9章 希死念慮
前回の失踪事件後、家族で話し合いがもたれたわけだが、結局のところ「行き先を告げずに出かけた」ことがすべての原因であるということで落ち着いた。
休日を使っての事件(旅行)だったので、会社に迷惑をかけることもなかった。このときの精神状態は家族と一応の和解を得られたことで、しばらく安定した日々を送ることができ、仕事も順調であった。ただ、仕事を任せられることが多くなる反面、いわゆるワンオペ状態となり、自分の仕事をチェックしてもらえる人材が事実上いなかったのである。そのため、うっすらと危ないなという思いはあったものの表面化していなかったため、淡々と業務を進めていた。
そんな折、まったく新しい案件が舞い込んできた。動画作成の仕事だが、会社内で誰もやったことない仕事をアサインされたのだ。プレッシャーの大きさもあり、不安が脳をよぎる。こちらも実質ワンオペだ。
そしてついにこれまでやってきた仕事にほころびが出始める。客先の指摘どおりになっていない部分が発覚したのだ。これは当然問題になり、担当者であった私は徹底的に攻撃を受けた。上司からは「お前がすべて悪い」と言われ逃げ場がなくなった。さらに悪いことに翌日、別の不具合が見つかった。完全に行き場を失った私はパニックに近い状態になったものの、なんとか業務を続けた。ひとまず客先の許しがでるところまでやり通したが、精神的にはギリギリのところにあり、会社を休みがちになってしまっていた。主治医とも話しを行い、会社に業務量の調整をしてもらうことにしたが、それもその場しのぎであり、休みながらも会社に行く日々が続く。なんとか乗り越えられそうだという予感もあったが、ふとした瞬間に「このまま死んでしまいたい」という思いが、頭をよぎった。なぜそう思ったのかは皆目見当がつかない。ただ、インターネットで「うつ病 死にたい」と調べてみたり、どうやったら楽に死ねるかということをずっと考えている自分がいる。仕事中であったが、その考えが拭いされないため、ひとりで頭を悩ましていた。このまま消えてしまうのがいいのか……。ここで再び失踪事件のことが頭をよぎる。あれをやるのはまずい、と直感的に思った私を翌日主治医に相談することを決意した。
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