おわり

 体育祭は無事に終わり、僕達のブロックは下から二番目と言う残念な結果に終わった。

 約束していた場所で待っていた。空は白奈さんに預けておいた。


「ま、待たせた」


「あー大丈夫。予定時間、まだ五分あるから」


「そう、だね?」


 紅い髪の毛を揺らしながら真剣な眼差しを向けて来る。

 そして、口をゆっくりと動かしながら今までの事を謝罪して来た。

 何をして来たのか、具体的に。


「さっきも言いましたが、別に問題ないですよ。全て不発に終わってますし⋯⋯何よりも、日頃の方が恐ろしいから、さ。だから大丈夫」


「だけど、それだと、アタシの」


「ん〜面倒臭いですね」


「⋯⋯へ?」


「いやー別に僕自身が問題ないって言ってるんだから、それで良いじゃないですか。ズルズル引き摺る方が面倒だよ。開き直って、楽しく生きましょうや」


「⋯⋯でも、それでも、⋯⋯分かった。開き直ってみる。だけど、アタシはこの思いを晴らす為に、貴方に尽くす。それがアタシの謝罪の気持ち。何かあったら頼って欲しい」


「はは。君のような女の子に頼る程、弱い人間じゃないよ」


 それだけ言い残した。


 そしてそれから時間は進み、弓道の大会の日となった。

 一年は参加出来ず、ただの見学である。

 杉浦先輩を僕は見ていた。そこで思ったのが、緊張している。

 弓道において、いや勿論他にもだが、緊張したり、焦ったりしたら、その時点で負けだ。


 練習のような結果が出せず、四本中三本に成ってしまった。

 それでも当てている方だろうが、焦りは射型にしっかり出ている。

 そして、日頃完璧を目指していた人が、一つでもミスが続けば、焦りは加速して余計に上手く出来ない。

 それがどんどん積み重なっていけば、当然結果は決まっている。


 長い時間と思われた大会の時間が一瞬で終わりを告げた感じがした。

 解散後、一人に成った杉浦先輩の元に向かっていた。

 缶コーヒーを差し出す。


「お疲れ様でした」


「⋯⋯はは。負けちゃった」


「そうですね」


 悲しい事に、こんな時に僕はなんて声を掛ければ良いのか分からないで居た。

 一人にするのも重要だと思うが、まずは溜まりに溜まった物を吐き出させるべきだろう。

 彼女が人一倍練習して来た事を、誰よりも知って理解した筈だから。


「まぁ、メインとして参加した最初の大会で緊張し過ぎましたね」


「はは。ズバリ言うね」


「今度からは緊張しない練習でもしますか」


「それは、良いね」


「杉浦先輩」


「何かな」


「言いたい事、なんでも言ってください。ここには、ボッチしか居ませんよ」


「⋯⋯私、頑張ったよね」


「はい」


「頑張った。なのに、負けちゃった。凄い頑張ったのに。ダメだったよ。凄い。悲しい。辛い」


 それからは数分間、ボソボソと話してくれる。涙を流しながら。

 僕は黙って、それを聞いて受け止めた。


「ふぅ。ありがと。⋯⋯今度は絶対に勝つ」


「そうですね。見せてください。杉浦先輩が勝つその瞬間を」


 僕は立ち上がり、杉浦先輩の前に立つ。


「その瞬間を見るまで、僕は貴女の傍に居ますよ。傍で貴女を見てます。勝つ、その瞬間までずっと傍に居ます」


「⋯⋯ふぇ?! ず、ずっとて、え、ちょ、ま、え」


「ま、それも杉浦先輩が部活に居る間ですけどね⋯⋯って、聞いてます?」


 顔が真っ赤でボーっとしている。

 目の前で手をフルフルしても目が動く気配が無い。

 何を考えているのか分からないが、このまま放置も出来ない。

 コーヒーもすっかり温く成ったし、新しいのを自販機で買った。

 冷たいのを頬に引っ付ける。


「ひゃい!」


 意識が覚醒した様なので、解散とした。


 家に帰ると、夏休みと言う事で泊まりに来ている空と白奈さんがジャンケンをしていた。


「なーにしてんだあんたらは」


「どっちが天音君と」


「お兄ちゃんと」


「「寝るか勝負」」


「おい待て。僕の意見を反応させろ。まず白奈さんは有り得ん」


「負け確じゃんか! チャンスを、チャンスをー!」


「何するか分からんから嫌だ」


 親が帰って来る前に三人で晩御飯を終わらせて、夜遅くに僕は目が覚めた。

 その後も中々寝れなかったので、夜風に当たりにベランダに出た。

 その時にベットに転がっていた空が手を伸ばした。


「ちょっと夜風に当たって来る。寝ててくれ」


「むにゃぁ」


 猫のように鳴き、コロりと反対に転がって眠った。

 その事に小さく笑みを浮かべて、僕はベランダに今度こそ出た。


「あれ、天音君?」


「げ」


「げって酷いぞ〜」


 人差し指で僕を指しながら、不貞腐れながらそう言って来る。


「ねぇ天音君」


「なんだ」


「月が綺麗だね」


「そうだな」


「⋯⋯私は、今でも天音君が好きだよ」


「僕は君の事が苦手だ」


「そっか。でも、絶対に振り向かせてみせる。今は無理でも、必ずね」


「無理だな」


「どうだろうねぇ〜。人の心は変わるんだよ。私の様にね」


「そうかい」


「私は天音君、君の事を愛している。だから、諦めない」


「⋯⋯ふん。勝手にしてくれ」


「うん! 勝手にしますよーだ! いずれ、絶対に天音君が私に向かって、好きだって言わせてみせる!」

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中学に告白を断った陰キャ眼鏡が銀髪超絶美少女に成って義妹に成った〜僕を惚れさせる為に色々と色仕掛けして来るが、逆効果だと何時気づくのか?〜 ネリムZ @NerimuZ

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