3話-付与術師とロングソード(2/2)
2022/08/19 後半部分のエルの言葉遣いを修正しました。
平仮名ばかりで読みづらかったので。
話の流れは変わっていないので一度読んだ方はスルーで大丈夫です。
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数日後
がちゃり
「おはようございます!旦那ー!ドミニクの旦那ー!小生本日より復帰っす!」
「お、おう!今日からまた頼むぜ」
「?旦那ー?何かあったので?ンー?」
カウンターの奥で気まずそうに眼を逸らすドミニク。
「はっはーん?小生分かっちゃいましたよ!この名探偵の目をもってすればこの程度お茶の子さいさいっすよ!」
「な、な、何のことだ?というか喋り方どうしたよ?いつも以上に変だぞ?」
「変とは失礼な!変とは!暇に飽かして推理物の小説読んでたからじゃないっすかね?
名探偵が行く先行く先で事件に出会って解決していくっす!」
「死神の間違いだろ?」
「そうともいうっすね!それはともかくとして旦那のお悩みとは恐らく・・・」
「恐らく?」
「ズバリ!小生がいなかった間売上がゼロだったっすね!いやー!参った参った!
やっぱり看板息子?のプリチーフェイスな小生がいないとダメダメっすね!失敬失敬」
「・・・ははは!そうだな。お前が店番してくれないと全く売れなかったぜ。やっぱり店番はお前に任せたぜ」
「ふっふーん!店番のプロの小生にまかせんしゃい!でも安心してください!
この間のチャールズさんの依頼で懐は温かいですからね!数日売上がなかったくらい余裕ですよ!」
「・・・そうだな」
「・・・旦那?やっぱり何か怪しいっすね!」
「いや!なにも怪しくないぞ!」
「フム・・・さては・・・いや・・・まさか・・・」
「な・・なんだよ」
「店の売上に手を付けたっすね!もう旦那は禁酒です!禁酒!お金もないのに毎日飲みすぎなんです!」
「ちげーわボケ!店の金と財布ぐらい分けとるわ!というかドワーフから酒を取り上げるな!
酒が飲めないくらいなら死を選ぶわ!」
「おやおや?違ったっすか?でもそれくらいしか思い当たる節がないんすよねー?
依頼品は出来上がってるし休んでた間以外の売り上げもそれなりですし?」
店内をウロウロしていると布に包まれた長物が目に入る。
「おっ、コレ肉串おじさんの依頼品っすか!いや~明るいところでちゃんと見るの初めてなんっすよね~」
「ば・・ばか!」
布を取り払うとそこには宝石と金細工が施された見事な宝剣があった。
あしらわれた装飾は決して嫌味にならず、つる草を模した文様からは高貴な雰囲気を醸し出している。
「おやおや?いつの間にこんなものが?小生がいない間にこんな依頼品預かったっすか?
いやーやるっすね!お貴族様からの依頼っすか?これはしばらくいいモン食えますね!あっはっは!」
「・・・それだよ」
「ふぇ?」
「だからそれだよ。騎士団長様からの依頼品は!」
「ええええええ!いやだって!おかしいじゃないですか!僕がエンチャントしたときはこんなじゃなかったですよ!王国制式採用のちゃんとした規格品の地味目なロングソードだったじゃないですか!」
試しに鞘から抜いてみるとそこには見覚えのある不死鳥が。
宿した精霊も『やぁ?元気ー?』と挨拶してくる。
「あまり元気ではなくなりました・・・というか旦那!どうするっすかこれ!」
「どうもこうもないだろう?今日が受け渡し日だ。このまま渡すしかあるめえ?
つーか、お前も言ってただろうが?これはそう・・うん・・・営業だ!そう、営業!
だから何の問題も無い!な?うん!問題ないな!ガッハッハッハ!」
「はっはっはっは!問題ないわけあるか!コレ装飾にいくらかけたっすか!」
「ば・・ばっか!ちゃんと足は出ないようにしてあるわ!」
「で?依頼料から材料費引いたらいくら残るっすか?」
「・・・ガネー」ぼそぼそ
「ン?もういちどお願いするっすよ?」
「5千ガネーだ!」
「5千ガネーっすか!」
「5千ガネーだ!」
因みにガネーとはこの世界の通貨で日本円とほぼ同等の金額である。
「旦那のばかあああああああああ!!!!」
「な、なんだよ。そこまで怒らなくていいじゃないか」
「あれ作るのに一週間以上かかってるっすよ!」
「そうだな」
「日割すると?」
「・・・700ガネーちょいだな・・・」
「・・・パトリシアさんに包丁売った方が10倍はマシっすね?
