第9話 捜査本部

 ココは可愛いキツネのアップリケの付いたエプロンをして広場に設置されたテーブルの間を行き交っていた。

 ショートの髪を上の方でツインにしたココは実際よりも幼く見え、周りのロリ心を刺激していた。

「ココちゃん。こっちに追加。」

「こっちにも追加。」

 あちこちのテーブルからお呼びが掛かっていた。

 おっさんの屋台はいつもの倍以上のペースで売れていた。


「あの無表情でここまで人気が出るとは恐るべしロリフェイス。」


 朝の分として用意していた材料を使い切ったので、おっちゃんは売り切れの札を出して片付け始めた。


「おおいココ。片付けるぞ。思ったより売れたからバイト代はずんでやるぞ。」


 屋台の屋根の上で日向ぼっこしていたルビンは大きく欠伸をすると、屋根から飛び降りた。


「にゃーにゃにゃにゃにゃ(俺様にバイト代は?)」

 招き猫として働いていたと主張してみたが、無視された。


 さて、これからどうするか。ココは(実はルビンも)ノープランだった。





 その頃捜査課では会議が開かれていた。

「ここに『勇者殺人事件捜査本部』の開設を宣言する。」

「課長、まだ殺人と断定してないのですが。」

「こまけぇこたぁいいんだよ。捜査本部を作って事件を解決する。それが俺たちの存在意義だろう。死亡事件じゃ箔がつかねぇんだよ。殺人事件じゃないといけねぇんだよ。」

 課長のゴリ押しで殺人事件として捜査することになった。


「ゴロー現状報告をたのむ。」

「はい。現場は『ホテルキングダム』。各国の要人も泊まる老舗ホテルです。

 事件が起きたのは本日早朝。

 被害者は『ナイン=J シマムラ』。

 年齢27。

 シャイナー教団により推薦され、聖光教に認定された『勇者』です。」

 ゴローは間をとって会場を見渡した。


「第一発見者は『アリサ=フランクリン』ホテルの客室係。注文されたミルクを部屋に届けた際に発見。このミルクは勇者の従者『ココ』により注文された物です。

 従者ココは現在行方不明。宿泊者名簿にはココとしか書かれておらず、係累不明です。重要参考人として指名手配いたしました。」


「現場状況は?」

「はい。部屋には争った後はなく、凶器等の遺留品もありませんでした。また、魔術残滓もありませんでしたので、魔術の行使も無かったものと思われます。」


「遺体の状況は?」

「検死前に教会の者に引き取られた為、詳しい状態は分かりませんが、心臓部にポカリと穴が空いたようになっていて、それ以外には特に損傷は見られませんでした。」

「となると、犯人は一撃で心臓を貫きくり抜いて持ち去ったという事か。」

「勇者の肉体強度を考えると、それを出来る者は相当限られます。」

「魔族や魔人が行ったという事はあり得ないか。」

「可能性は無いわけではありませんが、ホテルのセキュリティを掻い潜って侵入するのは難しいですね。ふつうに考えて勇者は薬を盛られて意識不明だったのでは無いかと思います。」


「ココの行方、手掛かりは?」

「ホテルのフロントと警備員が旧貴族街の方へ歩いて行くそれらしい姿を見たと。また、ベルデン様のお屋敷の側で蹲っていたのを保護され警邏隊の詰所に連れてこられた少女がどうもココらしいと言うことです。」

「それで今はどこにいるんだ?」

「それが、取り逃してしまったとのことです。」

「何をやっているんだ。警邏課の課長を呼べ。」

 捜査課長は苛立たしげに地団駄踏んだ。


 課長の発言を無視してゴローは続けた。

「現在はホテル従業員と周辺の聞き込みを行なっております。また、シャイナー教団に渉外部を通してアポイントを取っているところです。」


「そう言えば、勇者の持ち物は確認したか?」

「はい、勇者、従者双方の遺留品は第一保管庫に全て置いてあります。今鑑識係がチェックしております。」


「あと、冒険者お臨時的に雇い入れココの探索をさせております。また、警邏課にも協力を依頼しました。

ホテル従業員に聞き取りして似顔絵作成しましたので各々に配ってあります。」


「追加情報ですが、先程第一発見者として名前を出したアリサですが、本人の申し出で探索者として協力してもらっております。」


 会議は続いたが、大した発言もなく結局現状確認で終わった。

 出来たばかりの警察組織では誰も彼もが経験不足であった。

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