第4話 長女のアヤ姉が意外に一番大胆だったりするんです……。

 今、俺は誰かにサワサワと胸の辺りをイジられている。

 もはや目を開けなくとも、誰が隣にいるのかくらい想像がつく。


 ヒナ、エリカ、残りの一人は?


「……ユキく〜ん? 私が寝てるからって、そんなところ触ったらダメだぞ〜?」


(ほらみろ、アヤ姉だ)


「いや、寝てないでしょ。ていうか、俺はどこも触ってないから。むしろ、触ってきてるのはアヤ姉の方だから」


 一応の距離を取っていた他の姉妹二人と違って、アヤ姉は最初からガッツリと俺に抱きついてきている。しかも、俺の体を勝手にイジくり回して……。


 流石は長女ラスボス……。


「じゃあ、攻守交代で〜すっ。今度はユキくんが私の体、触ってみよっか」


 流石はラスボス! 他の二人とは攻撃力が段違いだ!


「それはちょっと……。夜も遅いし、遠慮しておこうかな」

「いえいえ、ご遠慮なさらずに〜」


 ちゃんと断ったのに、アヤ姉は俺の手をガッチリと掴み、無理やり自分の胸元へ誘導していく。


 そして……。


「さぁ、ユキく〜ん。お姉ちゃんと既成事実、作っちゃいましょうね〜。うふふふふ……」


(これが年上ゆえの大胆さか。やはりアグレッシブさが他の二人とは桁違いだ。普通の男であれば、容易く陥落してしまうだろう……)


 だが、俺はこんな誘惑に負けはしない。


 ゴロンとアヤ姉の反対方向に寝返りを打ち、手を振り解く。

 そして、そのまま床に落下して、エリカのように俺はベッドの下に潜り込んだ。


「俺、もう今日はここで寝るから。アヤ姉はベッドで寝てて良いよ」

「えー。じゃあ、私もそっちに行くね〜」


 そうくるだろうと思った。ここまでは想定の範囲内。窮屈そうな様子でベッドの下に潜り込んでくるアヤ姉の姿を確認してから、今度は俺がベッド上に戻る。


「じゃあ、俺がベッドの上で寝るから、アヤ姉は床で寝てて良いよ」

「そんなー。私もそっちに行くよー」


 ……と、ここで想定外の出来事が起きた。


「あ、あれれ? なんで!?」


 慌てた様子のアヤ姉の声。


 見れば、ベッドの下から体を半分だけ出したアヤ姉が馬鹿みたいにフリフリと尻を振っている。


(かなり滑稽な姿だけど、まさか、こんなんで俺を誘ってるつもりなのか……?)


「アヤ姉……何してんの?」

「なんか、お胸が挟まってベッドの下から出られなくなっちゃった……」


 どうやら誘ってるんじゃなくて、たわわな胸がベッドと床の隙間に挟まっているだけみたいだ……。


「…………」

「あの、ユキくん。申し訳ないんだけど、一回ベッドから降りてもらっても良い? ベッドを少し持ち上げれば脱出できると思うから」

「…………」

「あの〜、ユキく〜ん??」

「……すぴー。……むにゃむにゃ」


 これは寝たフリだが、本当にこのまま寝てしまおう。明日も学校があるんだし、少しでも寝ておかないと勉強に身が入らん。


「ねぇ、ユキく〜ん? ユキくんの大事なお姉ちゃんが挟まっちゃってますよ〜? ……ねぇってば〜」


 ……少し可哀想だが、自業自得。そこで今日は頭を冷やしてくれ。


「ユキく〜ん? ユキく〜……。ユキ……。ユ……。…………」


 アヤ姉の声が段々と遠のいていく。相当、俺は疲れていたんだろう。

 それとも、アヤ姉のウィスパーボイスが耳に心地良いからだろうか?

 声を掛けられ続けていても普通に安眠できそうだ。


「…………っ!」


 ……と、思ったところで、自室のドアがバンっと開かれ、俺の意識は覚醒した。


(もう終わったんじゃないのかよ……。今度は何だよ……)


「「三姉妹協定第二条。抜け駆け厳禁。破った悪い子はおしりペンペンの刑に処〜す!」」


 現れたのはエリカとヒナであった……。

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