第5話 俺の部屋でアヤ姉のお尻を叩くのはやめてくれませんかね……?

 自室のドアがバンっと開かれ、現れたのはエリカとヒナ。


「「三姉妹協定第二条。抜け駆け厳禁。破った悪い子はおしりペンペンの刑に処〜す!」」


 二人が断罪の声を上げながら部屋の中まで入ってくる。

 そして、ベッドの近くまで来ると、未だフリフリと動くアヤ姉のお尻を腕を組んで見下ろした。


「おいおい、二人とも。もう真夜中だぞ? あんまり大きな声出すなよ。母さんが起きちまうだろ」


 俺たちの母さん(俺にとっては義理の母)は朝早くから夜遅くまで俺たちのため一生懸命に働いてくれている。


(そんな母さんを、こんなバカみたいな騒ぎで起こしちゃダメだろ……)


 こんな風に言うと、まるで母さんが女手一つで俺たちを育てているかのようだが、安心して欲しい。俺の親父は健在だ。


 ただ……今はちょっと失踪中だけど。


 まぁ、俺の親父は、とんでもないアホ親父な訳だが、失踪中でも毎月キチンと母の口座に生活費を振り込んでいるみたいなので、最低限の親としての義務は果たしていると言えなくもない。


「ご、ごめん。さっきアヤ姉におしりを叩かれたから、なんか私ちょっと興奮しちゃってたみたい……」


 そう言えば、連れ去られ際、エリカがおしりをペンペンされるとか何とか言ってたけど、コイツはそんな幼稚な罰をマジで受けちまったのか……。


「でもでも、ユキにぃ! 『悪い子はおしりペンペンです』って、ヒナたちのおしり叩いたくせに、結局、アヤお姉ちゃんも抜け駆けしてるんだよ? ユキにぃもヒドいと思わない??」


 ヒナは高一だが、アヤ姉にお尻を叩かれている姿を想像しても、特に違和感がないのが不思議だ。


 幼げな雰囲気のせいで、むしろ似合っているような気さえする。


「知らんよ。俺に言うな。協定だか何だか知らんが俺は眠いんだ。頼むから寝かせてくれ!」


 これ以上相手にしないと言うが如くに、俺は布団を頭まで被る。


(このまま眠らずに登校することになっちまえば、授業中、確実に爆睡だ……)


「あ〜あ、アヤ姉のせいでユキが怒っちゃったーっ」


 いや、エリカ……。お前も含む三人のせいだって。


「とにかく、まずはアヤお姉ちゃんの罰を執行しなきゃね。エリ姉。暴れないようにアヤお姉ちゃんの足、押さえておいて」

「了〜解っ。やっちゃえ、ヒナ!」


 いや、俺の部屋で執行すんなよ……。自分たちの部屋でやってくれ……。


「ちょ、ちょっと待って。もしかしてユキくんの前でするの? お姉ちゃんとしては、せめて私の部屋でペンペンして欲しいな〜、って思うんだけどー? というか、先にここから出して欲しいなぁ〜……なんて」


 珍しくアヤ姉と俺の意見が合ったが、時すでに遅し……。


「問答無用だよっ。ヒナは怒ってるんだから」


 そして、ペチンっペチンっとリズミカルな音が俺の部屋に響き始めたのだった……。


「ひぇ〜……やめて〜っ」

「ヒナがやめてって言った時、アヤお姉ちゃんはやめてくれたのかなぁ!?」

「そうそう! アヤ姉のせいで私もおしりがまだヒリヒリしてるんだからっ」

「ごめん……、なさ……、いぃぃぃ」


 何なんだよ、もう……。まったく……これじゃあ騒がしくって眠れやしない……。


(って、あれ? ケツ叩きがリズミカルで、なんか逆に寝れるかも……)


 きっと、これは電車のガタンゴトンみたいなもんなんだろう……。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝、俺は誰かの話し声で目を覚ました。時計に目を向ければ、アヤ姉の罰が執行されてから三十分ほど経過してはいたが、それでも、まだ五時前。


(なんか三姉妹たちが俺の部屋に居座ってるけど、取り敢えず、二度寝すっか……)


「これ、ユキにぃの添い寝当番、ちゃんと決めといた方が良くない?」

「たしかに毎日こんなことしてたら私たちも寝不足になっちゃうわね……。ユキにも安眠して欲しいし」

「……そうね。……では、ここに第三十五回、三姉妹会議を開催します」


 なんでここで開催すんだよ……。絶対、二度寝できないやつじゃん……。


 でも、まぁ、三人が普段どんな風に会議しているのか気にならないでもない俺であった。

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