幼馴染みからの電話


 「なんか、どっと疲れが……」


 彩華の家をあとにした俺は、まっすぐに自宅へと帰ってきた。

 部屋へと転がり込み、ベッドへダイブする。


 「にしても、あんなに思い詰められるとはな」

 

 友達への憧れが強い彼女だったから、関係が壊れてしまった時の恐怖もまた一段と強いのかもしれない。

 あのあとも、三十分ぐらい、ひたすら背中を撫でさすって、言葉で安心させてたな。

 ひとまずは大丈夫だろうが、明日ちゃんと学校に来るかが心配だ。

 

 「ん?」


 またポケットが震えている。電話だ。取り出すと、美友からだった。

 そういえばさっき切ってたな。すっかり頭から抜け落ちてた。


 「もしもし」

 『なに勝手に切ってんのよ――!』

 「…………っ」


 うるせぇ、開口一番に耳元で叫ぶなよ。

 キンキンする頭を抑えながら、俺はイヤそうな声を上げる。


 「で、なんか用か?」

 『あんた今日も底辺のやつと帰ったってほんとなの?』

 「は、なに言ってんだお前」

 『廊下で叫んでたって聞いたんだけど。なんでも、地味女と友達になったとか』

 「おい、言い方に気をつけろよ。地味女でも底辺でもなくて、いろ……支倉さんだ」

 『どうでもいいわよ名前なんて』


 コイツ、ほんと可愛くないな。

 内心でイラっとしていると、美友が呆れたように口を開いた。


 『あのさぁ、あたしの立場も考えてくんない?』

 「は? なんで俺がお前の立場を考えなきゃいけないんだよ」

 『仲いい子たちにはさ、あんたとあたしが幼馴染みだってバレてんの。だから、あんたが底辺なんかとつるんでると、間接的にあたしの株も下がるわけ。分かる?』

 「分かんねーよ。俺がどこで誰と仲良くしようと、勝手だろ」

 

 自分のことばっかだなコイツ。

 もうめんどくさいので切るべきか迷っていると、会話を振られてしまった。


 『どうして言うこと聞いてくれないの?』

 「お前は俺の母親か。自分のことは自分で決める」

 『……昔みたいに弱いやつの味方じゃこのさきやってけないのよ。みんなどこかの集団に属してる。あたしだってそう』

 「余計なお世話だ。俺はそんなしがらみに捕らわれたくないんだよ。それに、知り合った子はみんないい子だから、悪口言われてると腹立つ」

 『……あっ、そう。じゃあ、もういいわ』

 「話は終わりか? 切るぞ」

 『――バカっ! 人の気も知らないで!』


 あ、切られた。

 スマホをベッドに放り投げ、俺も一緒に横になる。


 「昔はこんなじゃなかったんだけどな……」


 いっつも俺の後ろにくっついてきて、おどおどしてて、優しかった。

 そんな美友がいつのまにやらあんなに横暴に。いったいどこで間違えたんだろうな……。

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