帰り道


 「…………」

 「…………」


 慌てて学校をあとにした俺たちは、二人並んで歩いていた。

 沈黙が痛いものの、正直何を話せばいいのか分からないのである。支倉さんはもともと引っ込み思案なタイプだから、先に口を開いてはくれないだろう。

 俺が、頑張って盛り上げないとな。


 「支倉さんはさ、趣味とかあるか?」

 「本を読んだり、とかです」

 「そっか。俺もだいたい同じようなもんかな」

 「そうなんですね」

 「…………」

 「…………」


 会話が続かないな。なんか俺まで口下手になってしまった気がする。

 横を歩く支倉さんをチラ見してみると、でも、かすかに笑っているように見えた。

 メガネを外した姿を想像したら、だんだんとドキドキしてくる。顔には出ないよう表情を引き締め、その理由を訊ねてみた。


 「なんか嬉しいことでもあった?」

 「あ、いえ、その……誰かと、結城くんと帰れるのが嬉しくて」

 「そんなの、予定が合えばいつでも」

 「ほんとですか……?」

 「友達なんだし、当たり前だろ」

 「……夢みたいです」


 大げさだなと思うけど、彼女にとっては大きな一歩だったんだろう。

 そしてその一歩を一緒に踏み出せているのが俺だと思うと、無性に優越感を感じる。

 緩んだ頬を見られないよう、顔を逸らすと、声が流れてきた。


 「……結城くんは、こんなわたしにも優しいですよね。理由でも、あるんですか?」

 「んーなんか、ほっとけないっていうか。困ってるやつを見たら手を貸したくなるって言うか」


 それはたぶん、昔の出来事が尾を引いてるのだろう。

 アイツはもう、ひとりで大丈夫だってのに。俺は全く変われてないんだよな。

 まぁ、今回みたいなことがあったから、悪いことでもないんだけど。


 「素敵な理由ですね……」

 「変わってるとか思わないのか?」

 「わたしも、変わってますから」

 「俺にはそうは見えないけどな」

 「友達、いませんから」

 「俺がいるだろ?」

 「そうですね……。なら、わたし、変わり者を卒業できたんですね」

 

 自分の言葉におかしさを感じたのか、支倉さんはそう言って小さく笑ってみせた。

 釣られて俺も笑ってしまう。ほんとにこの時間が心地よくて、もっと身を委ねてしまいたくなる。

 いつの間にか、さっきまでの口下手な感じは鳴りを潜め、自然な会話が出来ていた。


 「あの」

 「ん、どうしたんだ?」

 「……わたしの家、ここの近くなんです」

 「あ、なら、家まで送ってくよ。名残惜しいけど」

 「……名残惜しい……」


 小さくぼやく支倉さんと連れ立って、俺は彼女の家を目指すことにした。

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