第6話 那津との出会い④

「え?輪切り?デカイ!」

敦人が指さして驚いているのを見て、那津はニッコリと微笑む。

「先生、その輪切りの魚が鯉ですよ。鯉こくは鯉を味噌で煮たものです。」


那津にすすめられ、頂きますと手を合わせた後、神妙な顔をした敦人が鯉こくに箸をつけた。一口パクリと食べてみる。箸を持ったまま那津は敦人の様子を目で追っていた。

「先生どうです?」

「うーん、ん?ん!泥臭いかなと思ってたんですがそんなことないですね。美味しい!僕は実は切り身だと思ってたので、輪切りっていうのがホントびっくりしました。」

敦人は先程の微妙な顔つきから一度に幸せそうな顔になった。


敦人がパクパクと食べるのを見て那津も食べ始めた。

「この料理の野菜は那津さんが作ったんですか?」

「ええ、裏庭に自分の食べる分だけの畑があるんです。」

「そうなんですか、だからすごく美味しいんですね。普段の畑は何を作ってるんてすか?」

「カブですよ。このあたりはカブの名産地なんです。」

敦人は、そういえば教え子の保護者にもカブ農家が何人かいた事を思い出した。


「カブが名産なんですか?国道沿いにいちご農園の看板をいくつか見たのでいちごが名産なのかと思ってました。さすが那津さんは地元の方だから詳しいですね。」

敦人はモゴモゴと口を動かしながらも手を休めない。

「私、地元の人じゃないんです。中学の時に母が付き合ってた人について此処に来たんです。そうだ、利根川を渡ったあたりはナマズも有名なんですよ。」


ナマズ!敦人はうわあ、とのけぞった。那津はその様子をクスクスと笑って見ていた。

「私もナマズは食べたことがないです。」

「じゃあ、いつか一緒に食べに行きましょう。」

敦人は人の良い笑みを浮かべて小指を那津の前に立てた。那津は少し戸惑いを見せたが敦人の小指に自分の小指を絡めた。


敦人は那津の手料理を完食。

「ホント、ごちそうさまでした。」

「いえいえ、お粗末でした。」

那津に玄関先まで見送られて敦人は車を出した。敦人は暗い夜道を那津との楽しいひとときを思い出しながら家路についた。


 次の日の夜、敦人は仕事を終えて駐車場に向かった。車に乗り込むとすぐスマホを取り出し、那津にラインでメッセージを送った。

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