第7話 腹ペコには勝てない

 警察組織は作られたばかりで完全に稼働している状況ではなかった。しかし、捜査課は捜査課の警邏課は警邏課の仕事はきちんとやっていた。ただ、横の連絡が悪かった。情報の共有が為されていればその後の経過は違ったかもしれない。


ボルグ達は近辺を探し回ったが、結局ココを見つけることが出来なかった。

その日の日誌には、名前不明、年齢不明、身元不明、性別不明と書くしかなかった。[14歳前後の女性。ショートヘア。特徴無口無表情半眼。]と但し書き付きだった。



 捜査課では事件の取り扱いを決めかねていた。殺人事件とすべきか殺人以外の何らかの原因で亡くなった勇者の心臓を持ち去った死体損壊事件なのか。

 いずれにしろ、カギを握るのは姿をくらませた従者ココだ。

 ココを重要参考人として指名手配された。

 



 ココは屋台の前で釘付けになっていた。香ばしいバンズを焼く匂い。ベーコンを焼くジューという音と食欲をそそる匂い。サクサク野菜を切るリズミカルな音。魅了されてしまっていた。

「行くぞ」

「うん…」

生返事だけ返して動こうとはしなかった。


「お嬢さん。食いたいのか?お金は持ってないのか?見たところ浮浪児でもないようだけど、お金落としちゃったのかい?」

 屋台のおっちゃんが見るに見かねて声を掛けてきた。

「うちでバイトするなら食わしてやるよ。もうじき客が増えるから手伝ってくれ。まずは忙しくなる前にこれ食っちまってくれ。」

 ココは受け取った瞬間に齧り付いた。

「うま〜。」

「やっと喋ったな。名前はなんていうんだ。」

「ココ」

 うっかり慣れ親しんだ名前を名乗ってしまった。言ってしまってからまずいと思ったが、今更ごまかせなかった。

 それから暫くは冗談抜きで忙しい時間を過ごした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る