教室での出来事
「…………」
授業中なのに、全く集中できない。完全にうわのそらだ。
それもこれも、先ほど受けた衝撃がまだ、頭を麻痺させているからだろう。
『ぐすっ……わたし、もう少ししたら戻ります。こんな顔じゃ、戻れませんから』
『……え? あ、あぁ』
彼女の言葉に一拍置いて返事を返したのは、仕方のないことだ。
心臓がうるさいぐらいドキドキして、まともに考えるだけの思考力が残ってなかったのだから。
そのぐらい、見惚れてしまうぐらい、支倉さんは美少女だった。
ビン底メガネの奥底にこんな素顔を備えているとか、いったい誰が想像できるだろう。
割と長くやり取りしてた俺ですら知らなかったのだから、ほかのやつらなんか考えもしなかったはず。
というか、なんであんなにも可愛らしい子が、カーストの最底辺なんかに……メガネを取れば一瞬で……いや、彼女の性格的にそうできないから、そうならざるを得なかったのかもしれないが。
「――次、ここのところを結城くん、読んで」
「――あぇ?」
ハッとして顔を上げると、先生が俺に注目をしていた。どうやら、当てられてしまったらしい。
ヤバい、全く聞いてなかった。どうすればいいだろう。
じんわりと背中に冷や汗をかいていたら、隣からかすかに物音が聞こえてくる。
チラッとだけ振り返れば、音無さんがイラだった様子で教科書を叩いて……いや、待てよ?
よく見ると文章のあるとこを指してる。もしかしたら、ここから読めってことなんじゃ……。
藁にもすがる思いで俺はそこを読んだ。
「はい、そこまでで大丈夫です」
どうやら、俺の判断は間違ってなかったらしい。生きた心地がしなかったとばかりに息を吐き、隣を振り返った。
「…………」
相変わらず表情の見えない音無さんは、すでに自分の世界に入ってるらしかった。
邪魔になるとは思うが、せめてお礼だけは言っておきたい。
「あの、音無さん、助け舟出してくれてありがとな」
「…………」
言葉にしてはこなかったが、小さく頭を下げたのは分かった。
よし、反応がある。だったらもう一声、いけるかもしれない。
「今度なにかお礼させてくれ」
「…………!」
二言目は想定してなかったのか、ビクッと身体を震わせた。それからブンブンと首を振られる。
「俺がしたいからするだけだから、遠慮しないでくれ」
「…………」
三言目はもう反応すらなかったけど、なんとなく嫌がってるようにはみえない。まぁ、俺の主観ではあるんだが。
さて、こういうときのお礼はあんまり高くない方が受け取ってもらえそうだし、購買にあるパンとかがよさそうかな。
「…………」
「ん?」
ふいに視線を感じ、そっちを振り向くと、美友がこっちを見ていた。
目が合うとあからさまに目つきを鋭くしてくる。アイツは相変わらず、不機嫌そうだな。
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