第11話 『池口琴子の死因の謎』

          11. 池口琴子の死因の謎



「そんなバカな、部屋のドアには当然ロックもかかっていたはずだ。それなのに、これは一体どういうことだ。死因は、池口琴子の死因は一体なんだ?」


 時刻は午後の十三時十分。


 料理人兼管理人の岩材哲夫の連絡で急遽ペンションに戻ってきた勘太郎と羊野、そして赤城文子刑事の三人は、フロントで待っていた岩材哲夫と合流するとそのまま池口琴子が宿泊している部屋へと案内される。部屋のドアを開けた途端、ズカズカと我先にと入って行く羊野は洗面台付近で仰向けに倒れている池口琴子の死体を見つけると脈拍や目の中の瞳孔を覗き込みながらその死因の大まかな原因と死亡推定時刻を算出する。


「池口琴子さんの死亡推定時刻は午前十時から十二時くらい。体中を簡単に調べては見ましたが特に外的被害はなさそうですから、誰かに襲われたような損傷も特にはないようです。そして死因は心臓に負担を掛けてのショック死だと思われます。池口琴子さんは心臓に大きな病気を抱えていたようですし、心臓付近にはピースメーカーも入っていたと聞いていますから、突然心臓に異常を来して状況が悪化したのか、或いは何か強い感情を揺さぶるような出来事が起きて病状を悪化させたかのどちらかだと思われます。なぜならこの部屋には当然のように鍵がかかっていたでしょうし、管理人の岩材哲夫さん以外はこの部屋の合鍵は持ってはいない訳ですから犯人が池口琴子さんに危害をくわえることはかなり難しいでしょうね」


「ええ、確かにこのペンションの全ての合鍵はフロントの奥の部屋にあります。そしてその部屋の鍵は常に私が持ち歩いていますから誰かが池口琴子さんの部屋の合鍵を取りにそのフロントの奥の部屋に入ることはできないと思いますよ。もしも部屋のドアを破って入ったりなんかしたら契約している警備会社に連絡が行く仕組みになっていますから直ぐにわかるはずです。でもフロントの奥の部屋の鍵は破られてはいないので、誰も池口琴子さんの部屋には入ってはいないと言うことです。その証拠に私が池口琴子さんの部屋の鍵を合鍵で開けて入ったということは部屋の鍵は閉まっていたということですし、池口琴子さんが自ら持っていた部屋の鍵は部屋の中にあるテーブルの上に置いてありましたから、池口琴子さんを殺害してから部屋を出て鍵を閉める事はまず不可能だと思いますよ」


「部屋の窓はどうだったのですか」


「池口琴子さんのいるこの部屋は一階にありますが、部屋の鍵は二つ鍵が内側に付いていますから窓から侵入する事もまず不可能です。勿論窓ガラスが割られた形跡もありません」


 不安を隠しきれない岩材哲夫の必死な説明に二人の話を聞いていた警視庁捜査一課特殊班の赤城文子刑事がすかさず話に加わる。


「つまり池口琴子さんの死体のある部屋は密室だったと言うことね。確かに今のこの状況から考えて友人が変死したという心労がたたった事での突然死にも見えるけど、そこはもう少しよーく調べて見ないと正確な確証は得られないわね。それで、池口琴子さんの死体を見つけた第一発見者は岩材哲夫さんのようだけど、岩材哲夫さんはなぜ(合鍵を使ってまで)池口琴子さんの部屋を訪れたのかしら。そして発見したのは何時頃なのかしら?」


