ばったり


 「あっ」

 

 翌日のこと。

 昇降口で靴を履き替えたところで、彩華の姿があった。

 よかった。昨日はあんなに取り乱してたから心配だったけど、来てくれてるな。


 「彩華、おはよう」

 「公平くんっ、おはようございます……あと、昨日はすみませんでした」

 「あぁ、気にしてないからいいぞ」


 口ではそんなことを言ったものの、気になる感触もあった。

 自然と視線が下がり、ブラウス越しの胸元に目が行ってしまう。手のひらにまだ感触がこびりついてる。めちゃくちゃ、柔らかかった。

 可愛らしいだけじゃなくて、巨乳の持ち主でもあるという、彩華のポテンシャルは計り知れないものがあるな。

 

 「どうかしましたか?」

 「いや、なんでもない。ほら、教室行くか」

 「……そうですね」


 なんだか寂しげな顔をしている。まぁ、おおかた察しはつくが。

 俺と彩華はクラスが別だ。だから、顔を合わせる機会がほとんどない。

 こっちとしても残念だけど、こればかりは仕方がないんだよな。


 少しでも気を盛り上げようと話しかけながら、二人して教室前までたどり着いた。

 と、そこにも見知った顔がいるのに俺は気づいた。


 「あ、音無さん、おはよ」

 「…………!」


 背後から声をかけると身体をビクつかせる彼女。

 それからおそるおそるといった感じで振り返ってきて、なぜか彩華の方へ視線(たぶん見てる)を向けた。

 彩華も同じように音無さんへ視線を向けて、


 「…………」

 「…………」


 どちらも黙りこくっていた。

 あぁ、そういえば二人が顔を合わせるのは初めてだったな。

 いや、待てよ? もしかしたら音無さんとも仲良くなれるかもしれない。それで、彩華に新しい友達ができれば、昨日みたく取り乱すこともなくなるだろう。友達は多いに越したことはないからな。

 俺はそう考え、場を繋ぐ意味もこめて、紹介をすることに。


 「えっと、音無さん。こっちは支倉彩華、隣のクラスの女の子だよ。で、彩華。こちらは音無紬季さん、ウチのクラスで、俺の隣の席の子なんだ」

 「…………」

 「…………」

 「あ、あれ?」


 なんで黙ったままなんだよ。

 ともすればにらめっこでもしてるのかと思えるぐらい、お互いを見つめ合っている二人。

 なにかシンパシーのようなものを感じてるのだろうか? 言っちゃなんだが二人とも、人付き合いが苦手だからな。


 「――結城くん、もしかしてこの人と付き合ってるの?」

 「――公平くん、もしかしてこの人と付き合ってるんですか?」

 「え?」


 二人して同時にハモったんだが。

 しかも言ってることが同じだし。


 「い、いや、友達、と、クラスメイト、だけど……」

 「「そうですか」」


 またハモった。

 というより、心なしかバチバチしてる気が。

 二人の雰囲気にじゃっかん気圧されていると、先に動きを見せたのは彩華だった。


 「公平くん、あの、今日のお昼、一緒に食べませんか?」

 「えっ?」

 「お昼ご飯を一緒に食べるの、憧れてるんです」

 「そういえば、書いてあった気がする、な」

 

 手帳の内容を思い起こしていると、ふいにグイっと袖が引かれた。見れば目の前に音無さんが。

 口元が少し、震えている。


 「……私と、一緒に」

 「音無さん?」

 「お昼、食べて……?」

 「誘ってくれてるの?」

 「…………っ」


 俺の言葉に頷いてみせる音無さん。

 彼女なりのせいいっぱいの勇気だったのだろう。こんなの、断れるはずもない。


 「じゃあさ、三人で食べるか。二人とも、それでいいよな?」

 「…………っ」

 「…………っ」


 なんだろうな、ちょっと不服そうに感じるんだが。

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