第3話 次女のエリカは華麗にやり過ごすようです……。

 ヒナのせいで目が冴えてしまった俺は、寝ているんだか、寝ていないんだか、わからないような半端な状態のまま、ベッド上で横になっていた。


 そして、どれくらい経っただろうか、やっと眠りについた頃、またもベッドの中モゾモゾと蠢く何かの気配で俺の意識は覚醒した。


「なんだよ……。今度はエリカかよ……」


 顔を横に向ければ、エリカの寝顔。時計を見れば、時刻は二時前。


「……すやすや〜。ねぇ、ユキ。私、今、寝てるから何されても気づかないかもよ?」


「寝てる奴が流暢に喋るんじゃねぇよ。お前、絶対に起きてるだろ?」


「今のは寝言ですー。私、寝言が激しいタイプなんですー」


「ああ、そうなんだ……」


(寝言が激し過ぎんだろ。それでゴリ押しするにしても、もう少し口数とか、音量とか抑えろよ)


「わかったら、さっさと私に何かしてきなさいよ。これは滅多にないチャンスなのよ? 例えば、髪を触わるとか。今なら、ほ、ほ、ほっぺをプニプニしても……私、気づかないのよ? なんたって私は今ぐっすり寝てるからっ!」


「へー。……まぁ、遠慮しておくわ」

「なんでよ〜っ」


(……もう面倒くさい。俺が床で寝るか)


 そう思い、起き上がろうとした瞬間、またも勝手にドアが開く。廊下の光が部屋に差し込んだ。


 現れたのは、またもアヤ姉。顔だけ部屋の中に入れ、キョロキョロと中を見回している。


 ふとエリカのことが気になり、寝返りを打って様子を見てみれば、彼女はベッドの上から忽然こつぜんと姿を消していた。


 まぁ、アヤ姉が見廻りに来たから、急いでベッドの下にでも隠れたんだろう。


「……くんくんっ。……あれれ? なんかユキくんのじゃない匂いがする」


 アヤ姉の嗅覚……すっごいな。


「……くんくんっ。……くんくんっ。こっちの方から匂うなぁ」


 鼻をヒクつかせながら、アヤ姉が勝手に部屋の中を歩き回り始めた。


 カーテンを開く。首を傾げる。


 クローゼットを開ける。首を傾げる。


 タンスを開ける。俺の下着を平然とパクる。


 そして——。


「……エリカちゃ〜ん? そんなところで何してるのかなぁ?」


 ——「何してるの?」は下着をパクられた俺のセリフだ……という話は置いておいて、ベッドの下に隠れていたエリカが見つかってしまった。


 さて、エリカはこの状況をどう切り抜けるんだろうか?

 そして、アヤ姉は俺の下着をどうするつもりなんだろうか?


「ふぁ〜あ、よく寝た。って、あれ? ここどこ? えっ、もしかしてユキの部屋!? あ〜私ってば寝相が悪いからユキの部屋まで来ちゃったんだぁ。……てへっ///」


 ……その言い訳は無理がある。寝相が悪いってレベルじゃない。ベッドの下で可愛くペロッと舌でも出してるんだろうけど、そんなもんで誤魔化ごまかせるレベルじゃない。


「なるほど〜。それじゃあ、早く自分のお部屋に帰りましょうね〜」


 そう言って、アヤ姉がエリカの足首を掴んでズルリとベッドの下から引っ張り出す。

 そして、そのまま、うつ伏せの状態のエリカを部屋の外までズリズリと引きずっていった。


「た、助けて、ユキ! アヤ姉におしりペンペンされちゃう〜っ」

「……知らんがな。自業自得だろ」


 アヤ姉の部屋のドア枠に手を掛け、必死の抵抗を試みたエリカが、敢え無く部屋の中に引きずり込まれたのを確認してから、俺は自室のドアをバタンっと閉めた。


「さっきの『平等にシェア』って何だったんだよ……。ヒナもエリカも……。いや、考えるのはやめておこう。明日も学校なんだし、さっさと寝なきゃ」


 精神的に疲れ果てた俺は、ベッドの中で丸くなる。アヤ姉に下着をパクられたことも忘れて、まるで防衛本能が発動したダンゴムシのように……。


◇◆◇◆◇◆◇◆


『二度あることは三度ある』


 翌日の朝。


 ……と言っても、あれから二時間後だが、またも俺は、ベッドの中モゾモゾと蠢く何か……というか、誰かに体を直接サワサワとイジられて目を覚ました……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る