「池口琴子さんの部屋を訪れて死体を発見した時間は十二時四十分くらいです。池口琴子さんは誰かに命を狙われているという強迫観念のような物がありましたからお昼の食事は部屋に届けてくれというお願いをされていたんですよ。なので十二時くらいに届けに行ったのですが何の返答もなく一度目は引き返して来ました。でも十二時四十分くらいに二回目の昼食を届けに行った時になんだか妙な違和感と胸騒ぎを感じましてね。これは部屋でなにかがあった物と思い、いくら呼んでも携帯電話に連絡を入れても彼女からの返答が全く無いので仕方なく部屋に入らせてもらった次第です。池口琴子さんは心臓の病気を抱えていましたし、常に部屋にいるからお食事は全て部屋に持ってきてくれと言われていました。なのでこれは絶対に緊急事態だと思ったんですよ。何もなく私の早合点なら私はただ謝るだけですし、昨日は昨日で自らの部屋の浴室で溺死した日野冴子さんの事故の件もありますから、常にお客様の身の安全を気にして注意を払っていたんですよ」


「そ、そうでしたか。では詳しい話はここではなく何処か別の部屋で聞かせてください。この部屋はこれからここにいる白黒探偵が調べますので、私達は邪魔になります。というわけで勘太郎と羊野さん、後はお願いね」


 赤城文子刑事は自慢のさらさらヘアーの前髪をさりげなく直しながらそう言うと、勘太郎と羊野に何やら意味ありげなウインクを送る。

 その意味が通じたのかは定かではないが、赤城文子刑事が岩材哲夫を連れて部屋を出たのを見届けた勘太郎と羊野は死体となって倒れている池口琴子の着ている衣服に注目する。


「衣服の胸元辺りに白い液体のような物がシミとなって付いていますわね。恐らくは歯磨き粉か何かでしょうか。と言うことは……何処かに歯ブラシも落ちているはずです」


「え、歯ブラシだって?」


 羊野が体を低くしながら隣にある小型の冷蔵庫の下を探ってみると羊野の読み道理に歯磨き粉で汚れた歯ブラシを発見する。


「歯ブラシが本当に冷蔵庫の下の床に落ちていやがった。と言うことは羊野の読み道理に、池口琴子が洗面台の近くで倒れていたのは歯を磨くためだったと言うことか」


「池口琴子さんの衣服には僅かではありますが歯磨き粉の液体が付着していましたし、口の中にも歯磨き粉の液体が溜まっていました。つまり池口琴子は何らかの強いショックを受けて心臓に負担がかかりショック死をしてしまった物と思われます。それが精神的な物か、或いは物理的な物かはまだ分かりませんが、この密室の部屋の中で確実に人を死に追いやれる何らかの仕掛けが施されている事だけは確かなようです」


「確かなようですと言われてもな。結局死伝の雷魚は一体どうやって池口琴子にショック死を与えられるくらいの精神的なダメージを送る事ができたと言うんだ。いくら心臓に病気を抱えていたとはいえ本当に呪いや祟りでも操れない限りそう都合よく人をショック死に陥らせる事なんてまず出来やしないだろ!」


「ええ、確かに友人の不可思議な死を目の当たりにした事で自分も見えざる何かに呪われているかも知れないという強迫観念や疑心暗鬼が彼女には常にありましたからね。かなり精神的にも参っていたようですし、その心労も確実に溜まっていたとは思いますが、池口琴子さんが死亡したこの事件は精神的なダメージではなく物理的なダメージによるショック死かも知れませんよ」


 淡々と仮説を話す羊野の言葉に勘太郎は目を見開きながらも思わず聞き返す。


「物理的なダメージだと。つまり池口琴子はこの部屋の洗面台で歯磨きをしていた時に直接自分の心臓に与えるくらいの何らかの衝撃を受けたと言いたいのか。まあ人がこの部屋の中に入れないのならやはりその方法は電気を使った感電死のような物になるが、池口琴子の体には感電の後は全く見ることはなかった」


「黒鉄さん、池口琴子さんを殺すには少しの電流だけでいいのですよ。心臓の近くにピースメーカーを入れているくらいに心臓の働きが悪いのなら、百ボルトの電流を瞬時にその体に受けただけでもそれなりにダメージはあるはずです。そしておそらく池口琴子さんはこの洗面台で電流に当たっていた時間は二~三秒ほどくらいだったと推察されます」


