第28話 サプライズと青春っぽいなにかの始まり

翌日、私とセレネはミレさんに話を聞きに行く為、劇場に足を運んだ。

劇場はセレネと一緒に舞台の見学やミレさんに会いに支配人室に来るぐらいで、バックヤードをちゃんと紹介ができていなかったな、と思い返す。

「ミレさんどこにいるんだろう」

「ちょっと探してみようか」

支配人室に来たがミレさんが不在だったのでバックヤードに向かおうかと伝える寸前に、劇場スケジュールがふと目に付いた。

うん、なんだろうこの違和感。

半年後の1ヶ月、予定がぽっかりと空いている。

旅に出る前にも予定は見ていたけど確か今年は全部埋まっていたはずだ。

劇団の公演がない3か月は貴族の講演や貴族の何かしらのお披露目の場、王城勤務の人たちの大会議、一般の方々の公演など予定が入っていたはずなんだけど、何かあるのか、とても不安な空白に見えた。

特にそれ以外に物色できるようなものもなく、そのままバックヤードを探すことに。

そのバックヤードだけど、私が旅立ってからの1ヶ月半ぐらいで一部が大きく変わっていることに気づいた。

「アルテス、アルテス、何かこの部屋とかすごい前世っぽいね」

初めての場所を探検する子供のようにキョロキョロしているセレネに言われて、その部屋を見ると、確かに。

「この部屋、新しい。私が旅立った後にできたのかな。それに鏡なんて、この世界だと貴重なものを壁一面に」

ん?壁一面?

「ボク、前世でレッスンとかやってたけどその部屋にそっくりだよ」

そうなのだ、私も少しだけダンスのレッスンに通ったことがあるけど、その部屋と作りが一緒なのだ。

「ま、まさか、この部屋は」

私の口からそんなフラグのような発言が出るとは思わなかったけど、出てしまった。

「そう、そのまさかだよ」

と思ったら即座に回収された。

後ろを振り返るとミレさんが立っていた。

「中央都市に戻ってから作り上げたんだ、元々使ってなかった部屋だったからね。うん、我ながらいい出来だと思うんだ、君たちのレッスン部屋」

「や、やっぱり」

「ボクも使っていいの!?」

セレネと正反対のリアクションをしてしまった。

「もちろんだよ。但し、前世のように先生となる人はいない、君たちが作り上げるんだ、自分たちの芸術を」

そう言って大きく手を広げるミレさん。

「両親から聞いたんだけど、何か私たちの予定があるって」

「あ、なんだバラしちゃったのか」

「それとさっき支配人室でスケジュールも見たけど、半年後に余白が」

「え、見ちゃったんだ」

私はその場でしゃがみ込む。

「え、え、え」

セレネは状況が把握できていないようだ。

「セレネ、よく聞いて。ミレさんがね、半年後に私たちのお披露目の機会を用意してくれるみたいなの」

「わー、すごい!」

ミレさんはセレネを見てとてもいい顔で頷いている。

「ふー」

私はため息を一つ。

嬉しそうなセレネ、それを見て笑顔のミレさん。

何より両親の喜ぶ顔が見たい私。

そしてセレネのステージを誰よりも演出したい私がいる。

「よっしゃー!やってやろうじゃないの」

私の中で何かが燃え出した、この世界に来て、たぶん初めての青春っぽい何かだ。

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