第43話 絵梨花と弥生の幸村争奪戦

 引き続きエリカと弥生が口論中だ。


「ユキに合わせて何が悪いんですか〜!? ユキに好かれるためなら私は何だってしますー」


「そんな主体性のない人をユキさんが好きになるわけないではないですかっ!」


「それを決めるのはユキですー。弥生じゃありませーん」


「いいえ、そうに決まっています! ユキさんのことは私が一番よくわかっているんです! そもそもですね、私が最初にユキさんと仲良くなっていたんですよ!? それを姉妹だからって横から……」


「先とか後とか関係ないでしょ!」


「うぅぅ……。関係ないかもしれませんが、ずっと私は納得いってなかったんです!」


 言いたいことを言い合えるのは良いことかもしれないが、エリカも弥生も少しヒートアップし過ぎだ。


「いい加減にしろよ!! ……エリカも弥生も急にどうしたんだよ? お前らケンカなんかしたことなかっただろ?」


 俺が仲裁に乗り出すと、二人がピタリと動きを止めた。そして、徐々に意気消沈していく。


「す、すいません。私としたことが少し興奮してしまいました……」


「……ごめん。なんか私、焦っちゃってたのかも。さっき弥生がユキのこと好き——」


「わーっ! わーっ! わーーーーっ! 何を口走ってるんですかー!」


 やっと静かになったと思ったら、いきなり弥生が叫び声を上げ、バダバタとニワトリみたいに暴れ出した。予想外の動きにマジで驚いた。


「あっ……。あ、あのっ! ゴメン! 私、そんなつもりじゃなくて……。ユキが怒ってるから何か言わなきゃって思っただけで……」


「二度と口走れないように、その口を丁寧に縫い付けてあげましょうか……?」


 何を怒っているんだか知らんが、弥生の顔がものすごく怖い……。


「そろそろ落ち着けって、弥生。そんなに怒ったら、せっかくの可愛い顔が台無しだぞ〜?」


 俺としては場を和ませようと思っただけなんだが、この発言のせいでエリカ対弥生の二回戦が始まってしまうのだった……。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 エリカと弥生がプロレスのように手四つの状態で力比べをする中、俺はオヤジに肩を叩かれた。


 ちなみに、アヤ姉とヒナ、そして、母さんは二人の力比べを楽しそうに観戦している。


(いや、観戦してないで誰かケンカを止めろ)


「父さんの負けだ。俺が間違っていた。お前はスケベではない。それでいいな?」

「え? ああ、うん。わかりゃいいけど」


 なぜ、このタイミング?


「幸村よ。皆の信頼を決して裏切るんじゃないぞ?」

「いや、それはオヤジに言われるまでもねぇけどさ」

「よし。話は終わりだな。じゃあ、俺もう行くから」

「え? 行くってどこに?」


 俺の問い掛けを無視してオヤジは玄関の方に小走りで向かっていく。ちょっとコンビニに行ってくるわ、くらいの気軽な感じだ。


「ちょっと、オヤジ?」


 あとを追いかけると、靴を履き終えたオヤジが背中を向けたまま顔だけコチラに向けていた。


「アヤカ。エリカ。ヒナカ。そして、ママ。あと弥生くんも。……達者でな!!」


 肩越しにオヤジがカッコつけているけど、名前を呼ばれなかった俺以外には聞こえちゃいない。

 一応、俺は唯一オヤジと血の繋がりのある人間なんだけど、なにゆえ、その俺を省くんだろうか?


「いや、ちょっとオヤジ?」

「あっ……ゴメン、ゴメン。幸村も達者でな」


 そんな思い出したように言われても全然嬉しくない……。


「『達者でな』って。どこ行くんだよ?」

「アデュー!」


 またも俺の問い掛けを無視して、オヤジが脱兎のことく走り出す。


(オッサンなのにメッチャ足が速い!)


 あれ? 今、俺、完全にデジャヴってる?


「いや『アデュー!』じゃなくて。って、オヤジー? ちょっとオヤジーっ? …………オヤジーーーーっ!!」」


 こうして、オヤジは再び失踪した。


(何しに来たんだよ。混乱を招いただけじゃねぇか。ホントふざけたオヤジだ……)

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