第5話 那津との出会い③

この辺りでは鯉を食べるんだ…

「鯉こくって食べたことがないんです。どんな料理でしょう?」

「食べたことがないなら是非食べてください。」

「では、学校が終わったら寄らせてもらいます。」

敦人が返事を打つと、「お待ちしています」と今度は猫が笑いながら頭をペコリと下げるスタンプが送られてきた。

那津さんは猫派なんだな。

敦人はクスリと笑った。


 6時をまわった頃、敦人は那津の家に着いた。チャイムが鳴ると那津はすぐ玄関を開けて顔をのぞかせた。今日は顔色が良いようだ。

「先生、お疲れなのにお呼び立てしてごめんなさい。お家の方、ご飯を待っておられますよね?」

「あ、いえいえ、僕、独りなので誰も待ってないんですよ。気にしないでください。」

敦人は申し訳なさそうに謝る那津の頭を上げさせた。

「え?そうなんですか?じゃあこの時間ですし良かったらご飯食べて行ってください。」


今度は敦人が遠慮がちに答えた。

「でも、ご主人がおられるのに僕が上がっちゃマズいですよね。」

敦人の言葉を聞くと那津は目を伏せて自虐的な笑いをもらした。

「フフ、一度しか会ったことのないダンナさんですし、ここには一度も来たことがないんです。昨日のお礼にご飯をごちそうするだけのこと。全然大丈夫。気にしないでください。」

那津の言葉を聞くも敦人はためらった。しかし台所から漂ってくる味噌の甘辛い匂いについ心がなびいてしまった。

「じゃあ、少しだけ。」

と言った途端にググッ、と敦人のお腹が鳴った。


那津に手招きされ、遠慮しながら敦人はちゃぶ台の前に座った。ちゃぶ台には肉じゃがとキャベツの炒めもの、そして味噌の香りを漂わせたお椀を那津が運んできた。

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