第4話 修学旅行での突然の告白に戸惑う

 保津川ほつがわを半分降った辺りで飽きてきて、一番後ろの席でぼーっとしていた。他の五人も退屈そうに、周りの景色を眺めていた。そこへ、椎名しいな敏矢としやが話し掛けてきた。

「二宮、暇そうだな。俺もじっとしてるのが退屈で、横に座って良い?」

「うん、いいけど…」と返事をすると、狭い座席に肩と膝をくっつけるように座ってきた。椎名とはこれまでにあまり話した事がなく、どうした風の吹き回しだろうと困惑した。

「二宮は、付き合ってる人とかいるの?」と訊かれ、またこの言葉に振り回される自分がいた。

「そんなのいる訳ないじゃん。まだ中二だよ。椎名はいるんでしょ。何でそんな事を訊くの?」

「二宮のことが、いいなとずっと思っていて。俺と付き合わない?」

わたしは椎名の突然の告白に戸惑い、昨夜の女子トークを思い出していた。告白して交際して、手をつないでキスをして、触れ合ってエッチするなんて、今のわたしにはとても無理だと思った。「受験があるから」と受け流すと、椎名は「受験が終わったら、また告白する」と引かなかった。


 修学旅行の二日目は班別研修で、夏奈たちの班は嵐山に来ていた。天龍寺を拝観し、トロッコ列車で亀岡駅に行き、そこから保津川下りを楽しんだ。渡月橋とげつきょうまでの2時間、半分を過ぎた頃に椎名敏矢が夏奈の横に来て話し掛けてきた。椎名はサッカー部でやんちゃな所があり、女子の間で人気があった。


 夏奈が、椎名君と肩を寄せ合って話している。二人はそんなに仲が良かったのか、何を話しているのか気になった。椎名君はもてるはずだし、先輩の彼女と一緒にいる所を目撃した事もあった。夏奈は昨夜の様子では初心そうだったが、あの桜庭和馬との関係も気になる。「二人は経験があるの?」と訊かれた時には驚いた。さらに、「千晴はないよね」と言われ、ばれていなかった事にホッとした。わたしは告白されて付き合ってもいないのに、キスとエッチは経験済みだった。亜季はどうなのか分からないが、わたしは男女の関係については誰よりも進んでいると思う。


 二日目の晩、夏奈たちが部屋に戻ると、例の男子の部屋に行った三人が、昨夜の報告をし合っていた。

「誰かが電気を消して真っ暗でさ、どさくさに紛れておっぱい触られちゃった」

「うそ、やだ!そう言えば、葉月は布団の中に潜ってたけど、誰と何してたの?」

「椎名とキスした。あいつ、いきなり布団に引っ張り込んで、抱き付いて来たんだよ」

「それで、その後はどうしたの?エッチした?」

「まさか、してないよ。キスしただけ。そしたら、誰かが電気を付けたんだよね」

「そう、そう、あれは隣のクラスの桜庭って子だよ。真面目ぶってて、周りが読めないんだよね」と三人の話はそこで終わったが、夏奈は話の中に椎名と桜庭が登場したのに驚いていた。


 わたしは三人の痴話話を聞くともなく聞いて、椎名の軽率さにあきれたのと同時に、和馬の真面目さに安堵した。例の三人が部屋を出て行ってから唐突に、

「今日さ、椎名に告白されちゃった」とわたしが言うと、亜季と千晴は同時に「えーっ!」と大きな声を上げて驚いていた。それからは三人で、椎名の節度がない行動を蔑んだ。

「私は元々、椎名君と一緒の班は嫌だったんだ。普段から大人アピールしてて、自分のタイプの女子には媚びを売って、そうでない女子は冷たくあしらう所が気に入らない」と亜季が言うと、

「葉月がキスしたとか言ってたけど、やれれば誰でも良いんだよ」と千晴が椎名を責め立てた。

「キスって、口と口をくっ付けるんでしょ!気持ち悪いよね」とわたしが返すと、

「皆がしたがるって事は、気持ちいいんじゃないの?」と千晴が投げやりにつぶやいた。さらにわたしが、

「セックスって、どうやってするの?赤ちゃんができるんだよね」と無知さをアピールすると、

「夏奈もその内にしたくなるんじゃない?」と亜季が何を思ったのか、キスやセックスのやり方を千晴を相手に身振り手振りを交えて教えてくれた。

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