初めてのお出かけ
音無さんと彩華。二人と初めて帰ってから、最初の休日を迎えた。
俺はいま、家の近くにある公園にいた。というのも、二人と親睦を深めようとのことで、集まることになったのだ。二人ともに人気の多いとこはやっぱ抵抗があるらしく、こうして公園を選んだ次第。
「にしても、すごい食いつきだったな……」
電話やメールだけだと味気ないなとぼやいたら、じゃあ一緒にお出かけしたいです! だもんな。
かくいう俺の方も、二人と出かけられるのは楽しみではある。なんたって、私服が見られるんだもんな。どんな感じの着てくるんだろ。
俺はもう無難なやつにしちゃったが。まぁ、男なんてそんなもんだよな。
逸る気持ちを押し留めながら、ベンチに腰掛けしばらく待つ。
すると、見覚えのある姿がふたつ、現れた。その光景は、俺の度肝を抜くのに充分すぎて……、
「……結城くん、お待たせ」
「公平くん、お待たせしました」
「…………」
普段は黙る側に回らない俺ではあったけど、今回ばかりはそうなってしまった。
そのぐらい、二人の服装は独特だったのだから。
まず、音無さん。彼女は上下黒のジャージ姿だった。普段から使い込まれているのか、生地がよれよれで、いたたまれない。
服に無頓着な俺でさえそんな風に思ってしまう。
「お、音無さん、その服」
「……普段外に出ないから、これしか持ち合わせがないの」
「そ、そうなんだ」
あはは、と乾いた笑い声を上げるしかない。
現実から逃れるように視線を隣に移す。そこにいた彩華を見て、込み上げてきそうになるため息をぐっと堪えた。
彼女はなぜかメイド服を着て来たのだ。白と黒がベースの、あれだ。スカートの裾がフリルになっていて、ひざ上ぐらいまでの長さになっている。
さすがに頭にブリムはつけてないけど、いやそれにしたってこれはどうなんだ。
「い、彩華、それなんだが」
「はいっ、親睦を深めるならこれかなと思いまして」
「そ、そうか」
感性が、違い過ぎる。
呆れて物も言えないとばかりに黙り込んでいると、二人がお互いの服に視線をやった。
上から下までじろじろ見たかと思うと、深いため息を吐いている。
「ジャージってTPO的にどうなんです? これから遊びに行くんですよ?」
「メイド服ってさすがにないと思う。下心が透けて見える」
「…………っ」
「…………っ」
いや、なんでバチバチしてんだよ。どちらかといえば同類だろ。
ともすれば喧嘩に発展しそうなので、俺は間に割って入ろうとして。
それより先に、二人が声をかけてきた。
「……結城くんは、どう思う? この人の服」
「……公平くんは、どう思いますか? この人の服」
「どっちもどっちだと思う……」
「…………っ!」
「…………っ!」
驚いたような顔してるとこ悪いけど、一番驚いてんのは俺なんだよ。
というか、どうするんだよこれ。この格好でこれから出かけるとか、命がいくつあっても足りない気がするぞ。
二人には悪いがとりあえず、服をなんとかしないと。
「……っ、しかたない」
気は進まないが、アイツに頼るか。
俺はひとつため息を吐き、ズボンのポケットからスマホを取り出した。
休日だし、家にいるとは思うけど。
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