その4 素早い判断、その代償

 ……いつもより、ネフが静かだ。

 風つかみを壊してしまったことに責任を感じているのだろう。

 墜落する直前にも言ってたし。

 確かに、壊れたのはネフのせいだけど。

 でもネフの風魔法がなければ、スラーミンを振り切れなかったわけで。

 僕は彼女を責める気にはなれなかった。

 風つかみをここから助け出して、修理すれば済む。まだ絶望的な状況ではない。

 ただ、助け出す方法も修理する方法も、今のところわからないだけだ。

 ——いや、絶望的にほど近いな……。


「半々ってところだな」


 木の棒を火に突っ込みながら、僕は言う。


「……?」


 首を傾げるネフ。しおれていた。

 こういうとき、君は悪くないって言うと、大抵の人は余計に責任を感じてしまう。

 一番良いのは、悪かったことを認めてあげることだ。


「君は風つかみを壊したけど、君の魔法がなかったら僕は追いつかれてた。つまり良し悪しは半々。仕方がなかったよ」


「だけど……確かに筋は通ってるけど、その——あなたはそれでいいの? わたし、あなたの旅の相棒を壊しちゃったのよ……?」


「修理できそうだからね。それに今は、君だって相棒だろ?」


 ぱん、とこの話を終わりにする。ここからは建設的なお話。

 いいね? とネフに言い聞かせたら、渋々、わかったわと涙を拭いた。


「まず一つ目の問題からいこう。風つかみをどうやって下ろすかだけど……魔法でなんとかするのは出来なさそう?」


「……風で押しても他の木に絡まるだけだし……木をなんとかしなきゃよね。破壊——雷で木を裂くとか? いいえ、それだと風つかみも壊してしまうわよね」


 光属性以外の魔法は軒並み出力不足だし……私が土属性だったら地形をいじって平らにできるのに、と歯噛みするネフ。


「地道に枝を切っていくことなら、風魔法でできるわ。木を切り倒すとなると、時間は結構かかっちゃうけど」


「この状況をなんとかできるなら、それだけでありがたいよ」


 一つ目の問題はどうやらクリアだ。

 じゃあ、次の……おそらく解決策がひとつだけの、二つ目の問題。


「風つかみをどう修理するか、よね」


 うーん……。

 最善は、近くの街の修理工場へ持っていくことだけど。

 ここは広大な森のど真ん中、そこまで運ぶ術がないのだ。

 壊れてるから、飛んで行くこともできないし。

 ものを直す魔法でもあれば——いや、あるならとっくにネフが使っているだろう。

 一応聞いてみるか。


「——ごめんなさい、役立たずで……」


 無いようだった。

 時間までは流石に操作できないらしい。まあそうだよね。

 世界の常識が変わってしまう。

 どうしようか、と空を見上げた、まさにそのとき。 


──不意に、舌打ちのような声が聞こえた。


 びくりと振り向くと。

 全く気づくことができなかったほど微かに、木々の裏に何かの気配。

 気付かれたからか、敵意も露わに向けられた槍が僕らを囲んでいた。

 ナイフの柄に手をかける。

 焚き火に照らされたそのシルエットは、人間にしてはあまりにも背が高い。

 じわり、嫌な汗が流れた。





(その5につづく)

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