第20話 『勘太郎の嘘と奇策』

          20.勘太郎の嘘と奇策



「白い腹黒羊の動きは完全に封じたぞ。さあ黒鉄の探偵こと黒鉄勘太郎、お前は一体これからどうするつもりだ。この状況では三対一で明らかにお前の方が不利だ。それともまだ何処かに仲間が隠れているのか?」


「そんな者はいない。お前達の息のかかった監視役の目を欺く為に俺達も密かにおとり役の身代わりを立ててお前達に情報が行かないように赤城先輩には町に居残ってもらったからな。だからここには俺と羊野の二人でしか来てはいない」


「どうやらそのようだな。もしもまだ何処かに伏兵が隠れているというのなら、このピンチに駆けつけてもいいはずだからな。それに今から二十分前に受けた連絡係の報告ではあの女刑事は今も漁港のある町で金丸重雄の死体を調べているらしく、機材を集めて検視解剖を試みようとしている報告があった。だからあの女刑事がこの場に来ていないと言うことは既に知っている事実だ。そう事実なのだが、それにしてもあの女刑事、死体の解剖もできるのか。そんな資格も持っているのか」


「赤城先輩は見かけによらず意外と優秀だからな。図書館やSNSで独自に勉強をした知識を持つ羊野と違って、赤城先輩の方はちゃんと大学に通って知識を得ただろうから解剖学に携わる資格は当然持っているだろ」


「つまりあの女刑事は文字通りのエリートと言うことか。そんな優秀な刑事をおとり役にして代わりにお前が現場に来るとは、明らかに人選を間違えたな。まあこちらとしては助かったが、まさかとは思うが無策ではないのだろ。それとも白い腹黒羊がいれば我々の制圧は簡単にできると高をくくっていたのかな。まあ俺としても、あの接近戦にも強い白い腹黒羊とまともに正面を切って戦うのはなるべく避けたかったからな、だから手始めに彼女の動きを先に封じたのだよ」


「なるほど、ご丁寧な説明、ありがとう御座います。お陰で納得がいきましたよ。羊野の動きを先に封じる事ができたら、後に残された俺は雑魚だからどうとでもなると考えたんだな。理解ができたよ」


 極度の警戒と緊張で一歩も動けないでいる勘太郎に死伝の雷魚が水中銃を構えながらゆっくりと近づき、その後ろに大島豪と大栗静子が続く。


 勘太郎が見た感じでは死伝の雷魚が持つ水中銃の動力は伸縮の力で威力を発揮するゴム製らしく、銛の後方部分に紐がついていないタイプの代物のようだ。その弾倉がカラになった水中銃の砲身に死伝の雷魚は素早く新たな銛をセットする。


(背中に後二本ほどの予備の銛を背負っているのか。くそ、背中から新たな銛を取り出している今が死伝の雷魚を取り抑えるチャンスだったのに、水中銃と敵の人数にびびってせっかくのタイミングを見す見す逃してしまった。だがまだだ、焦るなよ、俺……まだその時じゃない。あと少しだけチャンスが来るのをひたすら待つんだ。そこさえ乗り切れば必ずあの三人を一度に制圧できる隙が必ずできるはずだ。その限られたチャンスを絶対物にするんだ。もしもこの隙を逃したら俺はこの三人に確実に殺されるだろうから、失敗は絶対に許されないぞ。俺や羊野だけが死ぬのなら仕方が無いことだが、一般人の花間敬一社長に死なれたら俺達は実質上負けたも同じだ。だから花間敬一社長に殺害の目を向けさせることだけはなんとしてでも避けないとな)


「さあ、新たな銛は水中銃にセットしたぞ。では黒鉄の探偵、先ずはお前から死んで貰おうか。黒鉄勘太郎を殺したら次は白い腹黒羊だ。そして最後に今回の主力ターゲットでもある花間敬一社長と今現在ペンションにいる娘の花間礼香を殺してこの狂人ゲームの幕を閉じるとしよう!」


(こ、殺される、殺されてしまう。俺は一体どうしたらいいんだ……くそ、死を突きつけられて体が思うように動かないし、もうなにも考えが浮かばないぜ)


「黒鉄さん!」


 今まさに水中銃を撃とうとする狂人・死伝の雷魚の殺意に頭の中が真っ白になる勘太郎だったが、羊野が投げた小石が勘太郎の体に当たった事により、この土壇場で怖じけずいていたはずの勇気が爆発する。


「うっりゃあああぁぁぁぁぁぁぁーーっ!」


 バッサァリ!