ああ、さようなら我がお肉ライフ・・・おかえりなさいもやし生活・・・」
「ぐぬぅ。悪かったよ・・・というかお前、別にもやし生活とかしてなかっただろ?」
「ええ、してないっすよ?もやしは好きですけど。お肉食べたくなったら肉串の人にタカりにいきますし?」
「やっぱりお前は自分の生活を省みるべきだな?」
「親方知らないっすか?エルフの目と耳は前を向くために前についてるっすよ?過去は振り返らないっす!」
「そうかよ」
「そうっす!まぁ、やっちゃったものはしょうがないから営業活動として割り切るっすかね?」
「・・・そうだな。採算度外視で作っちまったからには他の衛兵連中に売れるのを祈るしかなかろう」
「衛兵じゃなくて騎士様っすけどね。あとはお貴族様にも見られる機会があればいいっすけど。
最近は冒険者連中も来ないですしお仕事増えるといいっすね?」
「だなぁ。いい加減パトリシアに包丁売るのも限界だしな」
「お嬢さんはいい人だから売上に貢献してくれてるっすけど・・・もう五本目っすよ?
さすがにこれ以上は売る方も心が痛むっす」
「あぁ、もうやめとけ。・・・鍋とかフライパンならいけるか?」
「おぉ!ナイスアイディアっすね!今度はその方針でいくっすよ!」
・
・
・
暫くの後
がちゃり。カランカラン・・・
「すまない。注文の品がそろそろ出来ていると思うのだが」
来店したのは王都衛兵隊あらため、第三騎士団の団長ことチャールズである。
ブロンドヘアーに茶目の強面の男。全身に傷跡が残る歴戦の兵士といった風貌だ。
今日はオフの日なのか市民と同じく布の服を着ている。
「チャールズさんいらっしゃいませ!ご注文の品、出来てますよ」
「ああ、エルくんこんにちは。早速だが見せてもらってもいいかい?」
「勿論です。こちらをどうぞ!ドミニクさんの自信作ですよ!」
「それは注文したかいがあったよ・・・これは!?」
布に包まれた剣を渡す。布を取り払うとチャールズの手には煌びやかで美しい宝剣が握られている。
刀身には美しく凛々しい不死鳥が。
・・・どうやら格好つけしているようでポーズを決めている。
ほら、じっと見つめてるから体勢を維持するのに疲れてプルプルし始めてるぞ?
精霊とはこんなものだ。剣に宿ったからといって性格が変わったりするわけではない。見惚れていたようだが暫くすると正気に戻る。
「ドミニクさん、これは?他の方の注文と間違えられてるのではないでしょうか?
こんな立派な剣を打ってもらえるほどの料金は渡していないと思うのですが」
「いや、これであってるぜチャールズさん。ちゃんと制式規格に則ってるしアンタに合わせて打ってある。受け取ってもらわないとウチが困るぜ?」
「ですがこんなに高価なものは・・・」
「チャールズさん。アンタらが頑張ってくれてるおかげでオレらが安心して暮らせてるんだ。その礼とその安全な未来への投資ってことで受け取ってくれはしねーか?」
その言葉に葛藤しているチャールズ。
やはり武人として良い武器というものに憧れるものなのだろう。
暫く悩んでいたが結論が出たようだ。
「そうか・・・そこまで言われると断ることは出来んな。有難く頂戴する。
・・・正直に言うとこの剣には一目ぼれしてしまったんだよ。だが賄賂ととられてしまうと双方に良い影響はないのでな。今から自慢するのが楽しみだよ。
この剣に相応しい使い手になれるよう、更なる研鑽を積むとしよう。王都の安全は任せてくれ!」
「はい!お買い上げありがとうございました!またのご来店をお待ちしております!」
どうやら気に入ってくれたらしいチャールズを店の外まで見送り店内へ戻る。
「フゥ~!ミッションコンプリートっすね!いやぁ!宣伝もしてくれるみたいでえかったえかった!」
「そうだな。気に入ってくれたみたいだし部下の人が買いに来てくれる機会もあるだろう」
今日も一日が終わる。
新たな芽を残して。
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