第18話 地方都市へ
ガタガタと揺れる馬車から見える初めての外の景色を堪能することもなく、物思いにふける少女とそれを見守る紳士。
先日、公演中に15歳になった私は手続きをしてミレさんと一緒にセレネがいるという都市に向かっている。
「アルテスの探しているセレネさんだと良いですね」
車内の反対側に座るミレさんから声をかけられる。
「そうですね、早く確かめたい」
オッカケ神から言われたことを思い返すと一緒に死んで転生した者同士、きっと誕生日も一緒なんだろう。
そうだとすると加護の力が弱まっている可能性が高い、私が15歳になったタイミングで加護が弱まったのがわかったからだ。
ステータス上でも5神の加護(極)が5神の加護、と極の文字が抜けた。
加護自体が無くなっていないことがわかったときは少し安心したがセレネも一緒だと考えるとすぐにでも探さないといけない。
「あまり考えすぎもよくありませんよ、アルテス」
「そう、なんですけど、前にお伝えしたとおりスラム街にいると聞いたので」
「私も聞きましたよ、ただあの都市であれば大丈夫だと思います。それに友人のところにいるのであれば尚更」
「そんなに信頼できる方なんですか?」
「えぇ、魔族の大陸で出会い、その後この人族の大陸に来たばかりで放浪していた時に助けてくれました、一宿一飯の恩があります」
「そうなんですね、ミレ伯父様がそこまで言うならセレネもきっと大丈夫な気がしてきました」
そう言うとミレさんはにっこりとほほ笑む。
その地方都市にいるセレネが昴だと信じて行くしかない。
地方都市まで最短時間で向かうようお願いした為、車中泊で休憩は馬の休憩のみ、食事も馬車の中で済ませるスケジュールだ。
車内の食事はミレさんが持ってきてくれたものをそのまま食べてるけどやっぱり保管用の魔道具とかあるんだろうな。
そんなことを考えながらどこから出したのか、ミレさんから渡された出来立てのパンを食べてる私。
ふとミレさんが御者に合図を出す。
「すみませんが少し止めてください、魔物です」
そう言うとミレさんの脇に置いてある鞄からスノードームのような物を出して魔力を注ぐ、すると馬車全体がドーム状の膜に覆われた。
「結界です、ご安心を」
そう言うと馬車から降りるミレさん。
御者さんも廻りに神経を張っているような表情だ、そんな中ミレさんが見ているのは茂み、そして奥が揺れた、と思ったらそこから現れたのは犬のような姿をした魔物、熊ぐらいある、サイズ感がおかしい。
ミレさんと対峙する犬のような魔物、素手だけど大丈夫かな。
なんて考えは杞憂でした、現れてからすぐにミレさんが手を向けるとどこからともなく出現した水に魔物が覆われた。
息が出来ず暴れてはいるが水球から抜け出せない状態が続き、逃げられない魔物がぐったりとしたタイミングで魔法を解除するとそのままヨタヨタと茂みの奥に帰っていく。
それを見て馬車に戻ってきたミレさんは御者に合図を出すと馬車は進みだした。
「無暗な殺生は生態系が狂いますから」
そう言ったミレさんがキラキラしている。
それからも魔物が出る度にミレさんが対処してくれた。
魔法を使って戦うミレさん、そのまま逃げるようであれば追わず、無駄な殺生はしない、と言うか実際のところ、殺してしまうと後処理に手間がかかるようだ。
素材と言われるものを取るにしても死体をそのままには出来ないし、持っていくにも大型すぎるとのこと。
そして戦い方も自然に配慮したものだった、木々がある場所では土魔法や水魔法、岩肌がある場所では火魔法を含めた地形をいたずらに傷めないやり方で魔物を排除し続けてくれた。
何が一番すごいって一切苦戦しないし、ラノベの無敵な主人公のような感じで本当にすごかった。
そんな魔物との闘いを見ながらも、車内ではミレさんの今までの旅や仲間の話、あと魔法について、私は劇もやりたいが出来たらライブのような歌や踊りのイベントもやってみたいこと、そんな夢の話をずっとしていた。
いやー、何て安定感のある旅なんだろうか。
安心と信頼のミレさん、冒険者としてもかなり上位なんだろうな。
そこんところを本人に聞いてみたけど「昔の話ですし、強者はいっぱいいましたよ」と濁されて終わった。
快適な旅は順調に進む。
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