいえ、あくまでも基本的にはですよ。子供が近くにいたりイライラしてたり何かしら理由があれば襲ってきますので。

その時に牽制が出来る長柄武器は必須です。逃げる方向の制御にも便利ですしね?」


「牽制・・なんですか?」


「そうです。牽制です。もしも討伐まで頑張るなら投槍を何本も持ち込まないと厳しいですしね。だからパーティで猟犬役をやるのが一番貢献できると思います」


「なるほど。ギルドでもパーティーを推奨してましたしメンバーを探してみますね!」


「頑張ってください!応援してますね。あ、おまけにヴァンプレートもつけておきますよ。ちょっと貸してください・・・うん!ピッタリ合います。では毎度ありがとうございました!」


ヴァンプレートとはランスのハンドガード的な円柱状の奴である。

中央に穴が開いたバックラーのような物だ。

これをチェックしながらこっそりとオマケでエンチャントを行う。

魔法陣も詠唱もないおまじない程度のものだ。

大きく効果を及ぼすものではないがこれでいい。


「こちらこそありがとうございました。また来ますね!」


「はい!またのご利用お待ちしております!」


ルイーゼは支払いを終え初めての武器を手に入れることでルンルン気分で帰っていくのであった。


店員二人組の心配を気づかぬままに。

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