第4話

 零菜はわたしから見ても優等生だ。なにをもって優等生と言うか疑問ではあるが、例えばクラスに飾ってある花瓶の花の水を変える。そう言う誰も気づかないことに目を配るのであった。

 わたしが勉強を教えてと頼むとこころよく教えてくれる。今日もショートホームルームの前に一時間目の数学を教えてもらっている。

 そう言えば、わたしはコールドスリープの前は何をしていたのだろう?普通の高校に編入できるほどの学力で、それでいて数学が苦手。きっと高校生をしていたのだろう。幾戸さんも、この高校に通うことを薦めてくれた。


「おい、立華、彼氏が忘れ物を届けてくれたぞ」


 クラスの男子から声をかけられる。


 幾戸さんだ!!!


 わたしは腰まで伸びたポニーテールの髪を揺らし、顔を真っ赤にして男子に反論する。


「い、い、幾戸さんはわたしの保護者であって決してそのような関係ではないのです」

「わりい、この町公認の仲だったな」


 もう!だから違うのに、ホント男子ってデリカシーが無いのだから。わたしがご機嫌斜めで昇降口に向かうと自転車に乗った幾戸さんがいた。


「立華さん、お弁当を忘れていますよ」


 と、幾戸さんは鞄からわたしのお弁当の包みを取り出す。こういう時はなんて言えば良いのか?簡単にありがとうだけで、それとも、それとも?


 あぁ、考えても仕方がない。


 わたしは自転車に乗った幾戸さんに近づき「あ、ありがとう……」と呟く。


「やっぱり、彼氏だ、幸せなヤツはいいな」


 男子が昇降口まで降りてきてヤジを飛ばす。やはり、一緒に住んでいる事が問題なのか。でも、行くと無いし。こんな田舎では町では子供からお年寄りまで全員が知っていた。


 それからわたしはお弁当の包みを幾戸さんから受け取る。


「お、落ち着いたら。お弁当はわたしが幾戸さんの分まで作るから……」

「はい、楽しみにしています」


 幾戸さんは笑顔で答えてくれた。ここで女子力をみせないと……。


 え?何を考えているのだ、幾戸さんは、幾戸さんは……。


 わたしがもじもじしていると。


「おや、こんな時間、郷土資料館の朝の準備をしなくてはいけませんね」


 幾戸さんは腕時計を確認して自転車を押して歩き始める。


「急がなくても大丈夫なの?」

「はい、この狭い町で急いている人など珍しいものです」


 と、言って幾戸さんは昇降口を後にした。わたしは胸の高鳴りを感じていた。

幾戸さんか……わたしがもっと素直になれたら……。

少し、昇降口で生きている実感を噛み締めていた。

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眠り姫の立華 霜花 桔梗 @myosotis2

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