「まあ、俺も電流によるショック死の可能性は考えたが、そもそもどうやって池口琴子の体に電流を流すんだよ。たとえ犯人がスタンガンを持っていたとしてもこの部屋の中にそう簡単には入れやしないだろうし、電流を流すコード線も仕掛けも何もないじゃないか。それに池口琴子が部屋を変えたのは昨日の事だから犯人が前もってその情報を知っていなかったらそもそも電流をながす仕掛けなんて仕掛けられないだろ」


「そうですわね、不思議ですわね」


「そう考えたらあの鍵のかかった密室で犯人は一体どうやって池口琴子を感電させる事ができたのか。しかも羊野が言うには感電の火傷が付かない程度の少しの電流で殺せたのは池口琴子の心臓がかなり弱っていたからだと言うが本当にそれだけで人をショック死させる事ができるのかな?」


「心臓に深刻な疾患を抱えている人には少しの電流だけでも充分に致命的になり得るはずです。しかも池口琴子さんは一日前に友人を亡くしているだけではなく自分も何者かに狙われているという思いに常に怯えていましたからね。その傷心になっている痛んだ心にいきなり電流でショックを与えられる訳ですから心臓付近に埋め込まれてあるピースメーカーの機械が誤作動を起こして止まっても不思議ではないかも知れませんね」


「もしピースメーカーが壊れたら心臓に血液が送れない池口琴子は強い動悸でそのままショック死をしても可笑しくはないと言うことか」


「まあその電流のせいで心臓付近に埋めこまれているピースメーカーの機械が壊れたかどうかは正直分かりませんが、その鼓動のデータは随時送信されて最寄りの病院まで届いているはずですから、池口琴子さんが通院している病院に連絡をして彼女のピースメーカーの機械の送信データの脈拍の鼓動の動きを調べる事ができれば、十時から十二時の間に一体何があったのか。そのグラフの動きで電流によるショック死かどうかがわかるかも知れませんよ」


「それでお前が言うように池口琴子の死因が電流によるショック死だったと仮定して、その仕掛けは一体どういう物なんだ。もう薄々はわかっているんだろ。その仮説を聞かせてみろよ」


「その方法は日野冴子さんを死なせた時のトリックと一緒ですよ。ではその仕掛けをこれから再現しますので黒鉄さんはここで待っていてください。私は外に出て準備をして来ますから」


「じゅ、準備だと……わかった、早くしろよ」


 その勘太郎の声に従い羊野は一人部屋を後にする。


 その間も池口琴子の死体がそのままの状態であることに憤りを感じた勘太郎は、死体となった彼女に手を合わせながら全身に大きなバスタオルを被せる。

 まだ死体を動かす事はできないが、一通りは彼女の外傷を見て回ったので、個人的にバスタオルくらいは掛けてやろうと思ったからだ。たとえ死体とはいえ人にこんな醜態を見られるのはまだ若い女性なら流石にいやだろうという勘太郎の勝手な優しさがそうさせたのだ。


 一、二回話しただけだったとはいえ池口琴子の事はそれなりに心配をしていたので、勘太郎は柄にもなく人の尊厳に配慮した姿勢を見せる。


(羊野の読みでは、池口琴子は感電によるショック死で殺されたと言っていたが、そもそも洗面台の流しに水も溜まってはいないのに感電はできないだろ)


 そんな事をつい考えてしまう。


 ……。


 あれから十分が過ぎ「結構時間がかかるな。あいつは一体なにをしているんだ?」とそんな事を呟いていると、勘太郎の携帯電話の着信音が鳴る。


 ようやく来たかと思い、その表示されている携帯電話の画面を見てみると相手の電話番号と名前が画面にハッキリと映し出される。


 その電話は勿論勘太郎の携帯電話に登録されている羊野瞑子からの電話である。


。勘太郎はその掛かってきた電話に素早く出ると、形の古い柄系の携帯電話の機種を耳元に当てながら羊野の話を直ぐさま聞く。


「もしもし、俺だが。一体何をしたいのかは知らんが結構時間が掛かったじゃないか。それでこの後お前は俺に何を見せてくれるんだ?」


「お待たせしました。では池口琴子さんが一体どうやってショック死をしたのかを今から再現しますね」


「再現だと?」


「はい再現です」


 そう穏やかに言うと羊野は電話の向こう側でスコスコと何かの作業を始める。


(なんだ、一体なんの音だ?)


