第12話 暗躍する者たち



 とある廃ビル。瓦礫や砂、ガラス片があちこちに散乱しており、鉄筋コンクリート造のそれはやや風化していた。壁などもはや意味を為さず、びゅうびゅうと風が入り込んでいる。


 欠けた天井を見上げると、星屑の煌めく夜空と宵月がそっとこの場にいる者を見下ろしていた。



「う〜ん、キレイな眺めですねぇ。———



 紺のタキシードに顔全体を覆う真っ白な仮面。そしてその腰元には一振りの真っ白な刀を差している、ややアンバランスな格好をした長身の男がそのように呟く。そう、この男はリーナ・アンデルセンを襲撃した人物だった。


 口元は真っ白な仮面で覆われており、唯一彼の表情が分かる箇所は瞳の部分。まるで笑っている風に三日月状に曲げられたそこからは、どこか嬉々とした感情が伺える。


 やがて彼は空へ瞳を向けると、思い耽るようにしてそのまま言葉を続けた。



「それにしても惜しい。あぁ惜しかった。あの妖刀は是非とも私の物にしたかった」



 いかにも口惜しそうな台詞だが、それに込められた感情には一切の悲壮感がない。むしろ嬉しそうである。氷の異能を操る美少女、リーナに妨害されたというのに、だ。



「まぁ残念ながら今の私ではあの封印を解くことは絶対に出来ませんでしたからねぇ。まさに僥倖、でしょうか。あの少女には感謝してもしきれませんよぉ」



 しみじみと男が思い出すのは、先日リーナが突如出現した祠の封印を破る光景。


 普通は乞い願ってもソレに遭遇する確率など無いにも等しい。さらにはあの妖刀を手にした少女の凄まじい幸運には目を見張るものがあった。



「……いや、もしくはあの少女。もしかして」



 道化師のようなヘラヘラとした口調が一瞬だけ鳴りを潜め、真剣みが帯びる。スッと細められた瞳には、途中で消えてしまった妖刀以外にも新たな関心が芽生えて———。


 思考の海へ没入しかけた男だったが、とある気配に遮られる。その瞬間、ドォン!!!!と地面が弾けたような音が響き渡った。



「———ヨォ」

「貴方ですか、ミスター【剛岩ロック・バスター】」



 突如廃ビルへと降り立ったプロレスラーのような顔半分のマスクを身につけた男。タキシードを着た男よりもその背丈は大きく、彫刻かと見間違えるほど筋骨隆々としている。



「よく私の居場所がわかりましたねぇ」

「ボス、お前のこと、お見通し」

「なぁるほど。だから貴方が頼まれたと。しかし、相変わらず見た目に反して身軽ですねぇ」

「鍛えてる、からな。そろそろ、定例会議、始まる。さっさと、来い。———【剣王けんおう】」

「はいはい、わかりましたよ〜」



 飄々とした態度はそのままに、【剣王】と呼ばれた彼は再び夜空を見上げる。降り注ぐ月光にそっと瞳を細めながら口を開いた。



「あの妖刀は、必ず私が戴きます」



 【剛岩ロック・バスター】、そしてこのタキシード姿の男、【剣王】はとある組織に属していた。


 その名も———反異能革命組織『アノニマス』。


 彼が新たな妖刀契約者となった常盤優一と邂逅する日は、近い。



 













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