第7話 仲良くしてくれっ!

 エリカが提案したじゃんけん制。


 だいぶテキトーに聞こえるが、俺はそうは思わない。

 なぜなら——。


「ちょっと待って! 私がじゃんけん弱いの知ってるよねぇ!?」


 ——アヤ姉がじゃんけん激弱種族だからだ。


「それでは決を採ります! じゃんけん制に賛成の人~? は~いっ!」


 エリカが、アヤ姉を無視して決を採る。アヤ姉はオロオロ。

 一方、自分の比較的有利を理解しているヒナもおずおずと手を挙げていた。


「じゃあ、反対の人~? ……うん。アヤ姉、一人ね。三姉妹会議は多数決が原則なので、賛成多数で――」

「おい、ちょっと待て」


 割り込むつもりなんてなかったが、思わず俺は声を上げていた。


 こんなマネをしてしまったのは、アヤ姉がヒドくしょんぼりしていたからだろう……。


「あれ? ユキ、起きてたの?」


 そりゃ、近くでそんだけ騒がれれば誰だって起きるが、そんなことは今どうでもいい。


「俺はじゃんけん制に反対だ。これで二対二だろ?」


 これまでは姉妹のじゃれ合いで済んだが……こういうのは良くない。俺は納得いかん。


「いや、でも、これは三姉妹会議であって、プラスの方じゃないからユキに議決権は――」

「俺は反対だ。姉妹なんだから仲良くしろよ。あと、俺の部屋で会議すんな」

「ユキ? もしかして、怒っているの?」

「…………別に」


 怒っているわけじゃない。


 何かの弾みで三人の関係が壊れたりしないで欲しいと思っているだけだ。


 ただ、それだけだったんだが……。


「……ごめん……なさい。……ユキ……怒っちゃ嫌だよ」


 今度はエリカがヒドくしょんぼりしてしまった……。なんなら今にも泣き出しそうだ。


(そんな表情をされちまったら……。参ったなぁ)


「……はぁ。……怒ってないよ。ほら、笑ってるだろ?」


 仕方なしに無理やり顔面の筋肉を動員し、笑顔らしき表情を作る。だが、作り笑いなんて苦手だし、たぶんマトモに笑えちゃいないんだろう。


「…………」

「いや、怒ってないって。本当だ」


 やはり、信じてもらえてないようで、涙目のエリカが上目遣いで俺をじっと見つめ続けている。

 

(ホントどうしたもんかなぁ……)


「ユキにぃ、変な顔〜。笑顔っていうのは、こうするんだよ?」


 ヒナがベッドまで上がってきて、俺の顔をぐにゃぐにゃと弄り回すが、やっぱり笑顔になっちゃいないはずだ。

 ……というか、これは、ただの変顔。


「フフっ。ユキ、変な顔」

「そんな笑うなよ、エリカ」


 それでも、エリカが笑ったからヒナの狼藉は不問にしよう。


(取り敢えず、ヒナのおかげで、諭せそうな雰囲気にはなったな)


「でだ、お前ら、晩飯の時に平等にシェアだ何だ言ってただろ? まぁ、そんなもん俺は認めてないが、それは置いておくとしてだな。平等ってんなら三人全員が納得する協定結べよ」


「……そうだよね。私、どうしても沢山ユキと添い寝がしたくて……。でも、卑怯だった。ごめんなさい」


 さっきは、あんな風に自分の意見を無理やり通そうとしたが、本来のエリカは素直な良い奴だ。キチンと向き合って話せば、ちゃんとわかってくれる。


「俺に謝んなくたっていいよ。謝るなら……ほら」


 顎でアヤ姉をしゃくって見せると、エリカがアヤ姉に向き直った。


「アヤ姉……。ごめんなさいっ」

「いいのよ、エリカちゃん。じゃんけん制に決まらなかっただけで私は十分だから……」


 互いに見つめ合う二人の姉妹。


「アヤ姉……っ。……大好きっ!」

「私もよっ! エリカちゃん!」


 そして、二人がひしと抱き合う。


「ヒナもギューする〜っ」


 遅れてヒナも抱き合いに合流した。


 仲良きことは美しきかな。これにて一件落着だ。


 ……とか俺が思うとでも思ってんのか?


「……お前ら。そもそもだな、会議すんのは構わんが、俺の部屋ですんな。ていうか、全員、さっさと自分の部屋に帰れ! 頼むから、いい加減、俺を寝かせてくれよっ!」


「「「は〜いっ」」」

「お……、おう。いい返事……だな」


 予想外なことに元気よく三人とも手をあげている……。

 まさか素直に聞いてくれると思っていなかったもんだから少し拍子抜けしてしまった。


(いや、コイツらホントにわかってんのか? わかってるなら別にいいんだけどさ……)


◇◆◇◆◇◆◇◆


 それから数十分後……。


「じゃあさ、時間制はどうかな? ヒナは今日みたいな感じでもいいよ?」

「それはキツイんじゃない? どこかで身体壊す気がするわよ? アヤ姉だってキツイと思うでしょ?」

「ん〜、まあねぇ〜。何か良い方法はないかしら〜」


 なんでコイツらまだ俺の部屋に居んの?


「さっきの返事は何だったんだよ……。チクショー……」



 ……と、まぁ俺の毎日はこんな感じだ。友達が羨むような幸せ一杯な生活なんかじゃない。


 そりゃ、本当に血がんなら、もう少し違った考えになっていたのかもしれないな、と俺だって思うよ……。


*********************


 続きが気になる、主人公と三姉妹たちの掛け合いが面白い、と思っていただけましたら、気軽に評価(星)してくださると嬉しいです。

             ——九夏なごむ

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