 勘太郎がそんな事を考えていると、いきなり洗面台の排水口の奥から得体の知れない音がゴボゴボとし始め、本来は水が流れ出るはずの排水口の水が下からあふれ始める。


「な、なんだ、排水口の中で何かが詰まって逆流しているのか洗面台に水が溜まり始めたぞ。これは一体どうなっているんだ?」


「黒鉄さん、もしも池口琴子さんが洗面台で歯を磨いている時にこんな現象に陥ってしまったら彼女は咄嗟にどんな行動に移ったでしょうか」


「どんな行動って……やはり排水口の中に何かが詰まっていると思って排水口の入り口の中に指を突っ込むよな」


 水が溜まる排水口の入り口に指を突っ込むのは流石に汚いとは思ったが、勘太郎は羊野に言われるがままに仕方なく水があふれ出している排水口の中に指を突っ込む。


 ビリビリ、ビリビリ!


 その瞬間、突き入れた右腕に強い衝撃となっていきなり電流が走り、不意を突かれた勘太郎は思わず「うっぎゃぁぁぁぁぁーーぁぁ!」という情けない声を上げながら後ろへとのけ反る。


(あ、あのやろう、まさかと思ってはいたが、本当に電流を流しやがった!)と深い怒りを抑えながらも勘太郎は電話の向こう側にいる羊野瞑子に抗議の声を上げる。


「お前、誰がそこまで実際に再現しろと言った。思わず左腕に持っていた携帯電話を洗面台の中に落としそうになったわ!」


「フフフフ、黒鉄さんご苦労様でした。それで実際に排水口の水を伝った電流を受けてみてどうでしたか」


「どうでしたかって、中々の衝撃だったぞ。あんな電流の衝撃を不意に食らったら死なないまでもかなりの衝撃を受けるだろうな。もう水の溜まった液体にしばらくは触れることができなくなるくらいにトラウマになるんじゃないのか。流石の俺もこの水が溜まっている洗面台の中に再び手を入れろと言われてもまずできないだろうしな。それで今の電流は何ボルトくらいあるんだ?」


「普通一般的な家庭用のコンセントから流れる電気は(例外を除いて)皆百ボルトに決まっているじゃないですか。でも百ボルトもあれば心臓に疾患のある池口琴子さんやお風呂場で入浴中の日野冴子さんを殺害することはできますよね」


「でもたかだか百ボルトの電圧では人はそう簡単には死なないだろ」


「確かに長い時間電気に触れていたのならともかく一瞬だけだったら強い衝撃をその体に受ける事はありますが感電の火傷をしたり、感電死をしたりはしませんよね」


「確かに……な」


「でもそれでいいのですよ。死伝の雷魚の真の狙いはあくまでも相手に強い衝撃を与える事で、あくまでも感電死をさせる事ではないのですから。心臓の弱い池口琴子さんの場合は一瞬流れる百ボルトの電流の衝撃だけでショックを与えて殺せるという狙いがあったでしょうし、日野冴子さんの場合は湯船の中で入浴をしている時にタイルの床にいつの間にか水が溜まっていたのを知らずに電流が流れる百ボルトの中にその片足を踏み出してしまったが為に死に至ったのではないでしょうか。だからこそ日野冴子さんはびっくりして体勢を大きく崩して、その勢いのままに不幸にも足を滑らせて湯船の角の部分に後頭部を強く打ち付けてしまった」


「確かに日野冴子の死因は頭蓋骨陥没と内出血での死亡だからな」


「そして本来考えていた死伝の雷魚の計算では、お風呂場の中で逃げ場のない日野冴子は足の踝まで溜まっている床の水の中で電流を浴び続けた挙げ句に気絶をさせられて、そのまま溜まっている床の水で溺死をして貰うのが目的だったはずです」


