第5話 和馬と手をつないで帰る

 修学旅行から帰った翌日、和馬を待ち伏せして一緒に帰った。告白してきた椎名の事も気になっていて、同室だった和馬がどうしていたのかも訊いてみたかった。

「修学旅行は、楽しかった?うちのクラスの椎名って知ってるでしょ、確か同じ部屋だったよね。わたしね、その子から告白されちゃった!」と切り出すと、和馬は驚きを隠せずに、

「告白って?付き合うってこと?それで、何て返事したの?」といつになく真剣だった。

「もちろん、その時は断ったけど、和馬はどう思う?」

「椎名は止めた方がいいよ!」と和馬が言う理由は分かっていたが、わざと知らない振りをして、

「どうして?何かあった?」と意地悪に問い質した。純情な和馬は、口を閉ざしてしまった。


 夏奈と和馬は肩を並べ、団地まで一緒に帰っていた。夏奈は旅行中に亜季と千晴から聞いた話に刺激を受け、和馬に探りを入れていた。椎名から告白された事を話したのは、和馬がどう反応するかを確かめたかったからだ。小さい頃から自分に従順で、内気な性格もよく知っているが故の事だった。


夏休み以来、ぼくと夏奈は変に意識し合っていて、お互いの部屋に行く事もなくなっていた。もし、二人切りになったら、歯止めが効かなくなるような気がしていた。それも、僕に勇気があったならばの話だが、そんな妄想をしながら歩いていると、

「修学旅行の夜、女の子たちが部屋に行ったでしょ。あの子たち、わたしたちの部屋の子なんだよね。話によると、電気を消して遊んでたんだって?」と切り出され、夏奈は全て知っていたのだと思った。

「女の子の胸に触ったのって、和くんじゃないよね。だって、前科があるから…」

「夏ちゃん以外の子に、そんな事しないよ!それに、椎名が計画して、やばいなと思って止めたんだ」と事の次第をむきになって語った。そして、電気を点けたのは自分だと白状した。


 足取りが重たそうな和馬に、手をつなごうと言い出したのは夏奈だった。それに対して和馬は嫌がる素振りも見せず、差し伸べられた手をすんなりと受け止めていた。二人が手をつなぐのは小学生以来で、

「和くんの手、大きいね。小学生の頃は同じくらいだったのに、今は大きくてごつごつしてる」と言われて照れ臭く、和馬は「ずっとこうしたかった」とは言えなかった。


 和馬と付き合ってみようと思い、わたしから手をつないだ。すでに胸に触られているが、亜季たちの話の順序からすると、手をつないで歩いてキスをしてからでないといけない。その先の事は分からないが、和馬とならばキスをしてみたいと思っていた。

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