エピローグ

 ――それから。


 あの騒動の終結後、アルマは日を置かずイビガ・フリーデ秘匿滅獣機関に自ら望んで入隊した。半年にわたる実地訓練の後、実家に戻っていた彼女は、兄オスヴァルトとジルケの助力により、父の許しを得ることに成功し、無事にスヴァンと結ばれることが出来た。


 くして、スヴァンと共にイヌイに永住することになったアルマは、同時にイビガ・フリーデより、イヌイ周辺のケモノを狩る滅獣師ヴェヒターの任を与えられる。


 そうして一人で、まれに他の滅獣師ヴェヒターと共同でケモノ狩りを続けながらも、彼女はスヴァンとの日々に幸せを感じ、気が付けば10年が経っていた。二人の子供にも恵まれ、周辺で発生するケモノにも十分に対応していたのだが、或る日のこと、イヌイにもう一人滅獣師ヴェヒターが派遣されることになった。コジマという16歳になったばかりの助祭である。

 ケモノが大量に発生する事態というものはあれ以来ないものの、全体的な件数は年々増加の一途を辿っている。そこで、孤児院の院長であるクリスタ・ホルツマンが高齢であることにかこつけて、教会の上層部が潜り込ませたのだろうとアルマは考えた。


 やがて、スヴァンが長期の依頼で家を留守にしている頃にコジマが着任すると、アルマはめでたく彼女の指導役として行動を共にすることとなる。


「コジマ! そっちお願い!」


「はいはーい!」


「返事は1回!」


 何やら返事はふわふわとして如何にも頼りない感じだが、その実力は確かであった。短い槍の還魄器シクロアイゼンツヴァイクを縦横無尽に振り回し、しなやかにケモノを駆逐していく。


あねさーん! こっち終わりましたー!」


 自分の持ち分が終わると実に楽しそうな顔で、アルマに向けて手を振り回す。


「腕は確かなようね。でも、私はあなたの姉ではないわ。普通に名前で呼んで頂戴」


「はいはーい! ところであねさんの素敵な旦那様のスヴァン様が孤児院に多額の寄付をしているんですよね。近々、ご挨拶にうかがいたいんですが!」


「依頼から戻ってきたら、あなたに挨拶に行くようにスヴァンに話しておくわ。それから、私たちが滅獣師ヴェヒターなんてことは、うっかり話しては駄目よ」


「おや? それはどうしてですか?」


 ――そう。これはスヴァンの知らない、アルマの秘密の物語なのだから。



 紫黒の乙女 -転生のおと外典- 完

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