 死伝の雷魚が引き金を引くよりも早く反応した勘太郎は気合いを込めた虚勢を張りながらも着ているダークスーツの上着を素早く脱ぐと死伝の雷魚の顔に目がけて視界を遮るような形で着ている物を被せる。その一瞬視界が遮られた事で勘太郎の姿を見失った死伝の雷魚は勢い任せに繰り出した勘太郎の拳から放たれる右ストレートのパンチを(魚のマスク越しに)顔面に叩き込まれる。


「これでもくらえぇぇ!」


 バッキィィーーン!


 勘太郎から放たれた右ストレートのパンチを受けた狂人・死伝の雷魚は一瞬勢いのままにその体を後ろへと後退させたが、何事も無かったかのように両手に持つ水中銃の後ろのパーツ部分にあるバットストック(銃床)を勘太郎の腹部に向けて勢いよく叩き込む。


 ドッカン!


「ぐっはぁぁーーっ! 」


(す、水中銃の後ろに、ライフル銃のような銃床なんてそもそもついてはいないはずだ。と言うことはあの水中銃はまさか自作の改造型か。強力なゴムの力で銛が飛ぶ仕組みのようだが、水中銃から放たれる銛による一撃だけはなんとしてでも避けないとな!)


 そんな事を考えながらも勘太郎は撃つ暇は絶対に与えないとばかりに死伝の雷魚の体に密着しそのまま素早い押さえ込みに入るが、死伝の雷魚が繰り出す銃剣術のような銃身を使った術裁きに無様にも翻弄され相手の攻撃を腕や足だけではなく腹部や頭部にもまともに受けてしまう。

 その一方的な猛攻撃についに立っていられなくなった勘太郎は堪らず地面へと倒れるが、そんな勘太郎を見下ろしながら狂人・死伝の雷魚はその場で仁王立ちをする。


「はははは、最後の悪あがきに一か八かの攻撃を仕掛けて来たようだが、無駄な努力に終わってしまったようだな。なんの考えも無くここに来た時点でお前の死は決まっていたのだ。戦いその物を白い腹黒羊だけに任せようと思った時点でお前はなんの役にも立たないただのお荷物だと言うことが証明されたのだ。そしてこの場所に不用意に来てしまった事を後悔しながら死んで行け!」


(立たなくては、立って死伝の雷魚の注意を俺に向けなくては花間敬一社長と羊野に注意が向いてしまう)


 死伝の雷魚の激しい攻撃を受けながらも持ち前の根性でなんとか立ち上がった勘太郎は、ハアハアと荒い息を吐きながらもあえて足止めするかのように目の前にいる死伝の雷魚を睨む。


「なんだよ、もう勝ったつもりでいるのか。まだ俺を殺してもいないのにちょっと気が早いんじゃないのか。そして岩材哲夫、あんたが大島豪と共に海を汚す者達を無慈悲にも殺し回る理由がなんとなくわかったよ。その理由は過去に沖縄の海を守る為に心無い債務者達にいくら抗議の声を上げてもその声が実を結ぶ事は無く、現実問題自分達の真っ当な訴えでは沖縄の海や自然は絶対に守れないと心底思ったからだ。そんな力の無い自分に絶望し半ば活動を諦めていたあんたに大島豪が近づき『円卓の星座の狂人となり、共に沖縄の自然を守ろう』という話を持ちかけて今に至っている、とまあそんな所だろ。大島豪の黒革の手帖を盗み見た時に円卓の星座と繋がっている僅かな情報がはっきりと書き込まれていたから大島豪がお前を沖縄諸島の海を守る実行部隊として円卓の星座の狂人・死伝の雷魚に仕立て上げた事が分かった。そして大島豪の方はその会長という地位を使って自分達と同じ立場と志を持つ海を愛する者達で結成された会員達を使って抗議活動を地道に行い、その過程の中で地元愛が更に深い特別会員達を選抜して狂人・死伝の雷魚が作りし完璧なアリバイ作りを巧みに手伝わさせた。だからこそ死伝の雷魚が作りし殺人トリックもアリバイも警察に見破られる事は絶対になかった。なぜなら狂人・死伝の雷魚の強みは後ろ盾でもある会長の大島豪が指揮する沖縄の海を守る会の特別会員の力がどうしても必要不可欠だからだ。そんな死伝の雷魚がつくりし人魚伝説の呪いを南の島で実現し完成させる事で自分たちの暮らしを守ることができると会員達は信じたから人魚伝説は今に至っている。そう全ては自分達が行っている行動が絶対に正しい事だと信じ切る為に……。だがな、いくら正当な理由を並べても人を殺していい理由にはならないぞ。海や自然を守るためにレジャー施設開発プロジェクトに反対の意思を示すのならもっと他に色々とやり方があったはずだ!」


