第3話 シャイナー教団

 結局ガリウスは強引に勇者の遺体を引き取って行った。

 勇者はシャイナー教団の所属でありその遺体はシャイナー教団の所有物だというのである。

 シャイナー教団は勇者の力を背景に横暴な態度をとることもあるが、魔族や魔物の脅威からヒトを守っているのも事実であった。

 シャイナー教団の教団本部はエルトニア半島の根本付近エタリア国にある。エタリア国は100年戦争の際、ヒト族が魔族に対し反攻の狼煙を上げた場所として知られるアルバ砦のある国でもある。最初の10年で大陸の端まで追い詰められたヒト族は90年かけて魔族を大陸から追い出したのだった。その間に10人の勇者が現れそして散っていった。その勇者全てにシャイナー教団は関わっていた。

 シャイナー教団の創始者アルバは最初の勇者として魔王直属の部隊を打ち破り、魔王軍を撤退させた。その偉業により砦の名前にアルバと付けられることになった。

 そして勇者の力は神の眷属である"シャイナー"により与えられたものであり、ヒトが滅びずにすんだのは全てシャイナーのおかげであるとアルバはヒト族に教えたのだった。




 勇者に関することはいままでも治外法権となっており、シャイナー教団の言う通りに事は進められることとなる。ゴローにはどうしようも無かった。


 捜査部の面々が到着した時には勇者の遺体は持ち去られた後だったので、状況確認と聞き込みしかすることがなかった。


「あなたが第一発見者の方ですね。お名前と職業、発見した時の状況を教えて下さい。」

「はい。私はアリサと申します。当ホテルの客室係をやっております。

 勇者様に朝のミルクをお届けにお伺いした所、ドアが開いており、勇者様がベッドに倒れて居るのが見えました。

 助けられるものなら助けようと近づいてみたのですが既に事切れておりました。

 部屋は一切触っておりません。ご覧の通りキチンと片付いておりました。」


「他に何か気づいたことはありますか?それと従者の方がおられるはずですが、何処に行ったのか心当たりはありますか?」

「はい。私がお部屋へ来た時にはココさんは居られませんでした。ミルクを注文したのだから私がココに来るのは分かっていたはずなのでおかしいなと思います。誰かに連れ去られたのでは無いか心配ですが、争ったあともないですし、居ない理由が分かりません。」


「なるほど。」

 ゴローはアリサの言っている事に矛盾は無いし嘘は言っていないだろうと思ったが、何かを敢えて伝えていない気がした。あくまでも勘に過ぎないのだが。


「他に気づいた事は有りませんか。」

「……特に有りません。」

 アリサはちょっと考えるフリをして答えた。


 その後従業員や宿泊客に聞き込みをしたが、解決に繋がるものは無かった。

 

「とにかく従者のココを探すしか無いか。」

 ゴローはそう結論を出し、現場を撤収する事にした。





 アリサはホテルの仕事を辞した。勇者が居ないのではホテルに居ても仕方がない。

(でもあのゴローって刑事、風采が上がらない感じだけど何か鋭さを隠しているようで、なんとなく好みだわ。)

 と、割とどうでもいい事を考えながら一方で途切れた糸を繋ぐには、ココを探すしか無いと今後の行動指針を決めたのだった。



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