第13話 本屋さんと流行り
幾つかの季節が変わり、私は12歳になった。
日々の修行に加え、劇団で演出、企画の案を色々と考えてはいるけど、あれ以来スキルが発動していない。
試行錯誤しているものの、発動条件がわからず、悶々と過ごす日々が続いている。
いつもの母様との訓練が終わった私は一人で本屋に足を運ぶ。
気分転換と言う意味もあるが前々から本屋には興味があったから。
この世界には印刷と言う技術がまだそれほど普及していない、活版印刷か、手書きだ。
なので本自体はあるが種類が圧倒的に少ないし、価格もおいそれと手を出せないものが殆ど。
私はその中でも物語として有名なものを物色しにきた、もちろん買えないけど。
本屋に到着、3階建ての建物は白塗りの壁で小奇麗だ、それに玄関付近には黒い服を着た身体の大きな警備員がいて、白黒で良く映える。
警備員に軽く会釈をして、横にある古い木製のドアを開けると紙の香りを感じることができた、いい匂いだ。
「はい、いらっしゃい」
受付にいたおじさんが声をかけてきた。私を見て、顔を傾け、
「お使いかい?」
と話しかけてきた。
「いえ、探してるものがあって、物語調の本とか、それに純粋に売れた本とかがあればそれも知りたいです」
おじさんはぽりぽりと頬を掻きながらおもむろに棚に移動して、静かな店内を歩きながら、本を物色し始めた。
探している間にキョロキョロとしていると奥にもお客さんがいるようで、他の店員が接客している声が聞こえた。
「本もなぁ、数は少ないが色々あるからなぁ」
ぶつぶつとおじさんが独り言をつぶやいているが良く響く。
そう、数が少ない、印刷技術、流通体制、それがあればまずは一般的に普及するんだろうけど本が必要って思わない限りそれは叶わないだろうなぁ、あぁ、ラノベが読みたい。
そんなことを考えてると4冊ほど本を抱えておじさんが戻ってきた。
「お嬢ちゃん、この4冊が私が知る限りの売れた本と物語調で話題になった本だよ」
「ありがとうございます、正直な話買えないと思うんですが、、、それぞれお話を教えてもらうことできますか?」
「あぁ、いいよ、買う買わないは別にして本に興味があるなんて珍しいからね」
そう言うと店主は奥にある商談スペースを指差して、椅子に座るよう指示をくれた。
「さてと、まずはこの本だ」
おじさんは赤い表紙の本を取り出した。
「竜と騎士の物語?」
表題を読む、何となくこれで話がわかる。
「そう、竜と騎士の物語。平凡な騎士が手懐けられないと言われてる竜種の中でも最強と名高い黒竜と縁あってコンビを組み、世界を平和に導くって言う話だ。」
「なるほど、とてもよくわかります」
起承転結の全てが手に取るようにわかってしまう、いや、もしかしたら違う展開があるのかもしれない、でも、きっと考えてる内容とほとんど一緒だろう、あるあるな話だけど、この世界だと流行になるんだろう。
「なんだ、あんまり興味なさそうだな」
まずっ、顔に出ちゃったかも。
「いえいえ、題名でその内容の深さを感じたので、ぜひ読みたいです。ちなみにあと3冊はなんですか?」
そういうと、なんでぇ、とぶつぶつ言いながらおじさんは橙色の表紙の本を取り出した。
「おっと、題名は見せねぇぞ」
さっと題名を隠す。
「先ほどの対応はすみません、とても気になります、その本はどんな内容ですか?」
「こいつはな、お嬢ちゃんが気に入るかもしれない、なんと恋愛ものだ」
「恋愛もの、そんな本があるんですか」
私は飛びついた、でも頭の中では両親とともにロミジュリが思い出されている。
「この本は2~30年も前の作品なんだがね、出始めた時は貴族たちがざわめいたんだよ」
「貴族様が?」
「そう、なんてったってな、臣民公爵と辺境伯、ライバル貴族の子供たちが恋仲になるっていう」
キター!
「仮面舞踏会っていう仮面をかぶったパーティで、、、」
うんうん。
「お互いに好きになってはいけないっていう、、、」
わかるー。
「続きは本を読みます!」
そういうとおじさんはハッと我に返る。
「お、おぉ、そうか、危うく話しちゃうとこだったな。これは興味あり、と」
「さっきの竜と騎士の本も興味ありますよー」
「えぇ、そんな顔には見えなかったけどな、まぁ、いいか」
「次の3冊目はなんですか?」
「こいつだ」
おじさんはやたら装飾された本を取り出す。
「こいつはな、業界では本が流通するかもって言われた本だったんだよ」
「すごいですね」
「おぉよ、貴族から庶民まで金があれば買いたいってやつがけっこう出たな」
「え、ほんとにすごくないですか、でも本、流通してないですよね」
そういうとおじさんはチッと舌打ちをして顔を斜めに向ける。
「こいつはな、預言書って言われたんだけどよ」
あ、察し。
「結局でたらめだったのがバレてな、書いたやつも不明だし、この本を綴じた店も雲隠れしちまってな。というか元々決まった部数しか作ってなくて、売り逃げってやつだな、内容の責任は取らんって最低なやつらだ」
「見させてもらってもいいですか?」
そういうとおじさんは私に本を向ける。
「【四元世界の予言】、、、四元?」
「これは説明するのも大変だからな、中、少し見てみなよ」
そう言われ、適当に本を開く、日付が書かれ、そこから下に物語調の内容が書いてある。ところどころに絵のようなものも。
「変だろ、日記みたいな書き方だし」
「そうですね、これがでたらめだったって言うのは何でわかったんですか?」
「王族に絡む方がこの本に傾倒されてな、そこに記載されてる災害が起こるってのに合わせて私財を投じてしまったんだ」
「結果、預言が当たらなかった、と」
おじさんは静かにうなずく。
「そうだ、王族からこの本が偽の預言とお触れがあってな、発売禁止とはならなかったがこの本含めて本自体の一般的な評価も下がったんだよ」
それはそうか、元々本自体が流通していなかった中で人気作が出た結果、それが嘘だったと王族から発表があれば作品の評価は勿論、本という存在自体に悪影響が出るだろう。
「勿体ないですね、娯楽として見てもらえないというのは」
「お嬢ちゃん、大人みたいなこと言うね」
「いやいや、そんなことないですよ。最後の本は何ですか?」
「おぅ、そうだな、最後はこいつだ」
そう言って4冊目の本を取りだそうとした時、その本がおじさん以外の手で取られた。
「これは私から説明してもいいかな?」
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