第13話 級友との帰り道




「———ねぇ優一、なんだか最近雰囲気変わった?」



 茜色の夕陽が目立つ放課後、たまたま俺と一緒に帰宅していた煌吏きらりからふとこのような声が上がる。


 俺は思わず息を呑む。隣にいる彼女を見てみると彼女もまたこちらの表情を覗き込んでいた。にこやかな表情を浮かべながらもこてんと首を曲げ、その瞳には純粋な疑問を宿しているようだった。



「な、なんだよいきなり?」

「うーん、なんていうんだろうね。雰囲気っていうか顔つきっていうか……強いていえば退院してちょっと経ってから?」

「うっ…………」

「まったく、って聞いた時は心底驚いたし肝が冷えた。奇跡的に打撲程度で済んだようだけど無事で良かったよ。今後神様に足を向けて眠れないね」

「今も昔もカミサマに足を向けた覚えなんてねーよ」



 やれやれとした仕草をしながら軽く息を吐く煌吏。普段は中々掴みどころがない性格をしている煌吏だが、きっと観察力が鋭いのだろう。時折こういうどきりとする指摘をすることがある。


 故に、俺は煌吏からそっと顔を背けて悟られないようにしていた。



(超能力者に出会って化け物に襲われただなんて言い訳しようもんなら、可哀想な痛々しいヤツに思われるからな……。俺が入院中、良い具合に誤魔化してくれたリーナに感謝だぜ)



 意識がない状態で入院していた俺はともかく、リーナは次の日も高校に行かなければならない。どうやら俺が入院している間に学校の先生やクラスメイトには検査のために入院したと説明しているようだ。ヘンに探りを入れられないように俺のスマホもその時に壊れたと伝えてくれていたらしい。


 勿論、何故リーナが俺が入院した経緯に詳しいのかという指摘もクラスメイトからあったらしいのだが、『車に轢かれそうになった私をたまたま居合わせた彼が助けてくれた』と言い繕ってくれたようだ。美少女であるリーナがそう口にしたらクラスメイトはみんなあっさりと信じてくれたらしい。

 

 軽く言葉を交わす程度のクラスメイトとはいえ、登校すれば毎日話す煌吏からさえも連絡がなかったのは正直寂しかったが、スマホが壊れたと説明していたのならば仕方がない。リーナからの配慮と受け止めるべきだろう。


 退院後、休日を挟んで久しぶりにクラスに行くとクラスメイトはちらほらと「大丈夫だった?」など俺の体調を心配してくれた。榊原からの告白の件があった手前、同級生の掌返しが凄まじいが……それはそれ、これはこれという感じだろうか。


 リーナはほどんど何も言わなかったが、きっと色々とクラスでも俺のことをフォローしてくれていたに違いない。

 


「……本当、無事で良かったよ」

「ん、なんか言ったか煌吏?」

「ううん、なんでもないさ。転校生のリーナちゃんが僕の話し相手になってくれてたとはいえ、入院している間にキミを揶揄えないのは寂しかったと思ってね」

「言っとけ」



 現在ではリーナは既にクラスに馴染んでおり、榊原に続き注目を浴びているようだ。先生から用事を頼まれたとかで今日は一緒ではないが、彼女の動向に関してはあまり気にしてはいない。


 煌吏の歩幅に合わせて会話しながら道を歩いていると、ふと彼女は声を上げた。



「……あ、わかった!」

「ん、何が?」

「違和感の正体だよ。ねぇ優一、キミもしかして身体鍛えているのかい?」

「っ……!」



 煌吏からの突然の指摘に俺は思わず言葉が詰まる。


 確かに、俺は退院してからというもの鍛えてはいるが、あれから精々二週間ほどしか経過してない。そんなに目に見えて変わるものだろうか。


 どう言い訳したものかと脳をフル回転させていた俺だったが、視線の先の彼女は何故かニヤニヤとした表情を浮かべている。そうしてあまり間を開けず言葉を続けた。



「あぁ皆まで言わなくていいよ。僕と優一の仲だからね、だいたい考えていることはわかる」

「な、なんだよ……」

「退院後から少しだけ変わった雰囲気、鍛えた成果であろう身体つき、そして学校にいるリーナちゃんを追う視線……ふふ、これまで長くキミと一緒にいた僕だからこそわかる今までのキミとは違うこの反応。……ずばり!」



 スッと妖しげに目を細めた煌吏は足を止めると、こちらに人差し指をビシッと向けながら血色の良い唇を開いた。



「———リーナちゃんのこと、意識してるんでしょ?」

「………………は?」

「照れるなよ少年。どうせ最初からリーナちゃんのことが気になってたんだろう? 転校初日に僕興味ありませーんなんて素振りしてた癖に、とんだオオカミだぜキミは」

「い、いやそんなつもりじゃ……」

「大方、良いとこ見せようと格好良く助けたつもりが怪我して入院。身体を鍛えてリーナちゃんを振り向かせようって算段なんだろうけど……ま、童貞くんにはこれくらいしか考え付かなかったかー」

「どどど童貞ちゃうし!!」



 煌吏の悪戯っけの混じった視線に思わず動揺してしまったが風評被害も甚だしい。若干皮肉というか遠回しに嫌味を言っているように聞こえるのは気の所為だろうか。



「……身近に優良物件があるのになぁ」

「ん、優良物件がなんだって?」

「なんでもないよこの鈍感野郎。一応頑張れとは言っておくけど、精々当たって砕けで灰になっちゃいなよ」

「酷くね?」



 そう言って再び歩き出した煌吏。にこやかな笑みを浮かべながらさらりと毒を吐いた彼女に首を傾げた俺は、追うような形でなんとか期限を伺いつつ帰路についたのだった。

















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これからもたまに更新します!!


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いずれ辿る最強の神眼妖刀使い 〜喋る刀を拾ったら異能者との戦いに巻き込まれた件〜 惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】 @potesara55

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