ビン底メガネの支倉さん
教室を出て、トイレのある方へ視線をやると、これまた見知った顔があった。
向こうも俺に気付いたのか、駆け寄ってこようとして――思いっきりずっこけた。
「お、おい……! 大丈夫か?」
「うぅ……」
派手な音がしたし、相当な衝撃だったはずだ。
腕を掴み、起こしてやると案の定、ひざを擦りむいたらしかった。じんわりと血がにじみ出している。
肘とかにも鬱血があるし、これは痛そうだ。
早いとこ保健室に連れて行かないと。
「歩けそうか? なんだったら、肩貸すぞ」
「だ、大丈夫です……」
「そっか、なら」
「――ぷっ、どんくさ」
「きゃはははっ、ホントそれ」
「……っ!」
顔を上げれば、いかにもチャラそうな女子二人がこっちを見て笑っていた。助け起こそうという気は微塵もないらしく、そのまま歩き去っていく。
その様子に俺が声を荒げようとした瞬間、目の前にいた彼女が、
「気にしないでください。ほんとのことなので」
少し寂しげな声音でいう彼女に、どうしようもない気持ちがあふれてくる。
もう慣れてしまっているのかもしれない。そういう扱いを受けるのを。
彼女――
たまたま同じ委員会に所属してた彼女が困ってた際に声をかけたことで、仲良くなったのだ。
支倉さんはあまり快活なタイプではない。むしろ陰で周りを傍観しているような、引っ込み思案な女の子だ。
同情、という意味合いも最初はあっての声かけだったが、いざ話してみると心地よさを覚えてしまってる自分がいた。
特に好きなことになるとテンションが上がるのか、雰囲気が明るくなり、身振り手振りも交えたりする。
その感じを出せばだれとでも仲良くなれそうなものなのに、彼女には友達がいなかった。
曰く、最初の一歩を踏み出すのが怖いとのこと。
それがずるずると続いてしまっていたから、いまのようにクラスメイトとの壁、ひいては厄介者扱いにつながっているのだろう。
なんとかしてあげたいとは思うものの、余計なおせっかいにならないだろうか?
……俺も、一歩を踏み出すのを、躊躇ってしまってるな。
「あの、どうかしたんですか……?」
「え、」
いつのまにやら顔が下がってたらしい。見上げた先で、彼女と目が合った。
と言っても、彼女のかけているビン底メガネのせいで表情がよく分からない。困っているのか、悲しんでいるのか。
でも、心配してくれてるんだろうというのだけは、すぐに理解できた。
「あぁ、大丈夫だ。ちょっと、昔のことを思い出してて」
「そうなんですね……、いたっ」
「あ、悪い! 早く保健室に行かなきゃな」
ここで話をしてる間に傷が悪化でもしたら大変だ。
俺は支倉さんの腕を肩に回し、急ぎ気味に保健室へ向かうことにした。
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