第30話 世界地図と講義

「あったあった」

笑顔で戻ってくるミレさんは、右手にまた見慣れない道具を持っていた。

「アルコールランプ?」

私がそう言うとセレネがうんうんと目をキラキラさせながら頷く。

「そうだね、前世でいうところのアルコールランプに形は似てるかな」

この世界の灯りは基本的に魔道具だ。

形は色々あるがランプ型なのはほとんど見たことがない。

私とセレネが首を傾げていると、ミレさんが笑顔になる。

「灯りでランプの形はないけど、この魔道具の使い道はこれなんだ」

ミレさんはランプの下にある紋章のような箇所に自身の親指を押し込む、すると本体部分が花のように開くのと合わせて光が飛び出てきた。

「きゃ!」

「うっわ、眩しい!」

私とセレネは花のように開く部分を見ていたので、眩い光が溢れるのと共に驚きの声をあげ、眼を閉じる。

「あはは、ごめんごめん、言い忘れていたね。けど、魔法の光だから眼に支障はないはずだよ」

そう言われて、恐る恐る眼を開ける。

そこには前世で言うところのホログラムのような薄っすらと光る膜にくっきりと輪郭のある大陸が4つ描かれていた。

「ち、地図?」

「だよね?」

「そう、これは世界地図」

そう言われると、今まで色々な本を見てきたが、人間族の大陸の地図は見たことがあるものの世界地図と呼ばれるものは見たことが無かったなぁと思い出す。

「世界地図って本屋さんにもなかったですよね?」

「そうだね、私もこの世界を踏破して地図にしようなんて酔狂な人にあったことはないかな」

「じゃあ、この地図はどうやって作られたんですか?」

セレネの質問に、ミレさんは笑顔で答えた。

「私の足跡だよ」

その答えを聞いて、私たちは改めて地図を見る。

「前に話したけど生まれた家がエルフ族の、まぁ、そこそこ大きい家だったからね。この魔道具も家にあったんだけど家を出る時に、ね。元々は犯罪者向けの道具を私が改良して使い続けたんだよ」

ミレさんが言うにはこの魔道具、今でいうGPSのようなモノで犯罪者を追う為に作られた魔道具とのこと。ブローチ程度の大きさで距離も数キロほどの機能だったものを自分が移動する距離に合わせて、改良を重ねた結果この大きさになったとのこと。

それでも数キロを辿るブローチから世界地図が入るランプ、改良しつつ質を高めたのがわかる。

「まぁ、勿論私の力だけじゃ、この大きさに抑えることはできなかっただろうね。魔族にも妖精族にも手伝ってもらって、この大きさに抑えられてるんだ」

そうだ、前に聞いたミレさんの冒険譚、50年かけて全大陸を巡ったあの話だ。

「さて、それではちょっと説明しようかな。そのあとに2人の話は聞くからね」

私たちは顔を見合わせて安堵する。


そこからミレさんの講義が始まった。

「私たちがいる人間族の大陸はここ、更にこの王都が大体ここらへんかな」

人間族の大陸の中央から、やや東を指差す。

「魔族の大陸に向かうには妖精族の大陸を通過するか、海を真横に横断するしか手段はない。ただ、横断は出来ないと思った方がいいかな、外洋に出た資料や話なんかも聞いたことがないからね。いや、厳密に言うと外洋に出たという話はあっても戻って来た話を聞いたことが無い。もしかしたらまだ見ぬ大陸や島があるのかも知れないけど、エルフ族の文献にもそういったものは見られなかったから今のところはない、というのが私の結論」

ミレさんは地図の横に立ち、人間族と魔族の大陸を交互に指差しながら説明をする。

「そこで妖精族の大陸を通過することになる。ただ、妖精族はエルフ族よりも閉鎖的な大陸でね。大陸に入るにも特殊な手続きをしないと入れないんだ」

うんうんと頭を振る私たち。

「前世の異世界ものだと人間対魔族って構図が多かったけど、この世界は妖精族が間に入ることでバランスを保っていると言ってもいい。まぁ、あとは魔物の存在と邪な考えをもつ犯罪者たちが一定数いるからかな。どの大陸も魔物退治は重要な仕事だし、どの大陸にも犯罪者はいるからね。世界地図もないこの世界で侵攻しようなんて考えは持たないんじゃないかな」

「なるほど。ただ、ミレさんが世界地図を作っているのを見てですけど、長命な種族で好奇心がある誰かがいたって可能性もありますよね?」

私が思いついたことを質問するとミレさんは手を叩く。

「いい質問だ、この世界に順応できているね。確かにそれは私も考えた。そして、4大陸を巡り、エルフ族を除いて調べた結果、答えはNOだった。エルフ族も妖精族も基本的に保守的で大陸から出ることが殆どない」

セレネが手をあげる。

「はい!アルテスはハーフですよ?」

ミレさんは頷き、その質問に答える。

「そう、アルテスのようにハーフの人たちがいるのも事実。大陸を出るものも極僅かだがいることはいるし、私も出会ってきた。ただ、婚姻関係や仕事での移動が殆ど、私のように大陸を巡り、未知なるものを探して冒険をする長命種族は聞いたことが無いし、出会ったことが無いんだよ。これはもう種族の特性と言うべきなんだろうけど、さっきも言ったとおりエルフ族も妖精族も保守的な種族で、今の生活を守るという意識がどの種族よりも強い」

「母様は特殊なのね」

私の呟きにミレさんは笑顔になる。

「そうだね、ミーネはちょっと特殊かな。ただ、全てを代償にして冒険に出る、というような性格では絶対にないから安心していいと思うよ」

私は母様がどういった経緯で人間族の大陸にやってきたのか、今度聞いてみようとうっすらと考えているとミレさんが最後の可能性を口にする。

「あとは、もしかすると長命どころじゃない何かがいて、冒険好きでしかも人里離れたところで知識を蓄えている、とかかな」

「可能性はゼロじゃない、と」

ミレさんは含みを持つような笑みで頷く。

「さ、私の話はこれぐらいにして君たちの話を聞こうか。何か用があったんでしょ?」

一気に話を切り替えられ呆気にとられた私たちはお披露目の話をするのだった。


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異世界式アイドル育成プラン ~スキルは使ってこそのもの~ ぺらしま @kazu0327

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