その5 二人目の魔女

 がばっと立ち上がる。

 向けられた槍がちりちり光る。

 がさりがさりと葉を踏みながら、ゆっくり近づくシルエット。

 ようやくあらわになったその正体は。


オラング森の民……か?」


「……ええ、多分」


 いつの間にかネフが後ろに。そーっと手が動いて、杖を抜いた。

 背中合わせのまま、前に出てきた一体と対峙。

 お互いが出方をうかがいながら、そろりそろりと足を運ぶ。

 ——全く、近頃は想定してないことばかり起こる……! 

 そういうのは苦手なのにさ。

 頭の中でぼやきつつ、右手のナイフを構え直した。

 槍に対しては心許ないけど、無いよりはまし。

 オラングの毛深い腕を見つめながら、その筋肉の動きを注視する。

 反応が遅れれば串刺しだ。


「……レノン」


「わかってる」


 気づかないくらいゆっくりと、包囲が狭まってきていた。

 足音は限りなく静かだけど、近い。

 どうする、レノン・ブルーメ。いい考えは?

 ——無理だ、こんな切迫した状況で考えられるか。

 半分やけになりかけていた、その時。


「箒で逃げましょう。……とりあえず、今は」


 ネフがささやいた。


「閃光魔法で目を眩まさせるわ。その隙に箒を取って逃げるわよ。いい?」


「……わかった」


 ネフは頷いて、静かに杖を掲げ——。


ビガ・フレ大閃光を——!」「待って!」


 ネフの閃光呪文に、突然声が被さった。

 背中越しにびくりと跳ねる僕たち。

 同時にこっちを狙っていたオラングの槍が——僕らを外して上を向いた。


「魔女? 魔女だよねきみは!」


 聞こえてきたのは人間の声。それもどこか幼い感じの。

 見上げるようなオラングの影から出てきたのは……。


 なんと、同い年くらいの女の子だった。





「ぼくはコノハ。魔女だよ。そこの女の子、魔女だよね? フレス撃とうとしてたから光属性? ぼくは木属性! 男の子は魔法使い? ふたりとも、名前はなんていうの?」


 コノハと名乗った魔女っ子は、一息でここまでしゃべった。


「んんっ、おほん」


 いつの間にか口が開いてたことに気づき、思わず咳で誤魔化す僕。情けない。


「……僕はレノン。彼女はネフ。僕は冒険者で──」


「──わたしは魔女。お察しのとおり、光属性よ。よろしくね、コノハ」


「うん! よろしく、レノンとネフ!」


 三人で腕をぶんぶん振った。


「早速聞きたいことがあるんだけど」


 相変わらず槍を持ったままのオラング。

 ちょっと小さめの声で、コノハに話しかける。


「……彼らとはどういう関係なんだい」


「あっ、ごめんね! 怖かったよね! でも先に教えてほしいな、いいよね?」


「あっ、うん……何?」


 強い口調に思わずそう答えてしまう。

 コノハはにこにこしながら、


「──何しに来たの?」


 すん、と笑みを消してそう言った。





(その6へつづく)

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