第19話 スラム街にある店

「アルテス、見えてきましたよ」

ミレさんに言われ、馬車の窓から外を見る。

中央都市を出発して4日、まっすぐに目的地に進んでようやくその都市の城郭が見えた。

手続きをして、城郭内に入ると中央都市とは違う街並みが現れる。

「先に宿を取りますね、長旅でしたし一先ず今日は休みませんか?」

「ありがとうございます、でも、出来たら、すぐにでも確認したいです」

そう言うとミレさんは顎に手をあてて、少し考えたあと。

「わかりました、では今夜、店が閉店したあとに打ち合わせができるよう話に行きます。アルテスも店の雰囲気と店員さんを見ておきますか?」

「はい!見てみたいです!それと本当にわがままを言ってしまいすみません」

ミレさんはいいんですよ、と笑顔で答えた後に御者に行先を伝え、セレネがいると思われる店に向かってくれた。

前世で死の直前に出会ったばかりの女の子、一緒に死んで転生して、早15年。

加護が弱まったから早く会って助けたい、力になってあげたい、オッカケ神から言われたのが大きいけどほぼ全く知らない相手なのに助けてあげたいと思うのはなんでだろう。

でも私がここまでちゃんと頑張れたのはあの子の存在があったから、だからなのか、とても会いたい。


馬車から街並みを見ていると雰囲気が変わっていくのがわかる。

綺麗な建物にクラシカルで品のある店構え、上品な服を着ている人が多く歩いている街並みから、普通の建物、居酒屋に近い飲食店や雑貨屋などのお店が増え、服装も一般的になったエリアを通り過ぎ、古くメンテナンスが出来ていない建物が目立ち始め、歩いている人たちも変わってきたと感じたところでふと思いつく。

「もしかしてここがスラム街、ですか?」

「そうですね、エリアで言うと。でもこの都市のスラム街はもう少し荒れていたような気がするんですが、だいぶ落ち着いてますね」

言葉には出したが確かにスラム街のイメージとは全然違っていた。

前世の映画とかドラマのスラム街はもっと退廃的な雰囲気だけど活気のある店も多く感じる。

「あの店ですね」

ミレさんが指差した先には前世の西部劇で出てくるような扉を構えた建物がある。

「なんかかっこいいお店ですね」

「そうですね、ここのエリアでも人一倍、明るい印象を受けます」

馬車が近づくと店内からは笑い声が聞こえる。

「それではアルテスは少しここでお待ちください」

ミレさんは馬車から降り、店の裏口に向かっていった。

馬車の窓から店内が見える。

お客さんたちの笑顔と笑い声、美味しそうな料理の匂い、そういえば時間も昼過ぎぐらいか、私もお腹減ってきたな。

お腹をさすりながら店内を見ているとどう考えても店に不釣り合いな少女が奥から現れた。

この世界でも珍しい水色の髪、ショートボブの髪型の女の子は料理とお酒を持ちながら騒がしい店内をヒラヒラと舞うように進み、テーブルに配膳している。

店内を進むたびに色んな人に声を掛けられている。

その声に笑顔で答える女の子、何だろう、見ているだけでこちらも笑顔になる。

騒がしくも楽しそうな店内に本当に華が咲いた、そんな錯覚すら覚えるほどに。

配膳したあとは各テーブルの空いた食器類を持ちながらさっきとは違うルートで店内を歩く、いや、歩いているというよりリズムにのったステップに近い動きだ。

他にも従業員らしき人が一人いるけど女性は彼女だけだ。

見惚れるってこういうことを言うんだろうな。

そんな店内を見ていると裏口からミレさんが出てくるのが見えた。

「お待たせしました」

そのまま馬車に戻ってきたミレさんを出迎える。

「今夜打ち合わせができることになりましたよ」

笑顔でそう言ってくれたミレさん。

「ありがとうございます、あの子が探しているセレネだといいな」

店内を見ながらそう言わずにいられなかった。


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