第14話 邂逅

おじさんと私はその手の持ち主を確認する。

「これは、ミレヴァ様」

「え!?」

おじさんがお辞儀をするのとは逆に私はびっくりして変な声が出てしまった。

「やぁ、店主、そしてアルテス、奥にいたんだけどまさかこんなところで会うなんてね」

そう言っておじさんに片手をあげるミレさん。

「驚きました、ミレ伯父様も本を買いに来てたんですか?」

「劇場支配人としては劇場の利益を考えてってのもあるけど、ライズやミーネに少しでもアイデアを提供したくてね」

「そうなんですね、私も同じです、父様と母様に協力したくて」

「いい子だね、アルテスは。それでこの本は私から説明してもいいかな?」

「もちろんです、お願いします!」

私がそう言うとミレさんは椅子に座り、本をめくるとこちらを見ずに語りだす。

「輪廻転生、この本はそれに纏わる物語なんだ」

ミレさんの雰囲気が変わったうえ、口から出た一言目の言葉にビクッと身体が震えてしまう。

「一度死んだ人物が記憶を持ったまま新たな世界、新たな人として生まれ、その世界を統治する為に奔走する、そんな物語」

パラパラとページをめくりながら続ける。

「面白そう、ですね」

「一部の宗派の人たちからは強烈に歓迎された本だ、そうだよね?」

ミレさんはおおじさん、いや店主に聞く。

「そうですね、儂が生まれたときぐらいの作品なんでもう50年前ぐらいですが」

「読んでみるかい?」

パタンと本を閉じると緊張感を消したミレさんが私に問いかける。

「はい、とても興味があります」

「店主、先ほどの本も含めて4冊をこちらの小さな読書家に」

そう言ってミレさんは店主に財布を渡すとそのまま奥に消えていく。

「ありがとうございます、ミレ伯父様。でもよかったのですか?本はその、かなりの価格だと」

私はお礼と価格のことをモゴモゴと話す。

「アルテスは頑張っているからね、ご褒美と思って受け取ってほしい」

「わかりました、本当にありがとうございます。ちゃんと両親にも伝えますね」

「内緒でもいいけど、流石に4冊も持って帰ったらびっくりされるだろうからね、そうした方がいい。それと、、、このあと時間はあるかな?」

ミレさんは少し考えたあとに私に聞いた。

きっと例の話についてだと直感で感じた。

「はい、このあとは晩御飯の時間まで大丈夫です」

「よし、それなら少し場所を変えようか」


店主から本を受け取り、ミレさんと本屋を出たあと、劇場近くの喫茶店に入る。

店員に通されたのは奥にある個室、この店には何度か来たことがあるけどこんな部屋があるなんて知らなかったな。

「さ、座って。嫌いな飲み物はあるかな?」

そう聞かれたので首を横に振りながら、ありませんと回答する。

ミレさんは店員に注文をして、こちらに顔を向ける。

「3年ぐらい前かな、聞かれたことに答えようと思ってね」

やっぱり。それにしても覚えていたんだ、あれから挨拶や世間話、劇についての話はしたことがあったけど。

「劇場についてですか?」

「そう、あまり聞かれないことだからね、いつか話そうと思っていたけどタイミングがなくて」

そういってミレさんは頬をポリポリと掻く。

「話す前に少しだけ。私の年齢、いくつに見えるかな?」

頬を掻いていた手をテーブルに戻し、こちらを見て聞いてくる。

「えーっと、エルフ族は長命と聞いてますけど、母にも年齢は尋ねたことがないです。ただ、失礼を承知で言うと見た目は父より少し上かなって言う印象ですけど60とか70とかですか?」

そうなのだ、エルフ族はとても長命だと人から聞いたことがあるし、母もエルフだけどいくつかはわからないし、聞こうとも思ってない。両親ともに誕生日はあるけど今のところ私の日しかお祝いした記憶がないから、そういうものかと過ごしていた。

「うん、今178歳」

「ひゃ、ひゃくななじゅう・・・」

ミレさんはいい顔でそういった。

「エルフは20~30代で見た目年齢が止まるからね、それと長命と言ってももちろん永遠ではないよ、普通の寿命が300歳前後、400~500歳生きたら相当長生きな部類だ」

そこまで話すと店員が注文した品を持ってきた。

ミレさんと私は話を止め、静かに配膳が済むのを待つ。

「さて、話を戻そうか」

店員が出て行ったのとほぼ同タイミングで話し出すミレさん。

「ここは盗聴防止の魔道具が使われてる個室だから外には一切音漏れはないよ」

盗聴防止の魔道具!ちょ、聞きたいことが増えちゃう。でもこうやって話す機会をくれたんだから劇場について聞きたい。

「ありがとうございます。ミレ伯父さん、なんで芸術をやろうとしたのか、それと劇場を建てようと思ったのはなぜですか?」

「あの時と同じ質問だね、うん、私はね、楽しいことが大好きなんだ、だから建てた」

とてもいい笑顔でそう答えるミレさん、そして絶対にこんな答えじゃないとわかる回答だ。

これが答えならあの時にそう答えればいい。

「腑に落ちないって顔に書いてあるね」

そう言われて私は自分の顔を触る。

笑顔で頷くミレさんが紅茶を一口飲んで、カップに置いた。

するとミレさんの雰囲気が変わった、それに部屋の温度が1~2℃下がったように感じる。

ミレさんは私の目の前で両手をテーブルに置き、こちらを向いて、口を開いた。

「単刀直入に聞くよ、君は転生者かな?」


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