「まあ犯人側としては、この地元では深く信じられている人魚伝説の祟りを上手く演出して人を死に追いやりたいだろうから、だからこそ今までの被害者達は皆海や水に関わる不可思議な事故で殺されている。ならその水難を絡めたこだわりはかなり大きいだろう」


「そして日野冴子さんと池口琴子さんを感電させたそのトリックの仕組みですが、内容は至ってシンプルです。おそらくこの犯人は二人が宿泊している部屋に前もって侵入してお風呂場の排水口や洗面台の排水口に目印を付けて長い糸を流したのではないでしょうか」


「糸だって、一体なんの為にだ」


「勿論日野冴子さんと池口琴子さんを密室の部屋で感電させる為ですよ。排水口の中に糸を流して外の下水に流れるパイプの先で待っているもう一人の仲間にその糸の先端を回収させて、その糸の先に銅線がむき出しになっているタップのコード線を繋ぎます。そしてその糸を再び部屋の排水口の入り口付近まで引っ張り戻して行き、むき出しになっている銅線を排水口の入り口の中に忍ばせる事ができたらこの仕掛けは完成です。どうです、至って簡単な仕掛けでしょ。後はお風呂に入る音や洗面台を使う音をどこかで確認した犯人が、お湯が流れ出る外の排水口のパイプに蓋栓をして更には時間の短縮を図る為にホースの水を逆に送り込んでお風呂場や流し台といった排水口のある水場に水を溢れさせたのではないでしょうか。そしてその銅線がむき出しになっている電流が流れる水に触れた者は……」


「その電流の餌食になったと言いたいわけだな。確かにこの仕掛けなら日野冴子と池口琴子の二人を感電させて事故死に追い込む事もできるかも知れないな。そして相手を首尾よく死なせた後は外の排水口のパイプを塞いでいる栓を抜いて溜まっている水とむき出しになっている銅線のコードを素早く回収する事ができれば証拠は何も無くなり、ペンション内での密室殺人が出来上がると言う訳だな。全くなんて恐ろしい事を考えつくんだ!」


 その単純かつ恐ろしい仕掛けに勘太郎は思わず絶句をするが、まだ仮説の段階だと思っているようだ。勘太郎はその確証を得る為にその事を羊野に聞く。


 だが今言ったそれらを裏付ける証拠はあるのか」


「はい、昨日の段階でもうその可能性には気づいていましたから当然その物的証拠も掴んでいます。犯行の時に使われていたと思われる……先端の銅線が剥き出しになっているドラムに綺麗に巻かれた長いコード線をね。そして色々と探し回っていた結果、それらの証拠がある疑わしい場所を見つけてどうにか探り当てる事が出来ましたわ」


「そうか、ならその物的証拠とそれが見つかった場所を後で教えろよ。でもその話の流れだと一番怪しいのはこのペンションの部屋の全てのスペアキーの鍵を持ち出せる岩材哲夫が最も怪しいと言うことになるな。ちょっとしょっ引いてまた事情聴取でもしてみるか」」


「まだ軽率な判断はできませんが、その可能性は十分に出てきてしまいましたね」


「岩材哲夫の方は今現在別室で赤城先輩が取り調べをしている真っ最中なはずだから、なら俺達はこれから岩材哲夫が昨日と今日いたという彼の仕事場に向かうぞ。俺たちの知らない何かの痕跡がもしかしたら落ちているかも知れないからな」


「つまり岩材哲夫さんが常にいる厨房の中や倉庫の中を私達の手で調べてみると言うことですね。分かりましたわ」


 電話越しにもわかるように密かにテンションを上げる羊野のやる気をその耳で確認した勘太郎は通話を切ると、柄系の携帯電話をズボンのポケットにしまいながら静かに一礼をする。


「……。」


その黙礼を済ませると勘太郎は池口琴子の死体が横たわる部屋を後にするのだった。

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