「フン、利いたふうな言葉を吐きおって。我々のような一般人がいくら集まり抗議の声を上げても状況は何も変わらないではないか。そう我々のような力の無い人々の必死な思いはいつも世間の隅へと追いやられて無視され、そして何もできないままに権力者達の欲という思惑に翻弄されながら自分達の無力さと無慈悲な現実に絶望するのだ。だから俺と大島は動いたのだ。たとえ共に闇に落ちようとも、この沖縄の海だけは絶対に守り抜くとこの海に誓ったのだ。その志高い正当な我々の活動に協力をし賛同してくれる同士も密かに集める事ができた。そう同じく海を、この南の島の土地で生きる全ての者達の生活を守る為に共に戦いぬく事を仲間達は誓ったのだ!」


「仲間達……沖縄の海を守る会の特別会員の人達の事か」


「そして今回我々は花間建設株式会社が行っている心無い暴力的な事業の為に家も旦那も失ったという依頼者の大栗静子の願いを聞き入れ、花間敬一社長とその関係者達に死の鉄槌を下す為にレジャー施設開発プロジェクトを止めるべく共に立ち上がったのだ。そんな志高い我々の計画を白い羊と黒鉄の探偵、お前らは今まさに壊そうとしている。そうだ、お前達の活躍のお陰で我々が築き上げて来た沖縄の海を守る会の全てが崩壊しようとしている。だがな、それでも今回の依頼のターゲットでもある花間敬一社長の命だけはなんとしてでも奪わせて貰うぞ。それが依頼人でもある大栗静子に対する俺達の責務だからだ。そして最後に今回の狂人ゲームは間違いなくお前達の勝ちだが、俺達の邪魔をしてくれたお前達には絶対的な死を持って完結させて貰うぞ。つまりお前達は勝負に勝って戦いに負けるのだ。そして今回トリックもその正体もばれてしまった我らにもう明日はないだろうが、その帳尻で今回は良しとするとしよう!」


「フ、冗談じゃないぜ、こんな所で死ぬのはごめんこうむるぜ。狂人・死伝の雷魚、先ほどお前は俺になんの策もなく突っ込んできた愚か者だと俺を罵ったが本当にそう考えているのか。もしかしたら本当は物凄い事を考えているかも知れないぞ。お前達を一網打尽にできる物凄い奇策をな」


「フフフフ、負け惜しみをいいおって、そんなはったりが今更通用すると思っているのか。そんな手があるのならもうとっくの昔に出していてもおかしくはないよな。だがそんな手が一向に出てこないと言うことは、初めからそんな手はないと言うことだ。お前はなんの対策も無く無計画のままにこの場に来ているから今まさに絶体絶命のピンチに陥っているのだ。そうだろ黒鉄の探偵!」


「そうよ、はったりよ。このはったり探偵を早く殺してしまいなさい。そして花間敬一社長を確実に殺すのよ。早くして!」


「狂人・死伝の雷魚よ、早くここにいる者達を殺して、沖縄の海を守るのだ。お前にはその責務を果たす使命があるはずだ。その気高き正義を実行しろ。そうだ、我々は常に正しいことをしているのだ!」


 死伝の雷魚こと岩材哲夫に向けて殺害をせがむ大島豪と大栗静子の二人の尋常ではない異常な狂気を見ながら勘太郎は何か含みのある声で淡々と話し出す。


「そうか、なら俺も最後に奇策を見せてやるよ。充分に時間稼ぎもしたし、そろそろいいだろう!」


 大島豪・大栗静子・そして狂人・死伝の雷魚こと岩材哲夫の三人の注意を自分に引きつける事に成功した勘太郎は高らかに右手を上げるとその行為を合図とばかりにその場を照らしていた眩い光がいきなり消える。


 パッシュン!


