第4話 彷徨うココ

 ココは途方に暮れていた。

(これが見つかったらまずい。)

 そう思って持ち出したものの、これをどうすればいいのか全く考え付かなかった。

(今から戻っても言い訳できない。)

 どこに向かえば良いのかも思い浮かばなかった。


 ココは勇者に恨みがあったが、恩もあった。ココは魔族の娘だった。勇者が大魔王を討伐した時に、決戦場所だった鬼岩城で保護された。決戦の後、鬼族の国はヒトの兵達に蹂躙された。鬼族の王と眷属は大魔王とその随員として来ていたココ親子等を放置して逃げてしまった。父とは逃げる途中ではぐれてしまい、彷徨っていたところを勇者に保護されたのだった。

 おそらく、あの時勇者に合わなければヒト族の兵士に殺されたか、慰み者になっていたかもしれない。そもそも勇者が大魔王を殺さなければこんな事にならなかったのにとも思うが、仕方のなかったことだとも思う。

 自国に帰るすべを持たなかったココは勇者について行く事になり、いつしか勇者の従者となっていた。


 ヒト族に擬態する為にココはルビックという魔道具を使った。お父さんはアーティファクトと言っていたけど何が違うのかわからなかった。


 ヒト族と魔族の違い。それは魔力器官を持っているか持っていないかだ。魔力器官によって能力として魔術を使うのが魔族。ヒトは魔力器官を持たないので契約魔術を使う。

 契約魔術とは神の使徒や精霊と契約して魔法現象を起こしてもらう事だ。稀に契約無しに魔術を使える者が現れるが、この者は魔法使いと呼ばれる。地域によって神のように崇められるところもあれば魔族扱いされるところもある。

 ヒト族は魔族が紛れ込む事を避ける為、辻々に魔力反応機を設けた。これにより魔族が街に入り込むとすぐわかるようにした。

 ルビックはこれに反応しなくする為のものだ。正確に言うと対象の魔力器官を封印して普通のヒトにしてしまう道具だ。当然の事ながら魔術は使えなくなる。





 途方に暮れたココは道端に座り込んだ。

 その時頭上から声がかかった。

「お前そこで何をしている。」

 顔を上げるとそこには若い兵士が立っていた。制服を着ているが、装備を持ってないところを見ると文官なのか出勤途中なのだろう。

「酔っ払っているわけではなさそうだな。怪しいやつだ。詰所に来てもらおうか。」


 このまま詰所に行ったら捕まってしまう。だけど行くところもない。ココは黙ってついて行くしかなかった。

 

 

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