第12話 スキルと疑惑

空気が違った。

観客はいない、大道具やセットも曲もセリフもない、それでも何となく息が詰まる。


観客席から見る景色とはまるで違う、天井の高さも建物の奥行きも実は違うのではないか、魔法の効果?そう思わせるほどに視覚からの情報に戸惑いを隠せない。

ここが、この場所が、両親の職場、観客を魅了している場所。

そう思っていると身体の中心から得も言われぬ違和感が押し寄せてきていた。

「アルテス、初めての舞台の上はどう?」

勢いよく階段を駆け上った割に観客席を向いたままの私を見て、母が話しかけてきた。

「独特の空気でしょ。でもね、それがわかるってことは私たちの子なのよ」

そういって頭を撫でる母様。

「アルテスの初舞台か、俺もいられてよかった」

どこからか父様も現れた、私を見ていてくれたようだ。

「劇団員の子供もこうやって舞台に何度かあげたことはあるけど、観客席を向いたまま微動だにしない子は初めてよね」

「そうだね、泣き始めたり、すぐに降りたり、あとは気にせず駆けまわったりってのはいたかな」

「ふふ、これならいつか3人で」

「おっとそれ以上はまだダメだろ、約束したんだから」

「そうね」

2人はそっと私を抱きしめる。

廻りにいた劇団員の人たちもほっこりしているようだ、


私は両親に抱きしめられながら、頭では舞台に上がり、観客席を見据えた時に感じた違和感と戦っていた。

何だろう、このモヤモヤした感じは、舞台に上がって、両親がやっている劇を思い出してからモヤモヤが、そう考えた時前世の舞台がフラッシュバックのように頭に浮かんだ。

―――――――

スキル発動

応用スキル「カリスマプロデューサー」発動

―――――――


その時だった、ハッキリと頭にイメージが出来た。

劇の企画、演出のバリエーション。

これだ、私が取ったスキル。

応用スキル、カリスマプロデューサーが発動したのを実感した。

私が取った3つの応用スキルは生活していても発動のはの字も感じられなかった、それにスキルの発動条件がわからず、一時期は悲嘆にくれた時もあったけど日々の生活と修行で頭がいっぱいになって忘れてた。

未だに発動条件はわからないけど、舞台に関係している、劇をイメージする、あとはこの場所に劇団の人たちがいることとかかな?

やることが増えそうだ、セレネを探すのは勿論として、そこに至る道として修行と人脈作りと劇団の全体的なバックアップ、それとスキルの発動条件。

これを軸にしていこう。

そう思いながら私の初めて舞台に上がるという実績が解除された。


帰り道、久しぶりに両親と手を繋いで帰る途中、素朴な疑問をぶつけてみた。

「父様、母様、劇の内容は誰が考えてるの?」

「内容、そうだね、ストーリーを考えてるのは劇団員みんなで話し合ってるかな。例えば今やってる公演の勇者と魔王の話は元々の伝説をみんなで話し合って色付けしてやってるよ。」

そうなんだ、そういう伝説なんかがやっぱりあるんだ。

スキルを使って劇をやるにしても、やっぱりこの世界の物語や流行は取り入れないといけない、いや、むしろこちらから流行を作り出していかないと。

「あ、あとミレ伯父様もいいアイデア出してくれるわよ」

「あー、確かに。劇団を始めたぐらいにやった物語のきっかけはミレさんだったな」

おっと、意外、でもないか、何となくあの支配人は同じ匂いがする、転生者の。

「父様父様、どんな物語だったの?」

私は興味津々と言う感じで声をかける。

「貴族の息子とそのライバル貴族の娘さんの悲恋物語、あれはすごいヒットしたからね。ミレさんがどっかからか本持ってきてね、出版時期見ると結構古いのに知らなかったなぁ」

それはロミオとジュリエットでは。これはもう確定でいいのかな、ミレさん。

「そうね、ヒロイン役を演じてた私も引き込まれた世界観だったわ」

「と言うかあれが俺たちのスタートだったかもしれないな」

目の前でイチャイチャしだす両親。

と言うか芸術文化がほぼなくて、そういったドラマチックな展開にも免疫が全くない中、演劇をやり始めてすぐの人たちがアレを演じたら確実にそうなると思う。

前世でもドラマで共演した俳優同士が恋愛に発展なんてよくある話だったけど、この世界なら一発だろう。

「ねぇねぇ、私も思いついたものとかあったら参加してもいい??」

私はイチャイチャしてる両親に話しかけた。

すると2人同時にこちらを向いて、

「もちろん」

と笑顔で返してくれた。言質は取った、バックアップはもちろんだけど劇団に参加しよう。


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