「な、なんだ、いきなり光が消えて辺りが真っ暗になったぞ。これじゃなにも見えない。くそぉぉぉ、ここへ来ていきなり俺達の視界を奪うとはどういうつもりだ。無駄な事をしやがって。一体何を企んでいる、黒鉄の探偵!」


 いきなり現場を照らしていたライトを消された事で狼狽する死伝の雷魚は直ぐに魚の形をしたマスクに内蔵されてある暗視装置機能に変えて視界を見るが、その瞬間また眩いばかりのライトが再度周りを照らしだし、その点灯する二つのライトの光が一点で交わり集中するかのように狂人・死伝の雷魚の目の前で交差する。


 ピッカアァァァァ!


「くそぉぉぉぉぉぉ、俺に向けて光を集中させるとは、やはり黒鉄の探偵と白い腹黒羊の他にまだ誰かいるな。そうでなかったらこのライトの光の説明がつかない。この遠くから照り付けるライトの光は、夜間の工事現場で辺りを照らす時に使う6灯式照明車か。あれを工事現場から運転してここまで運んできたのか。なるほど白い羊と黒鉄の探偵が出てきた時に気づくべきだった。おのれぇぇぇ、一体誰が制御をしているんだ。小賢しい真似をしやがって!」


「悪いな、俺と羊野の二人しかいないというのは当然嘘だ。もしもの時の為に彼には工事現場にあった照明車を運転して貰って、ここで証明を照らして待機をして貰っていたんだ。いざという時は俺か羊野の合図でライトの点滅の操作をしてくれと頼んでいたからな」


「おのれぇぇぇぇ、黒鉄の探偵、どこだ、どこにいる。今すぐにこの水中銃でお前の心臓を撃ち抜いてやる!」


 暗視機能に切れ変えていた事でまともにその光を見てしまった死伝の雷魚は完全に視界を奪われ辺りが何も見えなくなる。パニックを起こした死伝の雷魚は勢いのままに前方に向けて水中銃の銛を発射するが、その直ぐ後に強烈なタックルを腹部にまともに受けてしまう。


「これでもくらえぇぇ!」


 バキッ!


 銛の攻撃をどうにかかいくぐった勘太郎は直ぐさまタックルによる反撃で攻勢に出るが、その視界を防がれた攻撃で大きく体勢を崩した死伝の雷魚はその足取りをよろめかせる。


「おっと、あぶねえ、黒鉄の探偵の奴、いきなりタックルなんかをかましやがって、今さらそんな苦し紛れの攻撃が俺に効くと思うか。全く話にならないぜ!」


 精巧に作られた魚型のマスクを脱ぎ捨てた死伝の雷魚は仕方なくその素顔をついに晒す。マスクを脱いだ事で目が光に慣れてきた岩材哲夫は、沼地のほとりに近づく勘太郎の姿を見つける。


 死伝の雷魚こと岩材哲夫は直ぐに勘太郎を殺すために再び近づこうとするがあることに気づきその歩みを止める。なぜならついさっきまで死伝の雷魚が手に持っていたはずの水中銃を勘太郎が持っていたからだ。


 あの計算尽くされた視界を封じる明暗攻撃で視力を一時的に封じられた死伝の雷魚はその一瞬の隙を突かれ、どさくさ紛れに手に持つ水中銃を奪われたのだ。


 勘太郎がタックルを仕掛けてきた時点で気づくべきだったが、視界をいきなり奪われた事で内心パニックとなっていた死伝の雷魚は手に持っていたはずの水中銃をつい手放してしまったのだ。その失態を隠すために死伝の雷魚は勘太郎に向けて激しく激高する。


「おのれぇぇぇぇ、黒鉄の探偵、姑息な真似をしやがって。だが銛が込められていない水中銃を取り上げて一体どうするつもりだ。武器として使えない水中銃を取り上げてもお前が不利な事は変わらないぞ!」


「いいや、そうでもないさ。この危ない水中銃は、お前の手から離すためにわざわざ奪ったんだよ」


 岩材哲夫・大島豪・大栗静子の三人の接近に注意を払いながら真剣な目を向ける勘太郎は柔やかに笑みを作るとその手に持つ水中銃を豪快に池間湿原の沼底へと投げ捨てる。


 ジャッポーーン!


