三人でお昼


 三人で階段わきを占拠するのは、さすがに通行の邪魔になるかもしれなかったので、空き教室を探すことになった。

 誰もいないところって意外にないように思えたけれど、いざ探してみるとすぐに見つかった。

 ほとんどのやつらが自分の教室だったり、中庭だったりで食べてるせいだろう。

 こちらとしては助かるかぎり。


 「そういえば、彩華はいつもどこで食べてるんだ?」

 「わたしはトイレです」

 「そ、そうか……」


 ほんと友達になってよかった。じゃなきゃこの先も便所飯生活をさせることになってただろうし。

 ひとつ息を吐き、俺たちは教室内の隅っこの方へと集まった。お互いに向かい合うような形で、腰を下ろす。

 そこで二人ともに、身だしなみを整えだした。

 音無さんは長すぎる前髪をピンで留めて、素顔を晒し。

 彩華はかけていたビン底メガネを取って、目元を露にした。


 「…………」

 「…………」

 

 ぼんやりと見惚れてしまう俺をよそに、二人はお互いの顔をじろじろ見ている。

 ややあって、口を開いた。

 

 「……結城くんがたぶらかされた理由がわかった」

 「……公平くんがたぶらかされた理由がわかりました」

 「またハモって……って、え?」

 「可愛いし」

 「美人ですし」

 「表情が豊かだし」

 「声が綺麗ですし」

 「髪の毛がふわふわしてるし」 

 「毛先が絹みたいにつやつやしてますし」

 「胸がおおきいし」

 「身体がスレンダーですし」

 「………」


 お互いを褒めちぎってるはずなのに、なんでこんなに空気が重いんだよ。

 なおもぶつぶつと口を開いてる二人に向けて、俺は横やりをいれた。


 「あのさ、そろそろ食べないか? 昼休みもそんな長くないし」

 「…………」

 「…………」


 言葉は返ってこなかったけど、頷いてはもらえた。ひとまずは安心そうだ。

 箸を持ち、チラと二人の弁当も覗いてみる。それぞれ彩りのいいおかずばかりでおいしそうだった。

 自分で作ってたとかなら、すごい腕前だと思う。

 なんて、視線を向けてたせいだろう。

 音無さんが自分の弁当からから揚げをつまむと、俺の方に差し出してきたのだ。


 「それ、くれるのか?」

 「うん……私の初めて、もっと奪ってほしい」

 「っ!」


 音無さんの発言に過敏な反応をみせたのは、俺……じゃなくて、彩華だった。


 「あなたもしかして公平くんとセックスしたんですか! わ、わたしなんてまだおっぱいしか触ってもらえてないのに……!」

 「っ!」

 「い、彩華っ、語弊があるぞ、その言い方は――!」

 「……この人の胸、触ったの?」

 「ち、違っ、いや、違わないけど……てか、二人とも勘違いしてるぞ!」

 

 このままだと弁当も食べられそうにないので、俺は一から説明をするはめになった。

 どうにかこうにか納得はしてもらえたらしく、二人とも溜飲は下がったようだ。


 「とにかく、変なことはしてないし、変な関係でもない。二人ともに、特別変わった関係じゃないから」

 「……そう」

 「……ですね」

 「でも、変えてあげたいとは思ってる」

 「結城くん……?」

 「公平くん……?」

 「お節介かもしれないけど、二人には仲良くなってほしいし、もっと自信を持ってほしい」

 「そうなると、結城くんは喜ぶ?」

 「そうすれば、公平くんは喜びますか?」

 「まぁ、喜ぶと思う」


 そのときには、俺の入る隙間はなくなってそうだな、なんて考えてたら、二人して口を開いたのだ。


 「でも、どうすればいいか分からないから、あなたが私を変えて」

 「でも、どうすればいいか分からないから、あなたがわたしを変えてください」

 「変わりたいって気があるのなら、俺は手伝うよ。二人の、友達として」


 俺の言葉に、二人とも力強く頷いてみせたのだった。

 似た者同士だから、きっとうまくいくはず。

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