第7話【重なる偶然】

店を出ると、朝より少し強くなった太陽が目を眩ませる。

まだスーツのジャケットを脱ぐほどではないが、その季節もそう遠くないことを実感する。駅に向かい歩き始めたところで、また偶然が重なる。

「あ、西野君」

「え?あ、斎藤さん」

「一日に二回も会うとは面白いね」

「本当ですね、斎藤さんもこの時間の電車なんですね。」

「うん、考えてみたらそうよね、同じ会社に向かうわけだし。」

そう言って笑う斎藤さんの顔からは、少しの気まずさが消えていた。僕は少しほっとする。

「じゃあ、向かいましょうか。」

「うん。」


駅に向かう道中、喫茶店の話や、仕事のことを話した。爽やかな陽気も手伝って、穏やかで、暖かな時間だ。

駅に着き電車を待つ、あと5分で到着予定だ。ふと斎藤さんに目をやると少し肌寒そうに手を揉んでいた。

「すいません、ちょっと離れます。」

「ん?うん?」

僕は自販機に向かいコーヒーとココアを買った、まだ4月だから温かいもちゃんとあった。自販機から斎藤さんの場所へ戻る。

「斎藤さん、コーヒーとココアどちらがいいですか?」

「へ?」

「少し寒そうだったので、飲まなくても手を温めるのに使ってください。」

「あ、ありがとう。じゃあココア頂こうかな。」

ココアを手渡すと、斎藤さんは温かいとつぶやき、ありがとうと僕に言った。

「ポテトサラダのお礼です、お返しとしては安すぎますが。」

「そんなことないよ!嬉しいよ!」

斎藤さんの慌てっぷりに顔を見合わせ、少し吹き出す。そして時刻通りにきた電車に二人で乗り込み、会社へと向かった。

会社の前に着くと田中さんがちょうど着いたようだった。

「お!二人ともおはよう!」

挨拶を交わし三人で社内へ入る、そして研修が行われる会議室へ入り、着席し、上司の到着を待つ。すると田中さんが話を始める。

「二人とも今日の夜は大丈夫だよな?」

僕と斎藤さんが大丈夫だと伝えると、田中さんは続ける。

「店は駅前の居酒屋を予約しておいたから、終わったらそのまま向かうってことで、まぁ明日も仕事だし、軽めにってことで。」


仕事終わりの親睦会が少し楽しみで、今日も頑張ろうって思えた。

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