 その投げ捨てられた水中銃が闇夜が広がる沼地の水底に沈んでいくのを間近で見ていた大島豪と大栗静子は口をあんぐりとさせながら唖然とし、死伝の雷魚こと岩材哲夫の方は怒りの熱で顔を赤く沸騰させながら勘太郎に近づこうと再度歩き出そうとする。だがそんな岩材哲夫の前に立ちはだかったのは車のサイドドアの部分に銛で固定されて身動きが取れないでいたはずの羊野瞑子だった。


 白い腹黒羊の二つ名を持つ、元円卓の星座の狂人の羊野瞑子は左手に持つ打ち刃物の大きな包丁をダラリと下げながら白い羊のマスク越しに目の前にいる狂人・死伝の雷魚こと岩材哲夫を不気味に見つめる。


「ホホホホ、やっとまともに相まみえる事ができますわね、狂人・死伝の雷魚さん。ウチの上司とのつまらない前座も済んだ事ですし、ではそろそろ生死を賭けた本当の戦いを始めましょうか。さあ私を楽しませてくださいな!」


「白い腹黒羊、そうか、銛が抜けなかったから、その隠し持っていた包丁でロングスカートを切り裂いて脱出したと言うことか」


「おかげで太もも部分から足の先まで切り込みを入れる事になりましたが、動く度におパンツが見えてしまうかどうか不安でかなり恥ずかしいですから、いつものような身軽で豪快な動きがもしかしたらできないかも知れませんね」


「抜かせ、お前にパンツを見られて恥ずかしいとか不安だとか、そんな初々しくも恥じらいを感じるまともな気持ちは最初からないだろ。俺の目をいろんな意味で欺く為に発した言葉だな!」


「ホホホホ、ばれましたか。パンツが見えちゃうから手が鈍ると言えば油断も生まれますし、あなたが色欲の強い男ならこのチラ見を見せつけられる下着の姿で戦うのも面白いと思ったのですがね」


「お前の色香に騙されるのは、お前の後ろにいるまだ若い青年の黒鉄の探偵だけだ。奴と一緒にするな!」


「確かに、黒鉄さんはむっつりスケベですからね。納得ですわ」


「な、な、どさくさ紛れに何言ってんだお前ら、自慢じゃないが、俺は羊野をそんな目で見たことは一度も無いぞ。過度な自信過剰はやめて貰いたい物だな。まあ見かけだけなら美人だし大概の男は落とせる自信はあるのだろうが、そもそも羊野は俺の好みのタイプじゃないから、誤解を生むような発言はやめてくれぇぇぇ!」と顔を真っ赤にしながら勘太郎は思わず叫ぶ。


 そんな複雑な心境を抱く勘太郎を守るがごとく目の前に立つ白い腹黒羊こと羊野瞑子は「はいはい、わかりました。私が間違っておりました」と言いながら死伝の雷魚の前に立ちはだかるが、そんな白い腹黒羊との間合いを取る死伝の雷魚は、背中に背負っている新たな銛を一本取り出すとその銛を前に突き出しながら豪快に構える。


「危険と隣り合わせが大好きなこの戦闘狂の狂人め。そこまで言うのならいいだろう。では望み通りお前を血祭りにしてやるよ。たかだかすばしっこさが取り得なだけのいかれた小娘が、今ここで確実に殺してくれるわ!」


「ホホホホ、それは楽しみですわ。では始めましょうか!」


 勘太郎、花間敬一社長、大島豪、大栗静子の四人が見守る中、狂人同士の(直接的な)最後の戦いが始まろうとしていた。

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