第42話 もっと良い話はなかったんですかね……?

 射干しゃが家の別荘にて俺の恥ずかしい過去が次々に暴かれていく。


(仕方ないじゃないか! 子どもだったんだから! 誰だって好奇心くらいあるだろ!?)


「ほらな。幸村、お前は硬派を気取りたいみたいだが、残念ながらスケベなんだ。なんたってお前は俺の息子だからな。血は争えん」


「俺は……。俺は……っ」


 スケベなんかじゃない。そう言いたかった。

けれど、たった数回の過ちが俺の口にフタをする。


「たしかにユキって、たまに目がエッチな時あるわよね。私の気のせいかもだけど」

「それ、わかる〜」

「ヒナもわかるー」

「あっ。やっぱり二人もそう思う?」


 ああ……もう元には戻れない。誰もが色眼鏡を掛けて俺を見る。皆が俺を指差し、スケベと叫ぶ。


——そんな絶望の淵、救いの手は突然に差し伸べられた。


「待ってください。ユキさんはスケベではありません。皆さんがユキさんのことをどう思っていようと私はそう思います」


 弥生がハッキリとそう言い放った。目には強い意志が篭っている。


「弥生くん。君が幸村を信じたいのはわかる。だが、残念ながら幸村は——」

「いいえ。ユキさんは誠実な方です」


 普段なら調子を周りに合わせもするが、ここぞという時には決して意見を曲げない強さが弥生にはある。


 その強さに気圧けおされ、オヤジが「……ううむ」と口ごもっていた。


 そんな中、弥生がさらに言葉を続ける。


「これは小学三年生の時の話です。私たちの学校ではスカートめくりが流行っていました。女の子が嫌がる姿を見て喜ぶなど、なんと下劣な行為でしょうか」


 たしかに、そんなブームもあった気もするけど、なぜ今、その話?


「弥生? 急にどうした?」


 俺の問い掛けを手で遮り、弥生が強く頷く。もしかしたら、この話がスケベの冤罪を晴らしてくれるのかもしれない。


 彼女を信じよう。彼女が俺を信じてくれるように俺も彼女を信じよう。


「そして、その日がやってきました。馬鹿な男の子たちが、ついに私のスカートに狙いを定めたのです。ですが、その目論みはユキさんの手で容易く打ち破られることになります」


 ……思い出した。弥生のスカートをめくろうとした男子を俺が殴り倒したんだっけ。


 もちろん、そのあと先生たちにドチャクソ怒られたのは言うまでもない。


「ユキさんは私に群がる男の子たちを蹴散らしてくれました。そして、こう言い放ったのです。『弥生のパンツは俺のものだ! お前らなんかに見せてやるもんか!』と。……とてもカッコ良かったです///」


 それってカッコいいのか?


  というか、この話、現在執り行われているスケベ裁判においては原告の不利に作用する気がするんだが……。


 だが、まぁ、しかしだ。弥生が俺の無罪を信じてくれているのは事実。


「……弥生。お前だけは俺を信じてくれるんだな」

「当たり前です。私だけは何があってもユキさんの味方ですので」

「……ありがとう。もっとこの場に適したエピソードトークがあったんじゃないかとは思うけど……ともかく、ありがとう、弥生」


 誰か一人でも自分の味方でいてくれることの心強さを俺はこの日初めて知った。


「ちょっと待ちなさいよ。私も丁度ユキはエッチじゃないって言おうと思ってたとこよ?」


「え? いや、きっきエリカ——」

「何を今更……。さきほど真逆のことをおっしゃっていませんでしたか?」


 弥生にセリフを取られてしまった。俺も似たようなことを言おうとしたんだが……。


「言ってないわよ。私はユキの目元がセクシーだって言ったの」


 ホントにそうだったのか? 俺には全然そんな風に聞こえなかったんだが……。


「何ですか、その杜撰ずさんな言い訳? そんなもの通りませんよ」


 そうだよな。やっぱけなされてたよな、俺。


「あっ! さては、そうやって自分だけユキの好感度を稼ぐ気ね? させないわよ!!」


「そんなつもりはありません! 私は本心を言っただけです! 好感度を稼ごうとしているのはエリカさんでしょ!? ユキさんに合わせてコロコロと態度を変えて!」


「おいおい、どした? ちょっと二人とも落ち着けって」


 俺が言ったところで二人は止まらず、言い争いはヒートアップしていくのだった……。

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