第10話 夜に舞う
ドロテが
すかさずアルマは、ジルケから贈られた夜に目立たぬ色の服をその身に纏う。それは丈が膝までと短く、両側に深いスリットの入った
(消えた!?)
着替えて再びオイレン・アウゲンを拡張したとき、その反応は既に無く、代わりに黒い
そう言えばジルケが言っていた。
『イヌイに
なるほど、これだけ大きな町なのだから、
これはやはり見に行かねばなるまいと廊下に踏み出したが、さて、困った。私はドロテ様の侍女だ。
「やぁ、アルマ。珍しい恰好をしているね。お出かけかい?」
ほんの僅かの時間だったが
「あら、兄様こそどちらへ?」
「私は執務室に報告があるのだよ」
「執務室……、というとグスタフ様の? 何かあったの?」
「確かにグスタフ様にお会いするが、何かあったわけではないよ。毎日の報告なんだ。閣下は日頃からご子息方のことを気にかけてらっしゃるが、それはシュテファン様も例外ではなく、いや、特別に気にかけている、と言った方が良いかも知れないな。ともかく、シュテファン様の今日一日の様子をこうして報告に上がるのさ」
「あら、それは良い事を聞いたわ。ご一緒してもいいかしら?」
「んー……、うん。今日の報告内容なら問題はないな。兄と一緒に行こうじゃないか。ところでアルマは閣下に何の用事だい?」
「外出許可よ」
「なんだ、本当にお出かけだったのか。ここの治安とアルマの腕なら危険はないと思うけど、何しろ夜というものは危ないものだ。気を付けるんだぞ」
「ええ、大丈夫よ。夜間訓練の一環だもの」
「ははぁ、なるほど。ジルケ殿の言い付けか。それなら閣下にもそのまま伝えるといいだろうね」
「分かったわ。兄様、ありがとう」
「どういたしまして」
それからオスヴァルトとアルマは
「おう、分かった。行って来い。ヴィンシェンツには俺の名前で言っておく。オスヴァルト、ヴィンシェンツへ連絡を頼んだぞ」
あっさりとしたグスタフの返事にアルマは少々
「よろしいのですか?」
「ああ。だってなぁ、あのジルケ殿じゃあ、なあ?」
「ええ。ジルケ殿では、ねえ?」
グスタフ、オスヴァルト、そしてアルマと口ほどにものを言う目配せのリレーがあったが、その理由を掘り返すのは野暮、否、藪蛇というものだろう。
「あ、そうだ。アルマ」
部屋を出ていこうとしたところをグスタフが呼び止め、アルマは
「お前のそのブーツ。石畳でも音がしにくいようにレザーソールにしてるだろ?」
「
「世辞はいい。むずむずする。でだ、音もなく近寄るとうちの衛兵どもがびっくりするだろうから、その辺は配慮してくれよな」
「は!
「いや、そういう意味じゃないんだが、……いや、それでもいいのか? まあいい。気を付けろよ?」
「ありがとうございます。それではこれにて」
――そしてアルマは闇に舞う。
拡張したオイレン・アウゲンで反応があった場所に大急ぎで向かえば、果たして
(犬?)
「なぁ、あんた。こんなところでじっとしてどうしたんだい?」
目の前の初めて
そう、油断した。
声のした方へ振り返り、少し距離をとった後、
「少しぼーっとしていただけです。大丈夫ですよ、何も問題あ――」
言いかけたアルマの横を
突然のことに心が水平を保てない。ケモノを出来るだけ見ずに声を掛ける。
「すぐにここから逃げて下さい! 何かがいるようです!」
男は何が起こったか理解できない顔だったが、自身の体にいつの間にか傷が付いていたことは分かったようで、フードを
そして、ケモノはそれ以上、男を追わなかった。目の前に
(前は一つ、ならば後ろにもう一つ。落ち着け)
「響け! ドナ・フルーゲ!」
先に
生まれたばかりだというのになんとも仲の良い事だとアルマは思いながら、そのまま正面の1頭に向けて大袈裟に足を踏み出す。正面の1頭は後ろに飛び
「かかったな」
振り向きざまに後ろの1頭を
お互いに様子を見ている間に斬り伏せた1頭が霧散する。
この大きさなら
事を
これを頃合いと見たアルマは音も無くその場から立ち去る。愛らしい主の待つお屋敷に戻るため。
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