4話-冒険者とレイピア(1/3)
「ふひぃ~。最近は騎士団やら調理器具やらの注文で大忙しっすね!」
「そうだな!オレがな!お前は殆ど座ってるだけだろ」
「な~にをおっしゃる!どうっすか!この僕の手によって磨き上げられた盾!まるで魔法でも反射しそうではないですか!
いやぁ~我ながら会心の出来ですね!うむ。この子はクリスティーナと名付けましょう!」
今日も何時もの武具店の何時もの光景。
店番でカウンターに座っている間、暇に飽かしてひたすら盾を磨いていたのだ。
磨き粉をつけてきゅっきゅっきゅっきゅと。
完成したのは一切の曇りのない鏡のようなピカピカの盾。
反射する自分の姿は盾の曲面によりおデブに見える。
鏡としては使えないことだろう。
光魔法での目くらましに対するカウンターには使えそうだが。
「いや、錆びがあるようなのは問題だが唯の盾にそこまでの鏡面は必要ないだろ?」
「ふふん!本当にそう思うっすか?」
「何だと?」
訝し気なドミニクに説明をしてあげようではないか!
「一対一で対峙している相手。技量は互角でお互い僅かな隙を探して見合ってるっす」
「それで?」
「限界まで目を見開いているときに反射した光が!そこに気を取られた一瞬の隙にザクー!ね?有用でしょう?」
「まぁそんなこともあるかもな?だが買ったヤツが毎度そんなにテカテカになるまで磨くか?すぐ曇る未来しか見えんが」
「十中八九やらないでしょうね?」
「おい」
武具なんてそんなもんである。
汚れ落としと錆止めに油を塗るくらいはするだろうが普段使いの実用品にそこまで手をかけることはないだろう。
「お貴族様とか豪商みたいなインテリアとして武具を飾ってるところなら磨くかもしれませんが」
「おぉ!それなら高く売れそうじゃねーか!」
「仕事してるときに反射した光が目に入ると鬱陶しくないっすか?」
「鬱陶しいな」
「というわけで却下です。と言いますかそんな展示用に作ってないっすからお金持ち宅に飾るにはデザインもイマイチですしね?」
「ぬごごご」
「まぁ鏡面ということはそれだけ表面に凹凸がないってことですから。
受け流す用途にはいいんじゃないですか?隠密性の必要があるお仕事だと邪魔でしょうがないですが」
「ハァ~。じゃあ冒険者相手には売れんな」
「ええ、しかも騎士団に売るには規格品じゃないので売れないというおまけつきです」
「じゃあ何でやったんだよ!」
「そりゃあもう客寄せですよ?」
「客寄せ?そりゃあここまで磨き上げた盾なんかそんなに見ないがそれだけで客が来るか?」
「ええ!来ますとも!このクリスティーナを店先に飾ってるだけでこのセクシーボディ!
通行人の目をくぎ付けにすること間違いなし!お客さんなんてイチコロですとも!」
「本当かよ?」
「試してみるっすか?」
「そこまで言うならやってやろうじゃねーか」
外に面した一等地にあるドミニク作の気合の入った作品とクリスティーナ(盾)を取り換える。
「う~ん、たしかにピカピカして目立つのは目立つが・・・効果あるか?」
「ありますとも!じゃあドミニクの旦那!店の前の通りを歩いてみてくださいよ!
ああ、わざわざ店の方向を見なくてもいいですよ?」
「面白いじゃねーか。じゃあやってみてやるよ」
ドミニクは少し離れたところから店の前を横切る。その瞬間
「うぉ!眩し!」
「そう、クリスティーナの後光(反射)のおかげで店の前を通る人はみな強制的に注目することになるっすよ!はっはっはっは!」
「はっはっはじゃないが」
「うわっ!眩しい!」
ドテッ。
通りから聞こえる女性の声と転ぶ音。
「「あっ・・・」」
被害者が発生した瞬間だった。
・
・
・
現場は店内に戻る。
「すまんなねーちゃん。うちの馬鹿のおかげで迷惑かけた」
「そうっすよ!まったく!おバカなんだからしょうがないやつですよね!旦那!」
ギロリと睨まれる。おっとこれはそろそろヤバいやつだな?
「い・・いえいえ!怪我もなかったのでお気になさらず!
私は新人冒険者のルイーゼです。ここは・・・武器屋さん?でしたか?」
艶やかな銀色の髪にぱっちりした紫色の瞳。装備らしいものは何も身に着けていない布の服という出で立ちの新人冒険者である人族のルイーゼは、最近武器防具を浸食してきている調理器具類を見まわして言う。
・・・そりゃあ気になるだろうなぁ。
「ああ、そうだ。ドミニク武具工房のドミニクだ。武器だけじゃなくて防具も作ってるぜ。
・・・最近は調理器具も作ってるが騎士団に装備も卸してるから冒険者でも十分使えると思うぜ?」
「ええ、旦那は腕だけはいいっすからね!僕はこの工房の店番をしてるエルピスです!エルと呼んでくださいっす!」
「はい、分かりました。私も冒険者になりたてで装備屋さんに入るのは初めてなのでいろいろとよろしくお願いしますね」
「おぉ!初めてだったのか!それはしっかり説明してやらんとな!エル!あとは任せたぜ!」
「はいっす!任せるっすよ!」
そう言い残してドミニクは奥に引っ込んでいく。
見た目通りあまり接客は得意ではないのだ。
具体的に言うとふざけた要求をする相手を容赦なくドワーフパワーで叩きのめす。
一時期冒険者で賑わっていたこともあったが彼らをボコボコにし続けた結果が今の現状である。命知らずやチンピラ予備軍が多い職業とはいえ買い物の度に頭の形が変形するのは嫌だったのだ。
「それでルイーゼさんは何か見たいものがあります?迷惑をかけたので買わなくてもしっかり説明させてもらいますけど?」
「わぁ!ありがとうございます!実はレイピアを見せていただきたくて」
「レイピアですか?ひょっとしてお貴族様だったんですか!?」
慌てて土下座の体勢をとろうとするが必死に止められる。
「いえいえ!違いますよ!素早い動きで蝶のように舞い蜂のように刺す!ヒットアンドアウェイってかっこいいじゃないですか!」
「そうですね~。格が高い冒険者だと出来るんですかね?
