第8話 とんでもないことになっちゃいましたね

 竜也視点。


 今からお前をこれでもかと言うほど愛してやろう。まずは、お前のスリーサイズから、あらゆる性癖まで徹底的に分析してやることにしよう。ここに日記がないのが、実に悔やまれる。


『エロライズ!!』


 なるほど、お前は今ここで、全裸のまま襲われたい、そんな願望を持っているのか。優しいキスに弱いか。ククク……、お前は記念すべき最初の愛天使、いや、俺の愛奴隷あいどれい1号に選ばれたのだ。覚悟するがいい。愛天使エスカーナよ。


◇◆◇


「竜也さん、その前に聞いておきたいことがあるんです。どうして私を捨てたんですか? このお口で竜也さんをご奉仕するために、毎日バナナで練習したのに――」


 俺の性剣せいけんを……そうだな。無理やり喉の奥まで突き立てたらどんなに気持ちがいいのだろうか。


◇◆◇


「竜也さんは、この胸を毎日好きにできるんですよ」


 ああ、め回してやりたいなぁ。ベトベトに愛してやろう。

 

◇◆◇


「私のここは、綺麗なピンク色なんです。とろとろなんです。襲ってくれてもいいように準備していたんです。全てを捧げる覚悟で、竜也さんのことを愛しているのに、酷いです。あんまりです。でも竜也さんが悪いとは思っていません。その手足が悪いんです。痛いのは少しだけですから、我慢してくださいね」


 本当に可愛い奴だ。今から、この俺に死ぬほど愛されるとは知らずに……。さぁ、俺の愛に狂うがいい。


 エスカーナは、話が終わると同時に、俺に向かって包丁を振りかざしてきた。


「ふっ、馬鹿め!!」


 俺は、ニヤリと笑みを浮かべ、エスカーナの包丁を避けた。俺の背後の木々が衝撃波によって次々となぎ倒されていく。


 なかなかの破壊力だ。以前の俺なら避けることさえかなわなかっただろう。だが、今の俺は人ではなく神に選ばれた真の勇者だ。その程度の攻撃、苦も無くかわすことができてしまう。俺はお前だけでなく、全ての女性を愛さなければならない。だからこそ、死ぬわけにはいかないのだ。


「無駄だ!!」

 

 さらにエスカーナの包丁の斬り下おろしを避けた。だが、エスカーナの追撃がやむことはなかった。俺の手足を狙う閃光のような突きが何度も繰り出された。俺は紙一重で躱す。


 すると――


 エスカーナが大きな隙を見せた。


「あわわわ!!」


 自ら切り倒した木の木片に足元をすくわれたのだ。


 今がチャンスだ。


「ううっ、つまづいちゃった、あっ!」


 俺は包丁を手にしたエスカーナの手首をつかみ、強く捻じりあげた。


「つっ、いたい……」


 エスカーナの手から包丁が転がり落ちた。そのままエスカーナを突き飛ばし、


「……やああっ」


 仰向けに倒れたエスカーナの上に、俺は覆いかぶさり、甘い口づけを交わした。


「んっ……んんっ……はぁ……はぁ……」


 しだいにエスカーナの身体から力が抜けていく……


 そして――


「ああっ……りゅうや……さん……」


 エスカーナは無抵抗のまま俺を受け入れた。


★★★


 そして――


 俺は、これでもかと言うほど激しくエスカーナを愛してやった。今ではエスカーナは俺の愛天使兼、愛奴隷1号として俺を支えてくれている。夜のご奉仕、それだけでなく聖剣としてもだ。そんな俺たちは、舗装とそうされた一本道を伝って北に向かっている。


 エスカーナがまつられていた場所、その近くにエスカの村があった。1週間ほどになるが、俺達はこの村に滞在した。


 カーナの村周辺の森、カーナの森にはペロペロ熊さんが住んでいた。こいつらを俺は根絶やしにしてやった。女性を愛する俺の天敵だからな、まぁ仕方のないことだ。だが、それがいけなかった。ペロペロ熊さんが消えた事で村の女性たちの欲求不満が爆発してしまった。おまけに覗きを楽しむ村の男達も一緒にだ。村人たちの怒りを買った俺はカーナの村を追い出された。追放ってやつだな。


 だから今こうして俺達は、次の街に向かっている。


「とんでもないことになっちゃいましたね」


「あんな不埒ふらちなモンスターを始末しただけで……真の勇者の俺がなぜ悪人呼ばわりされて追放されるんだ? ありえないだろう?」


 次の街まではかなりの距離がありそうだ。馬や馬車といった乗り物など俺たちにはなかった。もちろん徒歩だ。それに、まぁ、こんな人気のない通り道だ。


 これを見ろ、野盗が現れたりする。こいつら、ここに集まって、何を企んでたんだ? 皆殺しにしてやったが、ざまぁないな。馬は逃げたか、まぁ、お前らのアイテムは俺が有効活用してやろう。


「はぁ~」


 俺はため息をついた。だが、エスカーナはそんな俺を見てくすりと笑いだした。俺はエスカーナを無視し、一人ぶつぶつ言いながら不貞腐ふてくされた。エスカーナは、地図を見て、これから向かう街の方角を指さした。


「カーナの村から近い街は王都グランハルトのようです。あっちの方角になりますね」


 新しい街の話題が出たのを切っ掛けに俺は頭を切り替えた。


「へぇ、王都か、大きいのか?」


「城壁で覆われた街で門があって、その門を抜けると露店がいっぱいあるんです。買い物客もた~くさんいるんですよぉ」


「楽しみだな」


「楽しみですね」


 しばし、沈黙が続いた。


「まぁ、村でののんびりした生活も楽しかったが、せっかくこの世界に来たのだから、お前と二人で色々な場所へ行って旅をするのも、楽しいかもな、なんか俺らしくないな、ああああぁ、くそっ、もう、先にいくぞ」


 エスカーナの頭をくしゃくしゃにしたあと、俺は照れ隠しのためか逃げるように小走りして先を行く。先を歩く俺のあとに、一人エスカーナは呟く。


「もう……髪がぐちゃぐちゃになったじゃないですか……竜也さん……っておいてかないでくださいよぉ!!」


 ――二人を祝福するかのように、エスカーナの首飾りのペンダントが淡いグリーンの光を放ちだした。

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