第20話 再会までの道

宿にチェックインをするとミレさんは近くのご飯屋さんに連れて行ってくれた。

「まずは腹ごしらえをしましょう」

そう言って注文をして食事を始める。

「そうそう、ご飯を食べたら手紙を書いてくださいね」

「あ、そうですね」

この旅自体、両親には猛反対された。

それもそうだ、私が企画した舞台の公演中なのに加え、初めて城外に出るのに信頼はしていると言っても伯父と2人、この世界でもあの中央都市の住民から見ても異常だろう。

ただ、それでもどうしてもセレネを確認したかった私は両親を説得、向かう理由についてはあの占い師に占った話を出したらすんなりと理由は通った、神の力かな、加護の影響かな、どちらにしろありがたい。

あとは劇で何かあった際に対応できるよう劇団員へのヒアリングをした上で舞台のマニュアルを作成した。

マニュアル作成に1ヶ月近くもかかってしまったがそれを渡した時の両親の悲しそうな表情は今でも忘れられない。

承諾してもらった時に約束されたのが手紙を送ること、着いたときと滞在期間中は2日に一回、それと帰る日付が決まった時。

「ミレ伯父さんと2人、楽しい道中でしたって書いておきますね」

「あはは、戻ったらものすごい詮索をされるでしょうね」

食事を終え、食後のお茶を飲んでいるとミレさんから提案があった。

「今夜の打ち合わせですが一先ず、私が行ってきますから」

「わ、私も・・・」

「最後まで聞いてください、アルテス」

そう言うとミレさんは持っていたお茶をテーブルに置く。

「アルテス、貴女はこの世界に来て15年とは言えまだ日が浅い。城外に出るのも初めてだ」

「はい」

「そして今日、招待されているのは私だけです。それもこの芸術の文化がない世界で自分たちから芸術を発信したいと言ってきた希少な方たちです」

私は頷く。

「そんな方々が意を決して私に手紙を送り、判断を委ねてくれようとしています。嘘をつく方たちではありません、何より意思が強く一本の芯を持つ方たちです。今回はその店の、いやその方々の未来がかかっているかもしれない、そこに姪の子どもを連れて現れ、知見を広める為に連れてきたって紹介をされても先方はいい気がしませんよね」

私は何も言えない。

「何よりあの店にいるのが貴女の知るセレネだとしても、この世界では初めて会う形になります、何て言って声をかけるんですか?」

「あ」

「機会は必ず作ります、今夜もお店の近くまで来ていただいても大丈夫です。ただ、打ち合わせには参加はできないと思っていてください」

私は下を向き、拳を握る。

「アルテス、急ぎすぎてはいけません」

「わかり、ました」

そう言って顔をあげると、ミレさんはいつも通りの笑顔を向けてくれていた。


宿に戻る途中に街を少し散策してから夜まで待つこと数時間。

日が沈み、魔法による街路灯が灯されるのを部屋の窓越しに見ていると扉のノック音が聞こえる。

「アルテス、行きますよ」

ミレさんの声だ。

「すぐ向かいます」

私は落ち着かない気持ちを抑え、扉を開ける。

私たちは馬車に乗り、昼と同じルートを辿る。

昼と夜だと景色が本当に違う、これは前世でも思っていたけど街並み自体がエリアによって違うのに夜だと更に鮮明にわかる。

街路灯が減り、家の灯りの強さが変わり、歩いている人たちの酩酊状態も変わる。

スラム街に入り、他の店が閉店して真っ暗になっているか、閉店作業中で明るさを落としている店がほとんどの中で店内の明るさを保っている店が近づくと馬車は昼間と同じ場所に止まる。

「さて、それでは行ってきます」

ミレさんが腰をあげると私はじっと見てしまう。

「大丈夫、必ず紹介しますから」

私は頷くのが限界だった。

「外は何があるかわからないので馬車の窓から店内を見ていてください」

そう言い残し、ミレさんは馬車をおりると今回は表の入り口から入っていった。

店内に座っていた身体の大きな男性がミレさんを見るなり歓迎している。

そのまま席に座り、話しを始めた。

数分後、大きな男性が裏手に向かって声を出しているように見えたあと、まもなく、あの青髪の女の子がエプロンで手を拭きながら現れた。

「かわいいなぁ」

ぼそっと本心が声に出てしまい慌てる私。

ミレさんと大きな男性とのやり取りでびっくりしたり、笑顔になったり、むすっとしたり、表情豊かだ。

しばらくするとミレさんが両手を叩いて、2人に向かって笑顔で話しかけたのが何かの合図になったのか、奥からもう1人男性が出てきて、2人で店内の机や椅子をガタガタと動かし始めた。

この頃には店が明るいのに気づいて、まだ営業しているのかと近寄ってきてはCLOSEの札を見て帰る者と何をやっているのか気になってそのまま留まって店内を見ている者に別れ、数人が私と同じ店内を見る観客になっていた。

「あ、これステージだ」

2人の男性が運んで設置した大きな物体、そしてその物体の真上に置かれた照明、お手製のステージ。

それを見て、両手で口元を隠し、感激している女の子。

「よかったねぇ、ぐす」

この人たちの背景、関係とか何もしらないけど、その場面が映画のワンシーンのように見えて、何だか感動してしまった。

え、まさかこのまま歌ったりするのだろうか?

それにしても人影が邪魔だなぁって気づいたらさっきまで数人だったはずの観客が20人近くに増えている、店内が見えづらくなるのは少し困る。

そんなことを考えていると青い髪をたなびかせ、女の子がステージに上がるのが見えたのだ。

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