ウチで買うお客さんでそんなことが出来る人は見たことないですけどね!あっはっは!」
「ええ!レイピアって難しいんですか?突くだけだから軽い槍みたいなものだと思ったのですが」
「間違っちゃいないですけど・・・刃長が長いので言うほど軽くも無いし基本的に対人用ですよ?
剣相手だと根本で上手い事受ければなんとか耐えれますけどそれ以外はポッキリ折られるので対人でも練度が必要です。昔はロングソードの刀身をそのままつけたようなのもありましたけど片手でしか使えないロングソードになるだけですしね」
「そうなんですか・・・ボア退治の依頼を受けようと思ってたのですが魔物でもないですし何とかならないですかね?」
「ボアですか!?子供ではなくて成獣の!?」
驚愕の事実である。コイツは死ぬ気か!?
ボアとは猪のことである。野生動物だがデカイ。
巨大猪を見たことがあるだろうか?
乙事主様クラスのヤツだ。
最大でそのサイズにまでなる。
つまり突進されても死ぬ。
噛まれても死ぬ。
金属鎧でもそれごとかみ砕かれて死ぬ。
当然牙で突かれても死ぬ。
ついでに普通サイズのヤツでも死亡率は似たようなものだ。
太ももの大動脈を狙ってくるので小さい方が出血多量の死因になりやすい。
骨くらいなら簡単にかみ砕く。
正直こんな相手を初心者の討伐依頼の対象にしている冒険者ギルドはどうかと思う。
遠距離での攻撃手段が無いとまさに命懸けだ。
盗賊でも相手にしていた方がまだ勝ち目はある。
「え・・えぇ・・肉の採取目的なので成獣を狙うことになると思います。やっぱり難しそうですか・・・?」
「う~~~ん。どうも根本的に勘違いしてるっぽいっですね?いいでしょう!久しぶりの冒険者のお客さんです!
裏庭に剣を振り回せる程度の広さがあるのでそっちに移動しますよ」
棚に置いてあった旧式の鉢型兜を引っ掴んで外に出る。
どうせ先代の頃からの売れ残りだ。偶には役に立ってもらおう。
「じゃあコイツを投げるのでボアだと思って避けてください!」
「わかりました!」
「いきますよ!・・・そおい!」
大きく振りかぶり太もも付近を狙って投げつける。
「うわ!あぶな!」
人体の中では比較的避け難い部分だがなんとか躱す。
わざと紙一重で避けたのではなく全力でそれだ。
「へへへ!どうですか!避けれましたよ!」
ドヤ顔のルイーゼ。
ちょっと可愛らしいがこれでは厳しい。
「はい。ぎりぎりで避けれましたね。本物だとザックリ大怪我です。もっと余裕がある避け方なら別ですけども」
「えぇ~、それでも避けれたじゃないですか~?」
不満げな表情のルイーゼに説明をする。
「今のは直線で飛んでくるだけですからね?本物は相手を見ながら走るので当然方向修正してきます。それで近づけば首を大きく振りかぶるので一メートルくらいは余裕でリーチが伸びますよ?
それを避けながらレイピアで眼球を貫いて脳に達する斜め下からの突きを繰り出さないといけないです。
当然刺した後に真っすぐ引かないといけないですしひねると折れてしまいますよ」
「むむぅ。それはなかなか厳しいですね・・!あっ!でも目じゃなくて額を突いたんじゃダメなんですか?」
閃いたかのように言うがそれはそれで難しい。
「額は骨の中で一番硬い部分です。レイピアで突いたら一瞬でおしゃかですよ?杭ぐらいのゴツさがあれば大丈夫でしょうけども。
正面に立つことになるので即死させれたとしても重量そのままに突っ込んでくるので大怪我間違いないですね」
「そうなんですか・・・。ずっとレイピアで戦う冒険者に憧れてたので残念です・・・」
ルイーゼは落ち込んでしまう。無理もないだろう。
ずっと憧れてた姿をその辺の武具屋の見た目ガキンチョエルフに完全否定されてしまったのだ。
しかし現実を伝えておかないと死に直結することなので心を鬼にするしかなかった。
「う~~ん・・・ルイーゼさんはどうしてもレイピアが使いたいんですよね?」
「はい・・・何か方法がありますか・・・?」
「分からないです!だからドミニクの旦那に聞いてみましょう!」
店内に戻り店の奥に向かって声をかけるのだった。
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