第29話 レッスンとミレさんの魔道具
ミレさんの計画が私たちにバレてから1週間が経った。
「イチ、ニ、サン」
「イチ、ニ、サン」
鏡の前でセレネと2人で歌とダンスの練習の日々だ。
歌とダンスはミレさんからのオーダーでデビューはこの2つをお披露目したいとのことなので、振り付けは自分たちで考えながら合わせていた。
ミレさんも早めに伝えようと思っていたようだけどサプライズで私たちに発表するつもりだったらしいことが本人の口から伝えられた。
下手に凝ったサプライズで1ヶ月後とかにならなくてよかった。
半年後にお披露目、兎に角練習する時間が圧倒的に足りない。
劇団の団長の娘である私、そして地方都市の歌姫セレネ、デュオとしてデビューするとのことなので下手なことは出来ない。
ただ、このレッスンをやっていると少し不安というか考えてしまう面もある。
「踊りってやった方がいいかな?」
タオルで汗を拭いているとセレネから質問が来た。
私も不安に感じていた部分だ。
「うーん、私もそれは感じてた。やっぱりやらない方がいい??」
セレネは神妙な顔をして私を見ると。
「ミレさんの話を聞く限り、私たちがやったとして、一気に歌と踊りの文化がこの世界に開花するってことはないと思うんだよね」
「そうなんだよね、どっちもバーンってやると、あの時みたいにみんな戸惑うかもね。何だかわからないけど、泣いて笑ってって」
セレネはうんうんと頷く。
「あれはあの規模だったから収まったけど、劇場でやるには刺激が強すぎるかな。ミレさんに話してみようか」
セレネは改めてうんうんと頷く、かわいいなぁ。
支配人室についた私たちは扉をノックしようと手を上げる、すると中から会話が聞こえた。
「誰かいるみたいだね、ちょっと待ってようか」
セレネにそう言いかけた時、室内から大きな声が聞こえた。
「それは本当ですか!魔族の大陸に、わかりました!えぇ、すぐに向かいます」
ミレさんの声だ、こんなに大きな声が出るのは珍しい。
その後、会話が聞こえず、静かになったのでセレネと顔を合わせて、結果ノックをしてみることに。
「入っていいよ」
普段の声が聞こえる。
「失礼します」
2人で扉を開けて、入室するとミレさんは1人だった。
「あれ、さっきまで誰かいませんでしたか?」
セレネがキョロキョロと室内を見回しながら疑問に思ったことを口にする。
「あぁ、聞いていたのか。魔道具だよ」
ミレさんはそういって机の上にある天秤のような置物を指差した。
「話してたってことは通信系のですか?」
「うん、そう。あ、値段つけれないぐらいの物だから壊さないでね」
瞬時に手をひっこめるセレネ。
興味津々に触ろうとするのを防ぐにはぴったりの言葉だった。
「そう言えば廊下に響くぐらいの大きな声が出てたからびっくりしました」
私はセレネの様子を見ながらミレさんに声をかける。
「そう!そうなんだよ、ちょっとこれから魔族の大陸に行くことになりそうでね」
「「え、いいなぁ、私も行ってみたい!」」
私とセレネはシンクロして同じセリフを興奮気味のミレさんに投げかける。
「はは、何もなければ連れて行きたいところだけど、お披露目があるからねぇ」
「半年後ですよ?」
セレネが言う。
「あ、でもよくよく考えると大陸が4つあるのは知ってるけど位置関係とか知らないかも、地図もちゃんとしたの見たことないし」
私がそういうとミレさんが握った右手を左手の掌にポンと当てる。心なしか、いや心の眼で見ると、頭の上にある豆電球がピカッと光ったようにも見えた。
「地図ね、確かに!」
そのままミレさんが隣の部屋に入っていき、ガサゴソと探し始めた。
「あれ、そういえばこんな話をしにきたんじゃ…」
「ないよ、ね?」
「でも、気になるしね」
「うん」
私とセレネは当初の目的を思い出したが好奇心に逆らえず、探しているミレさんを待つことにした。
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